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第八歩 金色の

「何か違うんですか?」

「生きようとしているかどうか」


 後ろを歩いている少女の顔を見る。


「死を受け入れているものは死を前にして生きることをやめる。死を覚悟しているものは死を前にしてその先に進む」

「前者は自殺のようなものですか?」

「そう、でも違いがあるといってもすぐに変えられる程度の違いだよ」


 その少女の目を見てレンが断言する。


「死を恐れないのならあとは簡単。生きようという気持ちを持たすだけでいい。そうすれば」


 アオイの盾として活躍してくれる。

 という言葉を飲み込み、レンが一度口を閉じる。


「生きる望みを持たせるのは簡単ですからね」

「ああ、死を恐れないようにするのは骨が折れるが、生きようとさせるだけなら簡単だ。軍人のカウンセラーなんてそんな仕事だしな」


 死の隣を延々と歩き続けるような仕事を繰り返していると、人を殺す仕事ばかりをこなしていると、人間は自分自身が生きることに価値を見いだせなくなる。

 地獄のような戦場で、自分は生きてやると思えるのは選ばれた勇者だけだ。


「カウンセラーの真似事をする目処は立っているんですか?」


 既に馬車を預けた宿に着き、借りた部屋へと移動する。


「そうだなぁ。基本的に生きる意味を見失うか、価値観やプライドを粉々に砕かれるかのどっちかだからなぁ」


 人間はネガティブになると自分は生きてていいのか自問自答する時がある。

 その結果として誰か一緒にいてくれる他人が居たものは生きようとし、誰もいないと思い込んでいるものは生きることを駄目なことだと思い込み始める。

 しかし


「生きる意味を見失うことについては完全に人間の価値観の話であって人間以外の種族もそうとは限らない。獣は仲間全員が殺されても1匹で逃げてどうにか生きようとする。決して自殺しようとはしない」

「人間と同じように知恵を持っていてもこの子がそう考えるかどうか分からないってことですか?」

「そうだ。人間とは根本的な価値観自体が違う可能性もあるからな」


 ただ、と言葉を繋げつつ少女の髪に触れる。


「まずは色を元に戻してあげないとな」

「色、ですか?」

「これ染めてあるんだよ。多分肌も、もしかしたら目も染めてあるのかもしれない」

「えっ、でも紫の月光族って言ってましたよね」

「普通の牛を黒くして黒毛和牛なんて言うようなものだ。色を変えただけで高くなるんだからな」

「でもすぐバレますよね」

「ならこの子が月光族では無いのに月光族と同じような能力を持っていたら?」


 それは黒毛和牛と同じ肉を持つ普通の牛であり、それの見た目までを同じにしてしまえば


「見分けがつきませんね」

「そういう事だ」


 アオイが悲しそうな目で少女を見る。


「髪や肌は何とかなりそうですが、目は戻せそうにないですね」

「いや、魔法を使えば何とかなるだろう。色を変えるのに魔法を使ったのなら魔法で戻せるはずだ」


 窓の外、空の様子を見る。


「まだ明るいですから魔法の使い方の本でも探しに行きますか?」

「ここは商人が集まる街だけどそう、都合のいいものは無いだろうな」

「そう、ですか」


 悔しそうに言うアオイを見てレンが思い出す。


「そういえばアオイって天使と同じスキルを貰ったはずなんだよな」

「あ、天使の力を使えば戻せるかもしれませんね」

「これが状態異常と同じ扱いならいけるかもな」

「といっても使い方は全くわかりませんが」


 うーん、と2人して腕を組んで考える。

 そんな話の間でも邪魔をせずに静かに少女は待機する。


「まあ、とりあえず祈ればいいんじゃないの? 天使なんだし」

「そうですね。とりあえず祈ってみます」


 アオイが跪いて両手を合わせて神へと祈るような姿をとる。

 しかし祈る相手は自分であり、その先にいるレンである。

 そしてその祈りは光となって少女の姿を包む。


「出来ちゃいましたね」

「感覚は覚えたか?」

「はい、不思議な感じですけど使えそうですね」


 2人の前にいたのは紫の少女ではなく綺麗な金髪と青い目を持ったエルフだった。


「ああ、やっぱりいい目をしてる。よろしく、ナイナ」

「よろしくです」


 本当の姿を取り戻した少女、エルフはナイナという名前を貰い、改めてレンたちの配下へと加わる。

 美しい目を持つものは自分の姿が変わったことに驚く。しかし深呼吸一つで落ち着きを取り戻す。


「私の全てを取り戻してくださりありがとうございます」


 今まで人形のように着いてくるだけだったナイナは初めて感情を持って行動する。


「おそらく呪いと呼ばれるものだと思うのですが、それらは全て消しておきました」

「ありがとうアオイ。さて、これでお前の体、ついでに壊れた心まで治ったようだ。そしてお前に頼みたいことはひとつだけ。お前を救った天使、アオイの護衛だ」


 疑問の声を一切上げず、自分の意思でレンの話を静かに聞く。

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