第一歩 プロローグ
「ん、ここ、何処だ?」
中学三年生、現在青春猛進中の紅 蓮が起きたその場所は何も無い真っ白な世界だった。
空も白く、地面も白く、地平線が何処にあるのかも分からない方向感覚を失いそうになる場所。
自分が立っているのが地面なのか、壁なのか、空なのか、それすらも自信が無くなりそうなくらい不安になる場所。
そんな白の世界に歪みができ、1人の女性が出てくる。
「初めましてクレナイさん」
「女神様、か?」
その白色の服と光り輝く錫杖からこの場に最も適している形容詞を選び取る。
「その通りです。さて突然ですがクレナイさんにあるお願いがあります」
「戦争で大量に人を殺すのをやめろ、か? 言っておくがそれは俺一人でどうにかできる問題ではないぞ」
相手が言いそうな言葉を先に予測しようと試みる。
「いいえ、それではありません。それに人間の争いに私たちが手を貸すことはありません。あくまで人間では対処できない問題だけ。それとどうしてそこまで警戒しているのですか?」
不思議そうに女神が首を傾ける。
「起きたら突然こんな所にいたんだ、警戒くらいするだろう。それにこれが夢ならいいが、敵対勢力に攫われたっていう可能性も無くはない」
「確かにあなたを攫う価値はあるかもしれませんが、夢だと思わないので?」
「夢にしては情報量が多すぎる」
自分の手を、足を、体を、様々な物に目を向ける。
「匂いも味もあることは分かった。細かいところまで見ることが出来る。俺の脳1つで再現できるようなレベルじゃない。だいたいこんな論理的なことを夢の中で考えられるはずがない」
夢とは脳が寝てる間、ごちゃごちゃしている記憶整理する時の断片を見ているだけだからだ。
そしてその証明を聞いた女神は雰囲気を変える。
「そうですね。確かに警戒されるのも仕方がありませんね。でもあなたを拘束してはいませんし、監禁もしていません。味方はともかく敵ではないと信じていただけませんか?」
全く表情が変わらない女神に蓮は溜息をつきつつ言葉を返す。
「突然知らない場所、方向感覚を失いそうな所に連れてきて、帰る方法が見つからないだけで拘束も閉じ込めてもないから監禁ではないってことか?」
「本当に慎重なのですね」
「在り方の問題だよ。こうしていつも気を張っていないと大切なものを失ってしまう。今はそんな世界なんだから」
「そうですね。ではこうしましょう」
と、女神が錫杖を地面に突き立てる。
瞬きの後にはマンションの一室、蓮の自室へと2人は転移している。
蓮は自分の机からノートを引っ張り出し、くるくる回るタイプの椅子に座り、ようやく女神に向き直る。
「さて、話を聞こうか」
はぁ、と天才に翻弄された女神が疲れたような声を出しながら口を開く。
そこからの説明は女神らしく宗教的な言い回しが多かったので蓮の要約を聞く。
「つまり魔王が召喚させられそうだから俺に力を与えて仲間とともに異世界に送る。ということか」
「その通りです」
いくつか聞きたいことがあるな。
と、ノートに図解まで書き込んだ優等生さん。
「何故向こうの世界ではなくこちらの世界なのか。何故仲間とともにという条件付きなのか。だな」
「何故自分なのか、は聞かないんですね」
いつの間にかベッドに座っていた女神がいつもは聞かれていたのにとでも言いたげな顔で蓮に聞く。
「どうせこの世界にいる戦えそうな奴をいくつかピックアップしてその中から無作為に選んだんだろ。くじ引きの結果、俺が選ばれたってだけで、俺じゃなきゃならない理由なんてないんだ。聞く必要なんかない」
「そこまで分かってるなら他の疑問にもある程度の解答をつけてる気がするのですが」
「あくまで予測に過ぎないんだよ」
クルクルと右手でペンを回しながら語る。
「1つ目の質問は、契約や取引関連で嫌な相手というのは話が通じないという1点に尽きる。向こうじゃ崇められすぎて話が通じないんじゃないか?」
「その通りです」
「仲間を連れてくって言うのはぼっちに対する精神攻撃か、心細さを解消するためじゃないか?」
「寂しさ対策であってますよ」
「ぼっち対策じゃないんだな」
「友達を作ることが出来ないくらいヒキニートを拗らせた子は対象に入れてませんから。少なくとも1人はいるはずですよ」
すまない友達0のヒキニート共、どうやら貴様に異世界転移の権利は無いようだ。
と、ノートに書き記し、話を進める。
「それじゃ、連れてくのは葵にして今から行くのか?」
「即決ですか。というか貴方には仲のいい男友達がいたはずですが」
「なんで野郎と異世界で旅をしないと行けないんだよ。ここは女の子と旅するルート一択だろ?」
何を当たり前なことに疑問を持っているんだ? という顔に汚物を見る目を向けそうになる女神だが人を超越した精神力で堪える。
「分かりました。では呼んできて貰えますか? こちらも準備をしたいので」
「分かった」
蓮が部屋を出て行く、
「あ、トイレは玄関の傍だから」
「必要ないですからさっさと行ってきてください!」
顔を真っ赤にした女神にイタズラを楽しむ悪ガキの笑顔を無料でプレゼントしながら隣の葵の部屋に向かう。
このマンションは蓮と葵が通う国立中学校の寮である。
蓮は隣の部屋の扉をノックする。
「葵、起きてるか?」
「あ、蓮くん。今行きますね」
中から女子らしき声が聞こえて扉が開き、ぐちゃぐちゃの室内から何やら棒のような物が倒れてきて、蓮の意識を奪った。
これは[魔王勇者の無双の旅]の世界でのストーリーです。
[魔王勇者の無双の旅]を読まなくても楽しめる話にしたので別でも投稿してみました。
魔王勇者の無双の旅
も同じ世界観での話なのでぜひそちらもお読みください。
魔王勇者の無双の旅
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