1-3 グッド トゥ ゴー
どうもリスナーの皆さん、あなたの町のご当地ヒーロー『マスクドDJ雷音』だ。
遥か遠くの惑星、シーム星に向かって現在爆走中のこの巨大物体、
コイツを破壊しにやってきたシーム星人のカナロアさんと私。
しかしその前にコイツを調査したいと、銀河パトロール隊員の
アルスさんって人が現れて、一触即発の大ピンチ!
だったんだけど、私の巧みな交渉術によって……え?違う?
まぁ話し合いの結果、シーム星が安全に難を逃れられる範囲内で、
アルスさんの調査に協力するって感じで、話しは落ち着き、
今こうして破壊決行までの4時間を、辺りを見回して時間潰ししてるってわけ。
だって、調査ったって私に何をしろって言うの? ただ眺めてるしか無いのよ。
しかしこれは本当にデカい……。
さっき、アルスさんに聞いたんだけど、底辺の長さは約10km
4時間で全部歩いて回れるものかな?って思ってしまう。
形が四角錐なもんで、ピラミッドって言ってきたけど、
最大のクフ王のピラミッドでさえ底辺230m、高さ146mだから、
その異常な巨大さを分かってもらえるかな?
いやまぁ、私エジプト行った事無いんだけど。
「ライオン、どうしたのか?何かあったか?」
「いや、別に」
カナロアさんから声をかけられ我に返った。
じっと一点を見詰めて、立ち尽くしているのが気になったんだろうね。
別にとは言ったんだけど、実は今私の足元に、とんでもない物があるんだ。
引き戸? なのかな? 周りとは違った長方形の盛り上がり、
それがそのまま横にスライドしそうな、レールらしきものも見える。
大発見だろうけど、これを調べ始めると、事態はきっともっとややこしくなる。
ここは4時間後には破壊される、破壊しなかったとしても、
そのすぐ後に、カナロアさんの星に激突して木っ端みじんだろう。
調べたんだけど、何も分かんなかったね~チャンチャン! それで良いじゃない。
私の目的は、コイツがカナロアさんの星に落ちるのを阻止する事、
余計な事はしないしない。
「そうか、だったらこっちに来てくれないか」
はいはい了解、そっちに何かありましたかね~?
無重力の中をスイスイ進み、カナロアさんのいる所まで着くと……
「これを見てくれ、このドアから中に入れそうなんだ」
そっちにもあるんかいっ!!
「どうした何かあったのか? こ、これは!」
銀河パトロールさんにも見付かっちゃった……。
仕方ない調べましょう、これも調べていきましょう、ええ。
アルスさんが引くと、やっぱりその長方形の板はガラガラとレールに沿って動き
中には、奥へと続く長い階段のようなものが見えた。
かなり深そうだけど、中は暗く階段がどれだけ続くのかちょっと分からない。
大丈夫、中を明るくする道具ならあるよ。
暗黒の宇宙空間で作業をするっていうんだから当然ね。
中の階段は狭いんで、アルスさん、カナロアさん、私の順番で
一列になって階段を奥へ奥へと下りていった。
壁や天井、階段の素材は、さっきまでいた外側と少し違った雰囲気だ、
のっぺりした鉄板を綺麗に張り巡らしたものがず~っと続いている。
「しかし分からない、銀河パトロールのデータバンクに当てはまる物が無い
クアドル星系の文明に似たものがあった気はするが、決定的な類似は無い」
「そうですね、あとアイミンのルサウス等が、こんな構造をしておった」
「だがあの種族に、これ程の物が作れるとは思えない」
一体、何の話しをしているんだろう……。
どこかの星に、これに似た感じのがあるんだけど、
ちょっと違うよね~って話しだよね?
彼女らの会話を聞きながら、何段下り続けただろうか、
ようやく終わりが見えてきた。
でも何だろう? 何か、あれ? あれれ? ……何か体が?
「う……何だ? だんだん体がダル重くなっていくんだが」
「今頃気付いたのか。この階段を1段下りる度に少しづつ重力が増しているんだ。
無重力帯から実にスムーズに重力帯へと繋がっている、素晴らしい構造だ。
丁度あの突き当りで1Gに到達するだろう」
冷たく光るメタリックな方から、クールな仰天解説が飛び出してきた。
確かに、私が感じているのは体のダルさじゃなくて、単純な物の重さだ。
下りる度に階段1段づつ重力が増していき、無重力から1Gにっていうのは
確かによく出来た構造だね。
よく出来たか……。
実はずっと考えないように、考えないようにしていたんだけどさ、
でもやっぱりここまで来ると、流石にそうもいかなくなってくるわけですよ。
この階段の最後で地球と同じ重力になる、それってもしかしてなんだけど~
「この先ってさ、やっぱ何か……いる?」
「その可能性は高いと考えている、だが安心しろ、銀河パトロール隊として
我々に危害を及ぼす者が現れても、お前達の身の安全は守らせてもらう」
ホルスターから銃を抜き、ややドヤ顔でカナロアさんと私を見た。
何だかアルスさんが、事ある毎にすぐに銃を抜く
有名なギャグマンガの、お巡りさんに見えてきたんだが……
手にした銃をキラリと光らせ、辺りへの警戒を更に強めたのが分かった。
いよいよ長く続いた階段が終わった。
階段から続く通路を少し行くと、突き当りに先程のと同じような扉がある。
銃を構え、扉の先を警戒しながら、アルスさんが足でそいつを押すと、
重量感のある音を響かせながら、扉はスライドしていった。
扉の向こうからは、それまでの暗い通路とは打って変わって、
眩しい程の明かりが射してきた。
その明るい空間に広がる風景は、巨大な白い四角い建造物群に
それを仕切るように走る黒い道路だろうか……こ、これは、街?
何だかよく分からないけど、ここでちょっとブレイク。
破壊リミットまであと……3時間40分か。