謙り
『力を欲するか……悪魔の力を欲するか』
いつしか聞いたような厳かな声が頭の中を木霊する。
今は眠いのに、静かにしていてほしいものだ。
『汝よ、力を……』
だからよぉ、うるせえっつてんだろ。
失せろよ。
『話くらいは聞いてもらわないと、その……なんというかこちらの都合もありまして……』
急に謙りやがった。
そっちの都合なんてどうでもいいんだよ。
まあいい、話せ。
『分かりました。あなた、悪魔を宿す素質がありまして、なので声をかけているんです』
で?
『それで、私と契約致しませんか? というものです』
契約しなかったら、ずっと囁き続けるのか? 人の睡眠中に。
『恐れ多くも、はい』
分かった。契約したら、体が不自由になるとか無いよな?
『はい、むしろあなたにとって都合のいいことばかりだと思います』
分かった。契約しよう。
『ありがとうございます』
あ、もう契約終わった感じ?
『はい』
嬉しそうに返事をするなぁ。
んじゃ、とりあえず、朝5時30分に起こしてくれ。
『承りました』
次の日の朝、僕は悪魔の囁きで起きた。
なんとも心地が悪い。
それはどうでもいいか、まずは師匠に挨拶だ。
「おはよう、師匠」
「珍しいな、自分で起きるなんて」
「まあな」
僕は、ささっと準備を済ませ、ギルドに赴く。
僕にできそうな依頼は無いか探す。
今日の依頼は……。
鍛冶師手伝い
誰でも歓迎。
これに決めた。
僕は受付に歩いていき、この依頼を受注する。
さくっと受注し終えると、目的の鍛冶師のもとに歩いていく。
場所は大通りの武器屋の隣だ。
そんなに遠くない。
やがて到着し、声をかける。
「すみません、ギルドの依頼を受けたものです」
しばらくして出迎えたのは、見るからに頑固一徹の鍛冶師という風貌の男だ。
「おう、頼む」
「あ、僕、午前中に仕事を終えて帰ります」
「そうか、分かった」
「それで、何をすればよろしいですか」
「そうだなぁ、じゃあ材料となる鋼を運んでくれ」
「はい」
僕は、せっせと鋼を運んでいく。
少しの間休憩し、また作業を再開する。
今度は完成した製品の整理。
これは数が少ないからすぐに終わったな。
僕は黙々と作業を続けた。
そして12時
「あ、僕帰らなければいけないんで、ありがとうございました」
「おう、いい仕事をしてくれた。ありがとう」
ここの親父は悪い人ではなさそうだ。
何か必要なとき、頼ってみるのもいいかもしれない。
その後ギルドに戻り報酬を受け取り、師匠の下に帰る。
結局、魔力刃の生成はできなかった。