第二十一歩 魔王勇者
「とはいっても神様と同じだけの英雄的行動をした存在なんてほとんどいない。でも勝手に彼らの生きてきた時間を書き換えるのはフィクションになってしまうからできない。じゃあどうすればいいと思う?」
神様以外で英雄的活躍は望めない、かといって捏造はできない。
「となると答えは一つ。神様が今生きている俺たちに干渉して流れを変えればいい」
「大正解!]
ピンポンピンポーンと口ずさみながら補足説明を加える。
「今を生きる君たちに試練を与え、それを突破する過程を神話として残す。それが私たちの目的だよ」
「それで、俺が魔王になったのも試練だと?」
「いいや、それはプレゼントだよ」
部屋の隅に飾ってあった剣と盾を持った勇者のぬいぐるみと、角が生え、マントを装備した魔王のぬいぐるみを持つ
「勇者だって、魔王だって神から力をもらった神の使徒。だからどちらもある程度は強い。でも所詮神の作ったもので神には遠く及ばない。私たちの強さを100とした時、彼らの力は10くらいしかないんからね。だから」
勇者と魔王の人形を持ったまま両手を合わせる。
「2つの力を1人に渡すことにしたんだよ」
両手を開くとそこには角を持ち、聖剣と盾を持った人形が1つある。
「魔王勇者って私が名ずけた。それが君だよ、クレナイくん」
魔王勇者を模したぬいぐるみをレンに渡してそう言う。
「なるほど、よくわかった。これは、魔王勇者は、お前らにとって道化なんだ」
言い切る。しかし直ぐに首を横に振って訂正する。
「違うな。笑わせようとしてるんじゃなくて笑われているだけだから愚者か」
「まあ、その辺の定義は哲学大好きな君たちに決めてもらうとして、これからどうするんだい?」
「いいとも、お前らの道化になってやるよ。試練でもなんでも好きにしたらいい」
しかし、いいようにやられているだけじゃない。
「その交換条件としてこっちにも協力してもらおうか」
「協力?」
「そっちを楽しませるんだ対価を要求してもいいだろう?」
さすがの鬼神でも驚きを隠せない。しかしすぐに笑い出し、いつもの余裕を持ったサリアに戻る。
「さすがは『資本主義』。労働にはそれ相応の価値を支払わなけりゃいけないか。そうだね、その通りだ。それで、何を望むんだい?」
「主神を殺す権利、それが欲しい」
「主神を殺す?」
「ああ」
ここが正念場だと、気を引き締めて人外に言葉をぶつける。
「俺がたどり着きたい場所は主神の先にあるからな」
「だから主神と戦えるようにして欲しいということかい?」
「そういうことだ」
「いいよ」
一切悩まず、何をするかわからないが、面白いことになると、この停滞し目新しさがなくなった神話の世界をぶち壊してくれると信じて受け入れる。
「ただ君の目指している場所はどこなのか、聞かしてもらってもいいかい?」
「運命とかいうものを決めているこの世界の作者をぶん殴って俺がそこに座る」
「自分の運命は変えることができるよ?」
「俺じゃない。アオイに関係する者の運命を書き換えたいんだ」
「人の運命を勝手に書き換えようってこと? 随分と傲慢なんだね」
「アオイを幸せにするためだよ」
アオイを幸せにする方法として一生寄り添うのではなく、遠いところからアオイの運命を書き換える方法を取ることを最善だと考えている。そんな異端の人間をやはり面白いと思う。
「(私たちと出会わなかったら、神の存在を確認できていなかったら、どんな方法で幸せにしたんだろうね)』
もしかして未来予知で私たちと出会うこともわかってたのかなぁ、と聞こえないように小声でつぶやく。
そんなことに施行のリソースを割きながら片手間で魔方陣を操る。
「君に主神と戦う機会を用意するよう私の運命に刻み込んでおく」
「運命ってそうやって変えるものなのか?」
「まあ、裏技みたいなもんだけどね。これで君が過去に戻ってやり直したりしても何かしらの理由で魔王勇者に選ばれて君を主神に会わせるよ」
そんな言葉を聞いて今度はレンが笑う。
「俺はタイムマシンなんて作らないよ」
「作れないよって言わないところが普通とはずれてるんだよ。それに君が未来から来たんじゃないかなって思うこともあるから一応だよ」
完全に人外扱いされて面白くない天才様。
「まあいいや。それで、ここには扉がないみたいけどどうやって帰ればいいんだ」
「この扉を使うんだよ」
そういって壁に現れたのは天使やら悪魔やらの彫刻が施された扉で、その扉をサリアがキラキラした目で見せてくるのを見てようやく気付く。
「もしかして中二病?」
「失礼な! この世のカッコイイを探求しているだけだよ」
今までの言動もどうだったかなあ、と考えながら扉をくぐる。
「まずはフレード王国との戦争、楽しみだね」
くぐり抜ける途中で話しかけられる。
その返事は置いていく。
「争うことで俺たち人間に敵うやつはいないよ」
「期待してるよ。神託とかで私たちも戦争に介入するからね」
悲惨な筈の戦争を楽しむと言っている神に複雑な感情を抱きながら扉を閉める。
「ほんとーに期待してるよ」




