はじまり
目の前に広がるのは群青の空。
天に昇るのは白銀に輝く眩い太陽。
僕は芝生に寝転がりながら、休日の時間を無為に消費していく。
意識が遠のいていき、眠りに入ろうとしたとき、額に一つの封筒がふわりと降り立った。
む?なんだこれ。僕は、封筒を開き本文を確認する。
『ソーマ=レイズロッド殿
王立リネッタ魔法学園、受験許可証』
まさか……。
一つの間をおいて、事の重大さに気が付いた。
魔法学校の召集令状だ。
僕は、歓喜に打ち震えた後、喜んでいる場合ではないことを思い出した。
そもそも魔法学校は貴族か、魔法の素質がある者しか受験できない。
ただ、王族は例外で特別枠なため、受験すら必要ない。
貴族は無条件に受験できるが我ら平民は選ばれた者以外受験する資格も無いのだ。
さらに、リネッタに関しては受験すれば絶対に受かる。
不合格そのものが存在しない。
学校のレベルが低いわけではない。受験者全員が学校に通えるのだ。
だから、純粋にうれしい。
しかし、その反面拒否権は無い。
選ばれたが最後。受験を拒否すれば魔女の一家だとして、親子諸共処刑される。
試験は対人戦。死ぬこともあるという。
このことを早く、家族に伝えなければならない。
どうしたものか分からなくなった僕は、地面に生える一本の草を見つめた。
この広い大地に果てしなく広がる草の中のほんの一つだ。
僕は、この名もなき草に妙な親近感を抱いた。
僕は、無暗に草を抜き取り、はっとした。
この草は僕と同じだ。
たくさん存在した物の中から哀れにも、不幸なことに選ばれてしまった。
そんな僕の状況を、的確に表していた。
これから僕は、どうなってしまうのだろうか。
まあ、ぐだぐだしててもしょうがない。
そろそろ話しに行くとしよう。
家族のいる、家の中まで歩いて行った。
こんな時でも、爽やかな風が心地いいと感じられた。
こんな時だからか……。
僕の家族は、父のヴェスタ、母のレイン、妹のユーリ、僕のソーマの四人家族だ。
僕はその全員を呼び出し、話を切りだした。
「突然だけど僕、リネッタに行くことになったんだ……」
「リネッタって、あれか? 魔法学園のリネッタなのか!?」
「そうだ……」
「そんな……」
「どうして、よりにもよって兄さんが……」
皆、考え込むように黙りこくってしまった。
どんよりとした重苦しい空気が場を支配する。
突然、父は何かを決意したような表情で意外なことを言った。
「分かった。じゃあ、魔術教本を買ってやる。近いうちに王都に行って魔術を習ってこい。できるだけ早くな。あと、王都に着いたら悪夢の黒魔術師を探せ。きっと師匠になってくれるはずだ」
「本当にいいのか?」
「ああ、そうするしかないからな。その代わりに、絶対に生きて卒業してこい」
「ああ、分かった」
そうして話し合いは終わり、僕は王都へ持っていく荷物をまとめた。
王都か、どんなところだろうか。
師匠はどんな人なのだろうか。
何もかも知らない場所を一人で歩かなければいけないのか。
不安になるな。
家族とも別れるし、下手をすればもう帰ってこられないかもしれない。
いや、帰ってくると決めたんだ。
王都で死ぬつもりはない。
すべてが整い、荷車が来るのは二週間後。
それまでは、準備と今まで通りの生活を送っていた。