第十四歩 ダンタリオン
「さて、とりあえずその書庫に行ってみるか」
「怪我は大丈夫そうですか?」
つい先程まで切断面を晒していた腕をグルングルンと回してみるが違和感はない。
「大丈夫そうだな」
「なら良かったです。それとナイナはこの屋敷の安全確認に行っています」
「んー、まぁそのうち会えるだろ」
ナイナを探すのは後回しにし、魔王と勇者の違いというものの答えを優先する。
「もし、呼び名以外で違いがあるのなら先に知っておきたい」
「勇者は光の力を持っていて、魔王は闇ではないですか?」
ゲームやマンガで詰め込んだ知識から予測をつける。
ただ、現実世界はゲームのようにキッパリと善悪が別れている訳では無い。
「光の力、闇の力、もしそういうものがあったとしてもどうして国が片方しか支援しないのかが気になる。両方とも強い力ならどちらも取り込んでしまえばいいのに」
「魔神の使徒は殺すべきだ!、みたいな思想があるんじゃないですか?」
「魔神の使徒を浄化する、とかの大義名分を掲げて捕まえたあと持ってる能力を剥がしとったり、解剖したりしそうだけどな」
人間が拷問を受けたり、解剖されるシーンを想像してすごく嫌そうな表情をうかべる。
可哀想に、アオイの頭からその記憶が消えることは一生ないだろう。
その後もごちゃごちゃした雑談をしながら歩いてると目的の書庫についていた。
「そして扉には人形と本を持った悪魔が彫られてる。随分と凝ってるな」
「この人形、あの子の鎧に似てますけどね」
装飾された扉を開けると膨大な本と、それらから漂う本の匂いが溢れてきた。
「本当にここの司書なんだな」
「よく浮きながら本なんて読めますね」
「まぁ酔わないみたいだし大丈夫だろ」
先程の少女はぷかぷか浮きながら本を読んでいるが、アオイは興味が無いのか近くの本を読み漁り始める。
ただ、レンは本よりも先に少女の元に向かう。
そして近くにあった本のタイトルに目を向けて表紙を開く。
「さっきの質問の答えだけど」
『もう分かったのかしら』
「魔王と勇者の性質の違いとそれによる人間側の対応の違い。なんて言うタイトルの分かりやすい本の近くで浮いておきながらよく言えるね」
気まずそうな顔をしながら少女が睨む。
「魔王は周りの空間やエネルギー、部下や人形など、何かを支配し、自分の思いどうりに動かすことで戦う」
魔王とはこの世の全てを支配下に置く王なのだから。
「勇者は力や人の思い、仲間を敵の元まで導く、先導者。仲間と共に戦うことで膨大な力を持つ魔王に対抗する」
勇者とは仲間の代表として勇気を出し、最初の1歩を踏み出す役目だから。
「まぁ、人間ってのは支配者ほど他人に支配されるのを嫌がるからな。この国の王様が魔王の元に着くことを良しとしないのはわかる」
本を閉じ少女は真剣な顔で話を聞く。
「じゃあ、俺はどっちなんだ?」
城であった少女の勇者はたくさんの仲間と、多くの騎士と話をし、仲間としてまとまっていた。
「仲間と呼べる者を殺し、ここまで来た俺は勇者と言えるのか?」
その質問は自分の存在意義について考え出した弱小なる人間の質問ではない。
ただ、人間としての価値観を持っていないものに、自分の在り方の感想を聞いてるだけだ。
『太陽は道を照らし、人々を導き、恵みを与える。しかし周りの星をその手で掴み、圧倒的なまでの重力で近くに押さえつけ、近づくものを燃やし尽くす無慈悲な存在でもある』
それは太陽が豊穣や恵みだけでなく、無慈悲という意味を持つことの理由。
『恵みを与える無慈悲なるもの。それが太陽なら、お前も勇者か魔王のどちらかなんて悩む必要なんてないのかしら』
それは魔王と勇者という相反する2つの性質を同時に有していてもいいでは無いかという考え方。
それはレンと同じ考えでもある。
「そうだな。その通りだ」
『そんな簡単に答えを他者に委ねるのだとしたらお前は随分と流されやすい人間なのよ』
「流されはしないよ。ただ人の意見が正しいと思ったらそっちを優先するだけ」
『それを人は流されやすいと言うのよ』
「そうだな。ただ、」
そこで少女の目をしっかりと見据えて自分の覚悟を確認する意味もこめてしっかりと断言する。
「俺は今歩いているこの道からは絶対に逸れない」
少女はそんなレンの目に覚悟を見つける。
『芯だけはしっかりしている面白いやつかしら』
本を閉じ、地面へと降り立つ。
『ダンタリオン』
「なんだ?」
『私の名前なのよ。その少ししか入らない脳みそで頑張って覚えるのよ』
それだけ言ってぷいっと書庫の奥の方に歩いて言ってしまう。
「ダンタリオン。この世の全ての知識を持ち、それを人間に授けることが出来る悪魔、か。ここがダンタリオンの所有する書庫だとしたら体の1部を生やすなんて馬鹿げた本があるのも理解できるな」
アオイの元へと向かう途中で不思議なものを見つける。




