第二十七歩 魔王城
おそらく大勢で頑張って作ったのだろう。
『大勢ではなく魔王一人によって作られたのかしら』
その言葉に部屋の位置を紙に書いていた三人がダンタリオンに注目する。
ついでにさっきから一言も話していないナイナはアオイの後ろで静かに待機してる。
「つか、嘘だよな。これを一人で作るとかどんだけこだわりを持った職人なんだよ。というか普通にサグラダ・ファミリアくらい時間かかりそうなんだけど」
『神話の世界の能力なら二日で作れるのよ』
「ほんと、なんでもありだよな」
神様やっぱすげー、とその神様を殺したレンが呻く。
「二人が悩んでいるんだったら私が先に決めますね」
と言ってアオイがさっさと印をつけてしまう。アオイがつけた印は名前が入っている向日葵だ。場所は真ん中の部屋だ。
じゃあ俺も、とレンもアオイの隣の部屋、書庫側の部屋に印をつける。
「うーむ、そこを選んだのか」
『何をごちゃごちゃ悩んでいるのかしら。決断力の欠ける男はモテないのよ』
さっきから思考が無限ループしてるライトに痺れを切らしてダンタリオンがライトと自分の場所を書き入れてしまう。
「あー、何やってんだよ。まだ悩んでたのに」
『遅すぎるのかしら。それに住めば都と言うのよ』
泣き崩れる、とまではいかないにしても少し悲しそうなライトを放っといてダンタリオンの言う通り自分の部屋を自分色に染め上げに行く。
「では私はここを」
全員が書き終わったのを確認してナイナがアオイのレンとは反対側の隣に自分の名前を書き込む。
「なぁ、ナイナはどうしてアオイに懐いているんだ?」
「懐く、というのとは少し違いますね」
あれしきのショックで地面に突っ伏したヒーローはうつ伏せのまま顔だけをナイナの方に向ける。
「私は絶望的な状況からアオイ様に救われここにいる。だから私はアオイ様を信じる。きっとアオイ様の道の先には幸せが待っているから」
「(なんだ、あいつもヒーローやってるじゃねぇか)」
ナイナに聞こえない程度の声でつぶやく。
「それに、今のあなたみたいにクソダサくて頼り甲斐がないチンカス野郎とは違いますから。では、失礼します」
いつも固定の表情をほんのちょっとだけ笑顔にして、とても美しく、汚い言葉を放つ。その後表情を戻してスっとお辞儀し、自分の部屋に歩いていく。
「なんでここには強い奴しかいねぇのかなぁ。俺の活躍ないんじゃねぇか?」
まぁ異世界は弱肉強食だからね。諦めるか覚悟を決めるかの2択なんだよ。
「よし、それじゃあ俺も部屋を見に」
『行く前に腹ごしらえかしら』
ダンタリオンにセリフを奪われ、せっかく立った足を曲げてもう一度座り込む、ライト。
『ポーチから銃を出したり、お茶を入れたりと、雑用できちんと活躍できてたかしら。よしよしなのよ』
あまりの悲壮感にダンタリオンでも慰めたくなるほどだが、幼女に慰められるというのは軍人としてちょっと泣きたくなるほど惨めなものである。
「というかもう部屋の模様替えは済んだのか?」
『あらかた私物を運び込んで置いただけかしら。今は女の子の匂いがホコリの匂いを上書きするのを待つだけなのよ』
「その匂い全部吸い込んでやろうか」
『やってみるのよ。どうせ黒騎士に往復ビンタされて終わりなのよ』
「ふ、やってみなくちゃわかんねぇだろうがよ」
うおりゃぁぁぁぁ、とダンタリオンの部屋に侵入してダンタリオンの忠告通り黒騎士に往復ビンタされて追い出される。
「おお、やってるなあ、ライト」
「女の子の部屋に入るなんてデリカシーがないですよ」
「くそ、味方が一人もいねぇ」
『当たり前かしら」
くすくすと笑うダンタリオンを連れてナイナが作っていてくれた料理を食べに行く。
今回は話し合いながら食べる予定なのでサンドイッチだ。
『それでこれからどうするのかしら』
「俺は王都で遊ぼうと思ってる。騎士団長とかいうやつに新人教育をしてほしいんだとよ。なんでもどこかの誰かが騎士団をつぶしたせいで足りてねぇんだとよ」
そのどこかの誰かがそっぽを向く。
『弱いのが悪いのかしら』
「厳しすぎますね」
とりあえずライトの行動計画に異議がないみたいなので話を進める。
それと今更だが、この計画発表は日本にいた時からやっているもので、ここできちんと計画を立てることで停滞を防ぐのだ。
「俺はこの国や周辺の国のことを調べようかな。来てすぐにいろいろあったせいで調べる暇がなかったからな」
「私はここの本を見ておきたいですね。これだけ知識があればなんとかなりそうですし」
「知識だけのやつは使えねぇっていう常識を壊しにくるなぁ」
三人の中で唯一普通の脳を持っているライトが呻くがそんなものに今更リアクションをとる必要もないのでさっさと行動を始める。
「と、いうわけでその王都に来たのはいいけど、娯楽少なくねぇか?」
王都にきてすぐに娯楽を探しに来たバカがわめいてるがそれに応えてくれるレンはここにきていない。
「さてどうすっかなぁ」
なんとなくおいしそうな匂いに釣られて屋台で焼き鳥のようなものを買う。