成功
薬草採取に行く前に、魔術師を探す。
しかし中々いない。
探して探して、どれだけ時間が経っただろうか。
実際には二十分程度だろうが、全く見つからなかったために体感時間が妙に長い。
そして見つけた、一人の小さな少女。
見た目は小さく見えるが、実際には一つ年下くらいだろう。
髪は明るいライムグリーンのショート。
瞳は澄んだシアンだ。
別に幼女系の趣味があるわけではないが、可愛らしいと素直に感じた。
まあ、そこはどうでもよくて彼女の手には短い魔法の杖が握られている。
十中八九、魔術師だろう。
僕は近づき声をかけた。
「すみません、魔術師ですよね」
反応が無い。
無視されたのだろうか。
「すみません……」
「私ですか……?」
二度目で、答えてくれた。
自分ではないと思っていたらしい。
「そうです。実は、少し相談がありまして」
「何ですか、相談って」
冷たい声で問い返してくる。
僕はランタンを取り出して言った。
「これを魔力だけで点灯させたくて、教えていただけませんか?」
「そんなことですか、いいですよ」
「本当ですか!? ありがとうございます!」
「……。じゃあ、そこのテーブルに行きましょう」
「はい!」
ギルドには食堂があって、そこでランチを食べられる。僕達はそこへ移動した。
「で、ランタンってことはまだ魔力が出せないんですか」
「はい。というか、魔力を感じられないんですよね……」
「そうですか……困りましたね……」
「ええ、そうなんですよ」
「ちょっと、そのランタン貸してください」
「はい、いいですよ」
僕は彼女にランタンを渡すと驚きに目を見開いた。
なんと、ランタンに青白い炎が灯ったのだ。
「凄い……本当に光った」
そんな僕に対して彼女は何とも無いように言った。
「これは、確かに本物ですね。では、まず魔力というものを感じましょう。
私の右手を握ってください」
僕は彼女の右手を左手で握った。
「これで良いんですか?」
「はい、大丈夫です。では魔力を流します」
次の瞬間、左手から何か、エネルギーが流れてくるのを感じた。
「なんだ……これ……熱い!!」
「大丈夫、慣れます」
魔力が体中を巡っていくのがありありとわかる。
今まで感じたことのない感覚だが、新しい筋肉を手に入れたようだ、と表現するのが適切だろうか。
「ありがとうございます。なんか……分かった気がします。ランタンを下さい。やってみます」
彼女からランタンを受け取り、先ほどの感覚を思い出す。
すると、ランタンに力が吸われていくのを感じた。
ランタンを見ると、黒い炎が灯っているのがわかる。
成功だ。
これは……彼女がいなければ成功しなかった。
「本当にありがとうございます!! あなたのおかげです!! あ、名前を聞いてなかった。
名前はなんて言うんです?」
「サーシャ」
「サーシャさんですね。この御恩は一生忘れません!!」
サーシャさんは、そう、と返事をすると速足でどこかに行ってしまった。
ともかく、今日の午前は潰れてしまったが、いい収穫だ。
早速、師匠に報告しよう。