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第七幕:二人の戦い

「きゃぁ」

「うぁぁ」

衝撃によって、子ども達が船内の壁とガラスに打ち付けられる。


「ぐあっ」

レイジも同じように壁にぶつかる。直前に後頭部を手で抱えて頭を守った。


「何が起きた……大丈夫か!?」

子ども達に声を掛けるが、拘束されて無防備な状態だった子ども達の何人かは気を失っている状態だ。


 レイジが駆け寄って状態を確かめる。

「うぅん」

「はぁ……はぁ……」

「……」

意識はないが息をしている子どもを見てレイジは少し安心をするが、アル一人だけが息をしていない。


「アル!」

「……」

レイジは腕を触るが脈も感じられない。


「これを使って!」

いつの間にか船内入り口に立っていたハジメが、箱のようなものを投げて渡す。

「AED。箱を空けたら指示が出るからあなたでも使える。」


 レイジの返事を待たずにハジメは続ける。

「警察がこの船に攻撃をしかけた。包囲網も狭まってる。運転席にいる奴が自爆を考えてもおかしくないから、私はそっちをやる!」


 そういって踵を返す。

「……分かった」

レイジは箱を開けて心肺蘇生の準備を始めた――。


ーーーーーーーーーーーーーー


 ハジメはすぐに運転席に到着した。シートに座っていた男も立ち上がりハジメに相対する。ひょろりと背の高い男。高速艇はオートクルーズモートに設定されているようだ。


 男はハジメと数歩の距離まで近づいて問いかける。

「警察……じゃないのか?」

「……私は……違う」

ハジメは様子を伺いながら答えた。


「まぁ、今更どうでもいいんだけどな」

「……この船は既に囲まれてて、逃げ場はない……」


「分かってるさ……。捕まったらどんな扱いを受けるか分かったもんじゃない。最後にあいつらの船にぶつけて、一隻ぐらい道連れに自爆してやるさ」

男はニヤリと薄気味悪く笑う。


(現状なら、この船がぶつかれなければ自爆装置は起動しない……?)

ハジメは男の発言からそう推測した。


(先手を打つ)

――ハジメは素早い動きで背中に隠し持っていた拳銃を男に向ける。


シュッ――。


 しかし男の右足がそれよりも早く繰り出されハジメが構えた拳銃を捉えた。


ガンッ――。


 拳銃が壁にあたってから床に落ちた。


 ハジメは一度飛び退いて男から距離を取る。


「驚いたか? あんたも色々肉体を強化してるんだろうが、俺もでね」

今度は男が自分の懐から銃を取り出した。


「……」


「お前のみたいな玩具じゃないぞ」


(実弾か……。いずれにしろ、早くしないとまたすぐに警察が攻撃をしてくるかもしれない)


「あらそうなの? 私にはそんな銃、古臭いビンテージ品に見えるけど」

ハジメは敢えて挑発的な言動をする。


「てめえっ」

男が拳銃のトリガーを引いた。


 バンッ――と銃声が鳴り響く。


 しかし、ハジメはその銃弾を屈んでかわしながら一歩大きく踏み出して懐に潜り込む。そのまま右手を掌底の状態で振り上げ、男の顎を狙う。


 男はそれを後ろに下がってかわした――


 瞬間、ジジッと体に電流が流れる音がして男が倒れた。


「玩具も常に最新のが出てるんだからチェックしとかないとね」

ハジメの左手から伸びたワイヤーが男の足に巻き付いていた。原理としてはワイヤー型のスタンガンといったところか。


「オートクルーズ解除。船舶停止。付近の警察へ連絡……と」

ハジメは高速艇のコントロールパネルを操作しながら、レイジ達がいる内部部分への連絡装置も見つけた。


「レイジ。こっちは片付いた。今からそっちへ向かう」

そう言って、一旦レイジのところへ向かうことにした――。


 ハジメがレイジのところに戻ると、アルの胸の部分にAEDから伸びている電極が繋がれていた。ピッピッと規則正しいリズムで音が流れて、電極に電流が流れていることを示している。レイジと周りの子ども達がその様子を見ながら、アルに声を掛けている。


「アル、戻って来い!」

「起きて! アル君!」

子ども達はアルとここで初めて会った仲だったが、レイジの様子をみて一緒に声を掛けているようだ。


 ハジメは自分がさきほど何分ぐらい戦っていたのかと考えた。


(結構、時間が立っている……。厳しい……)


 そうして少しの時間が経った。規則正しいリズム音はピーという一定の音に変わり、そして音が消えた……。


 電極から伸びているAED本体上のディスプレイには『規定時間以上の連続作動:正常な蘇生の可能性が著しく低いため、停止します』という文字が表示された。


周りの子ども達ががっくりと肩を落とし、暗い表情をみせる。一部の子ども達から嗚咽が聞こえる。


「なんだよこれ!」

レイジが怒鳴る。


「……」

ハジメは息を吸い込んだ。レイジに答えようか一瞬迷っていた。


「……その説明通り……蘇生確率がほとんどない。なおかつ、万が一蘇生できても深刻な後遺症が残る可能性が高いということ……」


「知るかっ!」

レイジは電極を剥ぎ取ると、自らの手で心臓マッサージを始めた。


「……」

ハジメもアルの横に座って手を握った。

(……これが正しい行動なのか……分からない……けど……。蘇生できるかなんて……分からない……けど)


「アル!」

アルの心臓を押しながら、


「お前に!」

レイジは語りかける。


「拳法を!」

手は止めない。


「教えてやるって!」

彼は泣いている、でも――


「約束したよな!」

諦めない。


「お前!」

まだ諦めない。


「やってみるって!」

正しいかなんて、


「言ったよな!」

分からない。


「起きてくれ!」

それでも――。



「うっ……」

――アルの口から息が漏れた――

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