3-4 コネクテッド ドッズ
海外旅行でも国内旅行でも、知らない場所で見た事の無い風景を次々目にして
その異世界観にどっぷり浸かっている所に、ふと見覚えのある風景が現れたら、
驚きと混乱で、その繋がりを解明したくて仕方なくなるよね。
それが宇宙旅行でとなると、驚きも混乱も探求心の高まりも数倍だよ。
どうも、どんな時もウキウキワクワクが抑えられない『マスクドDJ雷音』です。
今、私がいるのはベールルードN3αXXっていう星の地下にいるんだけど、
そこには広い街があって、その風景はとても見覚えのあるものなんだ。
数日前に壊れて無くなっちゃったんだけど、カイ星って星から新天地を目指して
宇宙を旅していた移民船の、その内部にあった居住空間の風景そっくりなんだ。
そもそも、ここへやって来たのはその移民船の中で出会った喋る清掃ロボット、
バートを探してだという事にも、何だか繋がりがありそうじゃない?
色々と聞きたい事が山盛りだけど、取りあえずは私達を乗せて走っている
フォートワーカーって言うんだけど、この乗り物が止まるのを待っていた。
フォートワーカーは大きな建物の奥へと進み、広いフロアに入ると停止し、
4本の脚を折りたたんで胴体を床まで下ろすと、上部の出入り口が開いた。
人口密度の高かった機内に、涼しい空気が吹き抜けてくる。
私、アルスさん、イェルドさんの順でフォートワーカーから外に出て、
屋内駐車場のような雰囲気の薄暗い無機質な空間をキョロキョロ眺めていた。
「チゼ! よく帰った!!……おっと、お前達は一体?」
声を反響させながらチゼさんを出迎えに笑顔で走って来たその人は、
私達が目に入った途端、驚きで目をぱちくりとさせている。
小柄なチゼさんとは違い高い背丈に、太い手足のごっつい体格をした、
頬髭が印象的な初老の男性といった感じの人だ。
「ついに助けが来てくれたんだよ! 本当に凄いんだよこの人達!」
「助け? ま、まさか……あんた達は!」
遅れてフォートワーカーから顔を突き出したチゼさんと、その人とが
突然謎の盛り上がりを始めちゃってるんだけど、助けって何だ?
そう言えばさっきも、みんなが私達を待っていたなんて言ってたよね。
たぶん人違いだと思うんだけど、ずっと引っ掛かっていたんだ。
でもどうする? この盛り上がりを一気に白けさせるわけだもんなぁ……
こういう時、銀河パトロールの出来る男は行動がやっぱり早いみたい。
「チゼくん、あの巨大なヤツから助けてくれて、本当にありがとう。
だがキミ達が先程から言っている事についてはサッパリ分からないんだが、
私達が助けというのは、どういう事なんだい?」
私達がその助けじゃないって事で、彼らが受けるショックとかは考えないのね。
そこは、結構ドライなのね。
この場合どう話しを進めてもそうなるし、仕方ないと言えば仕方ないけども。
「え!?」
「うん、キミ達が何を言っているのか、私や私の連れもよく分かっていない」
「違うの? オレ達の先祖が遥か昔に発信した救助信号をキャッチして
それで助けに来てくれたんじゃないの?」
「救助信号……遥か昔の先祖……成程。キミ達はあの地上の機獣や機竜から
ここで身を隠しながら、ずっとその助けを待っていたという事なのかい?」
「そ、そうだけど……」
「そうか、そういう事だったのか。気の毒だが我々はキミ達を助ける為に、
この星へやって来たわけではないんだ、ガッカリさせて申し訳ない」
「えっ……」
「だが、話しによってはキミ達を助ける事は出来るかもしれない。
我らがあの機獣に対抗しうる戦力を持っている事は知っているだろう?」
「う、うん!」
「では、もっとキミ達の事を教えてくれないか?」
あっと言う間に、上手いこと話しを纏めちゃったよ。
何となく私も、そんな感じかなとは思ったけど、こうもズケズケ……いや
スムーズに事態を進めていっちゃえるのは、ハートも強い出来る人なのかね。
アルスさんはそんな出来る上官の姿に、キラッキラと瞳を輝かせてるよ。
やれやれ……
まあ良いか、チゼさん達の詳しい話しはずっと聞いてみたかったんだからね。
「ちょっと待った、こちらからすればアンタ達だって充分怪しいもんだ。
ワシの弟子が間違えて連れて来ておいて悪いが、何も知らないってんだったら
この星の事には首を突っ込まないのが身の為だぜ」
もう1人の男が不機嫌そうに流れを断ち切った。
そりゃそうか、突然弟子が異星人を連れて帰ってきて、キミ達は誰?
だなんて、お前達こそ誰だよ! となるのは仕方ない話しだよね。
ここはまだ立場のはっきりしたお二人に任せて、私は黙っていよう。
……と、思う間も無くマスターイェルドが前へ出て来た。助かる助かる。
「私は銀河パトロール隊イェルド。こちらは同じく銀河パトロール隊のアルス
そしてその協力者であるライオン君だ。
この星へは、我々が確保した未知のロボットを追ってやって来た」
「ロボットを追ってだと?」
待て待て、我々が確保したって、どういう事……いや、ここはそれで良いのか。
ここの人達にロボットは友達なんて事は言わない方が良いって考え?
地上にいる狂暴なロボット達に怯えながら、日々過ごしてるんだったもんね。
咄嗟にそこまで考えが回ってるのかこの人は、ホント凄ぇんだな。
「そう、カイという星から旅立った移民船に乗っていた清掃ロボットだ」
「何だとっ」
会話に割って入ったアルスさんの発言に、男の眉が激しく反応した。
「カイ……カイ星の移民船……だと」
「そうだ、そのロボットはホープと呼んでいた」
「おぉ……やはり太古の文献に記されていた事は、真実だったのだな……
そのホープに乗っていた者達はどうしている? 彼らは来ておらんのか?」
やはり、この人達はカイ星やホープ計画と繋がりがあるようだ。
もしかして彼らの先祖はバートが乗っていたのとは、また別の移民船で
遥か昔にこの星に降り立ったカイ星人の子孫なんだろうか。
「それが、私の知るホープ6288は、出発して間も無く船内で伝染病が流行し
全てのカイ星人は死滅してしまったらしい。無人となった船はロボット達と
宇宙を彷徨い、やがてある惑星に激突する所を……やむなく我らが破壊した」
「死滅……破壊……だと?」
「多くの命を育む星だったのでな、仕方が無かったのだ」
「そうか……」
「破壊の直前に船内で見付けたのが、唯一起動中だったそのロボットだ。
自立式の清掃ロボットだったらしい。彼からは色んな話しを聞いた。
素晴らしい知能で、高度に発達した文明を気付いていたカイ星人達の事を」
「そうか……そいつは良い奴だったんだな」
「ああ、出会ってまだ僅かな期間だが、友人と言っても良いくらいだ。
だが、そいつは突然この星に降り立ち、そして姿を消したんだ……」
遥か昔のカイ星の惑星間移民計画を、伝説としてだけど知る人達のいる星、
その星へ移民船最後の生き残りのバートが何故か突然やって来た。
ぼんやりとだけど、話しが繋がり出して来たんじゃないかな。
「ロボットの友人か……なるほどな、有難うよ。
ワシの名はツリア、この街で弟子とたった2人の機械工をやりながら
地上世界の調査をしている者だ」
少し遠い目をした後、チゼさんの師匠のツリアさんが自ら、この星について
彼が調べた太古から続く歴史を教えてくれた。
その話しは、そこそこ長くなったので、ここで一旦ブレイク。




