1-6 アンフォーギヴェン
やあ! リスナーの皆さん、奈良県が何処にあるかもう覚えた?
そこのヒーローが私『マスクドDJ雷音』だ。
もしかしてだけど、今私って地球で最も宇宙に詳しい人かもしれなくない?
だって、異星人に星の危機を救う為に宇宙に連れてこらて、
そこで会った銀河パトロール隊と謎の文明の街を探索していたら、
宇宙海賊に襲われるなんていう体験、したことある人っていると思う?
そうは、いないんじゃない?
おっと……それどころじゃなかったんだったわ。
「キャプテン……ワールド」
キャプテンワールド? なんて仰々しい名前なんだろ……でも納得の雰囲気だな。
顔付きって言うのかな、オーラって言うのかな、凄い迫力と存在感がある。
ガチムチマッチョなゴリラ達の親分にしちゃ、スリムで貧相にも見えるけど、
宇宙じゃ体格で戦闘能力は測れない。
体のちびっこいアルスさんは、一瞬で下っ端海賊を片付けちゃうんだよ。
でもその時とは違い、キャプテンワールドを見るアルスさんの表情には、
全く余裕が無いといった感じだ……。
「銀河パトロール隊が、ここに何の用だ?」
「宇宙海賊が、ここに何の用だ?」
「フッ……」
数秒の沈黙、ものすんごい緊迫した空気を破って、
アルスさんは手にした銃の引き金を引き、
キャプテンワールドも、それに応じ腰の銃に手を伸ばし……え!?
ダメだ、ワールドの動きが段違いに早い!!
この圧倒的アルスさん有利な状況において、
ワールドは物凄いスピードで銃を腰から抜き、発砲すると
アルスさんの放った光線に命中、衝撃音を放ち相殺した。
しかし、アルスさんは表情一つ変えず、
反対の手に持った、ペン程の大きさの棒を振り上げた。
あちらのアイテムが本命だったのか?
しかしワールドも、すぐさまその小さな棒を、
驚異的なスピードと、命中精度でもって撃ち抜いた。
ここまでの動き、時間にしてたったの2秒足らずってところかな?
アルスさんの手を、悉くワールドがその早撃ちで阻止したように見えたんだけど、
撃ち抜かれた棒から、物凄い光が発せられたから超びっくり!
光は広く周囲を包み、その場にいる全員が視力を失ったと思う。
「カナロア! ライオン! 逃げろ!!」
真っ白い強い光の中で、アルスさんの声が響いた。
あれこれ考える事は後回しに、とにかく外へと通じる扉の方へと走った。
激突するように壁までたどり着き、
手探りで扉に辿り着き、暗い通路に飛び込むと息を潜めた。
辺りを見回したけど、近くにカナロアさんの姿は無い。
ここには来ていないってことは、別の場所に逃げたんだよね?
無事だと良いんだけど。
そしてもう一人はと言うと……扉の隙間から先ほどの場所を覗いて見たところ
まだアルスさんとワールドは対峙したままだ。
自分は逃げなかったと言うか、元から逃げる気は無かったんだろうね。
「フフッ……手の込んだ事をする」
「反射神経が良いのも、善し悪しだな」
「仲間は消えるように逃げていったが、お前も行かなくて良かったのか」
「奴らは仲間ではない、ついさっき見付けてそのまま一緒に行動していただけだ
職務上やつらの身の保護の為に、手の込んだ事をさせてもらった」
「仕事熱心なのも、善し悪しだな」
何これ? 皮肉の言い合い? 案外余裕あるの?
「まぁ良いだろう、お前とこれ以上事を荒立てるつもりは無い。
俺の邪魔をしないのなら、ここの更なる深部へと案内してやろう」
「更なる……深部?」
ワールドは、アルスさんを連れて行こうとしてるのか?
更なる深部って、そんな所で何をするつもりだ?
このタイミングで更に奥にって事は、シーム星衝突に関わる事なんだろうか?
返事を躊躇っている所へ、元気を取り戻しちゃったゴリラ達がやってきた。
バツが悪そうにワールドにペコペコ頭を下げ、アルスさんを取り囲んだ。
「……分かった、案内してくれ」
「よし、付いてこい。銃は預からないが、もう部下達を撃たんでくれよ」
「情けか?」
「俺達は、殺しはご法度だが、武装している者を殺すのは、それに当たらない」
「そ……そう、その掟が仇にならないといいけどね」
「部下達がそうするのと、俺がそうするのとでは、
お前にとって意味が大きく違う、どういう事か分かるな?」
「……ああ」
宇宙海賊の集団はアルスさんを連れて歩き出した。
いつまでも、ここで眺めていても仕方ない、さっさと追わないと。
(行ってどうするつもりだ? 1人であの宇宙海賊共を相手にする気か?)
「ん? うわぁぁぁ! しゃ、喋った!?」
そう言えば、思わず箱野郎を掴んだまま、ここに来ていたんだった。
(お前達が翻訳機を着けたのだろう、それに、もういい加減放してくれ)
「あぁ、すまない」
手を放すと箱野郎はコロコロとボールの足で移動し、
ボディをチカチカ点灯させ、話しを続けた。
(安心しろ、奴らの行先は分かっている。その前にボクの話しを聞いておけ。
この街について知りたいのだろう? 奴らを追って深部に行くにしても損は無い)
「……お、おう、教えてくれ」
(いいだろう、惑星カイを出発して凡そ10億年、ここで起こった悲しい歴史を)
爆破のタイムリミットまで、あと2時間半を切っているけど……
話し長くならないと良いなぁ。
取りあえず、ちょっとブレイク。