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第十二歩 『緑』

 この腕輪による転移は自分の触れているものを任意の場所に転移させるだけの能力ではない。

 正確には転移後の場所にある同体積、同型のものと交換しているだけである。

 例えば空気中なら空気と、水中なら水と、そして木なら自分と同じ形の木と入れ替わっているだけである。

 そしてそれを人体相手に行うとどうなるか。


「意外と気づかれないものだな」


 隠れた木から刀で開けた穴を通して男の位置を確認する。

 今まで以上に近く、そして把握するだけの時間はたっぷりとあった。

 既に再生が終わった左手を隠れている木に押し付け、転移させる。

 木が消えて転移するまでのラグの間に気づいた男が跳躍するが既に遅い。


 男の下半身が完全に抉りとられ、内蔵をさらけ出しながら地面へと落ちる。

 しかし腕の力を使ってまだ戦い続けようとする。


「もう眠れ。魔王の盾」


 レンが刀の先を胸に当てる。

 ほんの少し、レンが刀を差し込めば絶命する。

 しかし

 絶望、抱かず。疑問、生まれず。

 その目からは光が消えず、戦意に満ちている。

 そんな目に言い知れぬ不安を覚えたレンが刀を差し込もうとするが、「緑」がレンの腕を切り飛ばす方が早い。


「───ッ!」


 既に致命傷を負った男の息の根を止めるのを諦めて、「緑」から離れる。

 緑髪の老兵は黒髪の少女を左に抱えて、その「右腕」をレンに向ける。


「限界みたいだな」


 レンの考察通り、既に男は操るだけの体力を失っている。

 その傷口からは紅い液体が溢れ出し、地を紅く染めている。


「……ない」


 しかし、


「……すまない」


 それほど瀕死の状態になってもなお


「すまない、守り……きれなかった!」


 彼は、「緑」に向けて手を伸ばし、未だ諦めず、届かぬ想いに涙を流す。


「すまない、友……よ……」


 そして男は「緑」とともに地に伏し、完全に動かなくなる。

 しかし、レンも肩の切り口から大量の血を溢れさせる。


「レンくん!」


 アオイの声を聞きながらレンがゆっくりと倒れていく。


 次にレンが目を覚まし、目にしたのは見覚えのない天井、しかし病院やどこかの家には見えない飾り付けられた天井を眺めながら切り落とされた右肩を確認する。


「応急処置はされているのか」

「私が覚えている限りのことはしときましたよ」


 扉を開けてたくさんの本を抱えたアオイが入ってくる。


「それは?」

「ここの書庫から持ってきました。多分部位再生の技術があると思うんです」


 そんなことを言いながらペラペラと本をめくり始める。

 レンが辺りを見回してみるとそこは城の中の一室で、そこのベッドに寝かされているのだと気づく。

 そうして現状把握をしているうちに目的のものを見つけられたようでアオイが近くによってくる。


「これですね」

「何がだ?」

「レンくんの腕を生やす魔術書ですよ」


 とだけ言ってその本の朗読を始める。

 レンでは聞き取れないどこかの言語を使いながら詠唱する。

 そしてアオイが朗読を止めた頃、レンの右肩あたりの肉が蠢き、新たな腕を生やす。


「治った?」

「いえ、正確には腕を生やしたですね」


 アオイが言い換えるが違いが分からない。


「これは元々翼や尾を生やすためのものなんです。それを応用して腕を生やしたんですよ」


 つまり普通なら鳥の翼や猫の尾などを生やす魔法で人間の腕をレンの右肩に生やしたというのである。


「なるほどね。その本、ここの書庫から持ってきたって言ってたけど、書庫なんてあったのか?」


 その本の出処についての質問。

 それに応えたのはアオイではなく


『私の書庫から持ってきたのかしら』


 やまびこのような、反響しているような不思議な話し方。それは美しい銀色の髪を持つ少女だ。

 扉のドアノブよりも身長が低く、腕を必死に伸ばして扉を開けて入ってきたその少女はアオイが持ってきた本を抱えながらレンに目をやる。


『それが今代の勇者、随分と弱そうなのよ』

「なんで幼女がここに?」

  『なっ』


 先程まで重い雰囲気を纏っていた少女が突然怒り出す。



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