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プロローグ:レイジの独白

 俺が生まれたのは今から七十年以上前だ。だが俺の肉体は二十歳ちょっとのまま。どういうことかって?


 タイムワープしたんだ。


 すまない。嘘だ。この時代でもタイムトラベルは実現していない。時速88マイルに達するとタイムトラベルする銀色のスーパーカーはまだ実現されていない。ただ街のバスは空を飛ぶけどな。


 本当のところは人工冬眠で50年ほど眠り続けていたんだ。なんでも、細胞の老化を抑える遺伝子治療と、低体温を維持するカプセルという二つの科学技術の組み合せらしい。


 目が覚めたら五十年経ってると聞かされたときの気持ちが分かるかい?


 混乱以外のなにものでもない。絶望したり、悲しんだり、もちろん喜んだりなんて出来ない。とにかく頭の中が真っ白になってまともに考えることなんて出来なかった。


 なんでそんなに長い間、眠っていたのかは正直良くわからない。長い眠りの影響なのか俺の記憶はあいまいだった。親も既に死んでしまっており、なにぶん時間が経ちすぎてカルテも紛失してしまったらしい。


 この時代の事は右も左も分からないから、目を覚ましたときに目の前にいた女を質問攻めにして困らせた。彼女は「あなた、子供みたいでウザい」と言った。少し厳しい言葉だけども、仕方がないかなと思う。街を歩くたび、建物の中に入るたび、「あれはなに、これはなに」と聞いていたからだ。


 ちなみに、彼女の名前はハジメと言う。俺の目が覚めて初めて会ったのはハジメ。覚えやすいだろう?俺よりちょっと年下の二十歳ぐらいだ。まぁ俺は戸籍上七十歳を超えてるんだけどな。


 そんな俺も少しこの時代に慣れてきた。この時代の人は「合理性」をいちばん重要な事として考えるらしい。


 ハジメはこんなふうに言っていた。

「昔の人たちはひどく感情的に物事を判断したんでしょ? そして、異なる価値観が原因での争いが絶えなかった。例えば宗教。信じる宗教が異なれば、価値基準も異なる。宗教ほどはっきりしたものじゃなくても、個人の信念とかね。一つの物事に対して判断基準がバラバラなら、そりゃ争うのも自然ね」


 若干偏見が混じっているように思うが、この時代の人々はそのように教えられているらしい。そうして「合理性」という一つの基準だけで物事を判断することにこだわっている。俺からみると少し冷たく見えることもある。


 そうそう、ハジメはこんなことも言っていた。

「人間が常に合理的に考えられないという弱点があることも私たちは良く認識している。だから、社会的に重要な判断については人間以外の力も借りている。私たちはThe System(システム)と呼んでる。Symbiotic Society through eclectic modules(最良選択モジュール群を利用した共生社会)。The Systemが『目指す先』の頭文字を取ってそう名付けられた」


 俺には良く分からないけれども、とんでもなく複雑な構造の、コンピュータやAIの集合体らしい。この時代に暮らしていればそのうち分かると彼女は言っていた。


 ちなみに彼女の言葉遣いが少し男っぽく感じるのは、この時代では言葉も含めて男女の差が少ないからみたいだ。


 彼女はこの時代で「探偵」をやっている。探偵と言っても、浮気調査や素行調査をやるような仕事でも、麻酔型腕時計を片手にスケボーに乗って大暴れする仕事でもない。


 正直、俺も最初は分からなかったので、ハジメにきいた。彼女の説明はこうだ。

「探偵っていうのは『治安維持委託法に基づく特別民間人』のこと。要は報酬を貰って動く警察の協力者。正式名称が長ったらしいから、昔から使われてた探偵って言葉を流用して使う人間が多いの」


 なるほど、この時代では警察ですら合理化されて、多くの業務が民間に委託されてるってことらしい。まぁ、報酬を貰って犯罪者を捕まえるだなんて、なんだか賞金稼ぎのようにも思えるけどな。


 そんなわけで、この時代で身寄りも仕事の当てもない俺は彼女の手伝いをすることになった。昔やっていた拳法の腕前も活かせそうだったからだ。


 さて、俺の初めての仕事が始まる。

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