無理難題
午後は師匠の下で魔術の勉強だ。
そう思って家に帰った。
「帰ってきたぞ」
「おう、そうか。ならば受け取った報酬と受領書を渡せ」
と聞こえたのは師匠の声だ。
猛烈に嫌な予感がする。
これを渡せば、午前中の努力がすべて水泡に帰してしまうような、そんな気がした。
「一応聞くが、何のためだ」
「いや、な? ちょっと確認するだけだ。ほら、早く」
背筋がぞわりとした。
なんとも不快な、恐怖の感覚だ。
くそぅ……こんな……駄目だ……。
「く……分かった。これでいいのか?」
果たして僕は報酬と受領書を渡した。
「うむ、これで良い」
「はぁ、助かった。ところで、魔術を教えてくれないか」
「いいや、駄目だ。まずは魔力を感じるところからだ」
「そこからか……。いったい、魔術を使えるようになるまでどれだけの時間がかかるんだろうな」
「そうでもないな。魔力を感じて錬られれば、意外とどうにかなるものだ」
「そういうものか……」
師匠はおもむろに何かを取り出し、僕に見せた。
「じゃあまず、この魔法具に魔力を込めてみろ。うまくいけば光るはずだ」
師匠から渡されたのは、金属とガラスで作られた普通のランタンだった。
どう見ても普通のランタンだ。全く意図が分からない。
「おい、どういうことだ?」
「いいからやってみろ。今日中だぞ」
なんだと……今日中とか、どうしろというんだ?
全く分からない。魔力測定のときみたいな感じでいいのか?
やはり分からないが、やってみるほかないだろう。
まずは、純粋に力を込めてみよう。
握っている手に血管が浮き出る。
クソッ……ダメか。
ならばどうする……考えろ……課題を出すからには答えが必ずあるはずだ。
……やはり分からない。
結局、思考の堂々巡りだ。
訳も分からずランタンを触り続け、早くも食事の時間になってしまった。
「おい、さっさとこい。食事だ」
「分かった。今行くから待っててくれ」
僕はランタンをそっと置き、テーブルまで歩いて行った。
「んで、できたのか?」
クソが!できるわけないだろ。
その思いを、そのまま吐き出した。
「ほう、そうかそうか。できるわけない、か」
「ああ」
「馬鹿がっ!答えがあるから問題を出すんだろうが!わからないのなら仕方ない。
明日まで待ってやる。それまでにできるようにしろ」
「なっ……分かった。明日だな」
「おう」
この日の夕食は剣呑な雰囲気で終わった。
というか、怒った師匠を初めて見た。
僕はその後も練習するも、全くできないのだった。
翌日
僕はランタンを持ってギルドに出かけ、適当な依頼を探していた。
しかし、僕にできそうな依頼が無かった。
仕方なく、ギルドのお姉さんに自分ができそうな依頼を聞きに行く。
「すみません、駆け出しの会員ができそうな依頼を探してるんですが見つからなくて、
何かおすすめはありませんか?」
「自分に適した依頼が見つからないのでしたら、薬草や魔獣素材の納品を行ったらどうですか」
「詳しくお願いします」
「はい。価値のある植物や魔獣素材をあちらの納品所で売却すれば、
それに見合った報酬が得られますよ」
「なるほど……ありがとうございます」
僕は早速、薬草集めをすべく、ギルドを出る。
と、その前に魔術師を探さなければ。
聞きたいことがあったのだ。