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第十一歩 盾の覚悟

 それはいくつものアクションゲームを同時にプレイすることよりも難しい。

 なぜなら


「それはバランスをとったり、呼吸したりすることを他人の体で同時に行うことであり、それは人形を操るでは無く、沢山の自分の体を同時に操るようなものだ」


 人間の脳というものは自分の体を動かすようにできている。

 もし、その脳を使って2つ以上の体を維持しようとするとパンクするだろう。


「それでいて、それぞれの動きを変えるだと? 化け物め」


 レンがそれだけの事をいつもの口調で吐き捨てると男は安堵の表情を浮かべる。


「ああ、ようやく理解してくれたようだね」


 どこからか、両刃の西洋剣を取り出して構える。


「人体の構造を完全に理解し、体が持つ力全てを使うことが出来れば」


 男の姿が掻き消え、レンの後ろに現れる。


「こうなる」


 その動作の間にレンの左手、手首から先が消滅。


「よく反応できたな」

「その感じだと直線しか無理そうだな」


 痛みに耐えつつもレンが分析する。

 前の勇者の能力か。その左手首からは既に骨が伸び始めており、肉も蠢き始めている。

 しかし完全に腕が治るのには数時間はかかりそうな速度だ。


「直線だけでなく曲げることぐらいは出来る」


 人間は壊れることを承知で動くのであれば尋常ではない速度で動くことも出来る。

 しかしそれを日頃からしないのは体に負担がかかるからと、それだけの動作を脳が処理しきれないからだ。

 しかし、いくつもの体を同時に動かせるほど処理能力の高い脳ならどうなるか。


「通常時での行動を全て同じように倍速以上で行うことが出来る。それだけだがシンプルな能力は時として複雑な能力よりも強くなる」

「それだけ体に負荷をかけて戦えるのか?」


 もっともなレンの意見。

 その回答は


「昔は盾役をやっていた。種族的なもので細身ではあるが耐久には自信がある。盾役と言えど鈍重ではないぞ」


 盾役と言えど鈍重ではない。その言葉に男の全てが詰まっているような、そんな感覚を覚える。

 つまりはそれだけの事なのだ。

 盾役を任され、しかし素早く動く剣士に憧れ。

 その結果として素早く動き、敵を倒す盾となったのだからそこまで極めるのにどれだけの努力があったのだろう。


「行くぞ」


 盾も剣も担った頃の気持ちは未だに消えず、1人で城を守り続けている。

 だが覚悟の強さで言えばレンも普通とは違う。

 そして1人でもない


「アオイ!」


 レンの呼びかけに応じてアオイが矢を放つ。

 それは寸分の狂いもなく男に向かうが


「必中の弓でも矢を叩き落とされると意味がなくなる」


 その光り輝く矢は男の前で切り捨てられる。


「いや、意味ならあるさ」


 しかし切られた途端、その矢が閃光と共に爆風を撒き散らす。


「ふん」


 しかしそれによって巻き上がった砂埃はすぐさま振り払われる。

 だがレンは先程の場所には居らず、既に視界の外まで移動している。


「なるほど。煙幕か」


 動いたレンを探そうと男が動くが、即座に次の矢が飛んできてその動きを止める。

 避けても追尾し、防いでも爆風を撒き散らす厄介な矢。

 その射線に重ならないように動きつつ殺すための準備を行う。


 そして男が飛んできた矢を防いだ瞬間を狙って今まで行ってきた準備を全て使う。

 結果として起こったのは膨大な質量を持つものたちの落下。

 それは周りに生えていた森の木々である。

 煙幕で狙いが逸れることを考慮し、あえて直撃ではなく上に飛ばした森の木々は男を押し潰そうと落下を始める。

 しかしその程度で潰されるようでは魔王城の守り人として生きてけない。

 その足を最大限に利用して落下する巨木の上を飛び渡ることで下敷きから逃れようとする。


「この程度か? 期待外れだな」


 そして全ての巨木を渡りきり、木の山に立つ。

 これこそが彼を魔王の守り人とする力である。

 だがそんな守り人も木の中に入り込んだレンには気づけない。

 この腕輪による転移は自分の触れているものを任意の場所に転移させるだけの能力ではない。

 正確には転移後の場所にある同体積、同型のものと交換しているだけである。

 例えば空気中なら空気と、水中なら水と、そして木なら自分と同じ形の木と入れ替わっているだけである。

 そしてそれを人体相手に行うとどうなるか。


「意外と気づかれないものだな」



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