1-2 トゥモローズ ギャラクシー
「何者だ! お前達は!」
や、やぁリスナーの皆さん、宇宙を股にかけるヒーロー『マスクドDJ雷音』だ。
え? 何で宇宙のど真ん中で銃口を突き付けられているのかって?
それは~……私にもよく分からない。
きっと何か、ボタンの掛け違いのような事がおこっていて
ちゃんと誤解を解けば、すぐに解決するはずさ。
だって、私はシーム星という惑星に向かっている彗星じゃなくて謎の物体、
今私達が立っているコイツを、破壊しようっていうだけなんだからね。
ヒーローとして、シーム星の環境を守る為に。
「言葉が分からないのか? シーム星の者ではないようだが?」
「あー分かるよ、ちゃんと聞こえてる、えーっと私達が何者かだったね。
でも、それをキミに何て言って伝えれば良いんだろう?
何気にこの状況に、私の頭も追いついていなくて」
何を言ってるんだ私は?
あの人がちょいと引き金に力を込めれば、ズドンと撃たれちゃうってのに。
「何を言っているっ?」
「激しく同意する。
まあ、そうトゲトゲしないで、私はキミの星の文化や流儀を知らないんだ。
キミがそうして怒っている理由すら分からない事も許してほしい。
怒って……るんだよね? 怖い顔で睨んでるし、
いゃ~そういうのは良く無いと思うんだ、よく見れば可愛らしい顔なんだし、
もっと眉間の力をユルめてユルめて、魅力的なお顔が台無しだよ。
あと、そうやって人に銃を向けるのも良くないな~。
それは友好的なやりとりの真逆に当たる行為と言っていい」
だから私は何を言っているんだー!?
愉快な展開にするんじゃない!
私は、さっさとこのデカイのを破壊して帰りたいだけじゃないか。
「私が説明しよう」
そ、そうだ、そうですよ! 私を地球から連れ出して、
この計画を考えたのはカナロアさんだ、何も私が全部喋る必要はない。
いや寧ろ私が喋らない方が良いよね。
そう言って歩み出るカナロアさんの姿が、グニャグニャっと揺らぎだした。
何でも聞くところによると、シーム星人っていうのは、
もう何千年も前から、他所の星の知的生命と交流をしていて
そのコミュニケーションを円滑にする為に、
その星、その民族、またはその個人にとって
最も好感を得られる容姿に変化するという進化をしたそうなんだ。
つまり、さっきまで美女の姿でいたというのは……その……まぁ……
これ以上の説明はいいよね。
「そこで止まれ、お前はシーム星人だな。
どんな姿になろうと、私にそれは通用しない。
そのような手が通用するほど、判断能力の低い種族ではない。
言葉が分かるのなら質問に答えてくれ」
キリっとした表情で、私が間接的にdisられたところで、
今度はカナロアさんに銃を向けた。
「申し訳ありません、我らにとっては挨拶のようなものだ、
不快に思ったなら許して欲しい、他意は無いのです。
私はシーム星のカナロア、もう一人はテラ星から私が連れてきたライオン
我らの星に衝突する軌道を取る、この物体を破壊する為に来ました」
これだけ伝えるのに何分かかったんだろ?
この展開の遅さに退屈してない? 大丈夫?
「私は銀河パトロール隊員アルス、シーム星の危機については把握している。
しかし破壊はさせない、私はこの物体を調査する為に来た。
そもそもシーム星人は、既に母星より避難を完了させ、
衝突後の復興に向けて動き出しているはずだ」
銀河パトロール隊だって? いよいよ頭のクラクラが最高潮だ。
もうこれ以上何が出てきても驚かないぞと思っても、
結局その上を行かれる……本当に宇宙は、私なんかの理解を越えてる。
所で、向こうは意外とこちらの状況は分かってくれてるようだ。
コイツを破壊するしないで意見は分かれてるけど。
「そうだ、我らは彗星の衝突をやり過ごす事にした。
しかし衝突がシーム星に及ぼすとされる影響は、推測によるものでしかない。
それに、そもそもこれは想定されていた彗星ではない。
このままこれをシーム星に向かわせたら何が起こるか分からない」
「銀河最高の英知と民主制を持つとされるシーム星の者が、
その総意に疑問を抱くとはな……キミの行動は正しいものかもしれないが、
ご覧の通りこれは彗星ではない、何者かによって作られた人工物だ。
銀河の平和を守る者として見過ごすわけにはいかない」
お互い一歩も引かない、って言うか引けない状況だなぁ。
方や自分の故郷を守りたいという思い、
方や宇宙の平和の為に見過ごすわけにはいかないという思い、
どっちも分かる、どっちも正しい、故にぶつかっちゃう……
でも対立を深めちゃだめだ。
「よし、折衷案を取ろう」
そう発した私に、アルスさんの銃口が向く。
この銀河パトロール隊とやらは、会話相手に銃口を突き付ける規則でもあるの?
必要以上に場をピリピリさせないで頂きたいんだけどなぁ。
「お互いこうしている時間だって惜しいはずだ、
コイツは刻一刻シーム星に向かっている。
えっとアルスさんだっけ? あなたはこのまま調査を続けてください。
そしてカナロアさん、シーム星に影響無くコイツを破壊するには、
あとどれくらい猶予はありますか?」
「あと4時間といったところだ」
「分かった、じゃあ4時間後にコイツを破壊するので構わないよね。
アルスさんはそれまでに調査を切り上げて脱出してくれ、これでどうだろう?」
4時間っていう時間がアルスさんにとって調査に充分な時間だろうか?
「分かった、それでいこう」
よし、上手く纏まった! 話して分かってくれる人達で良かった。
「有難うアルス、ライオン、自分の星では誰も賛同してくれなかったと言うのに
あなたたちは分かってくれた、本当に感謝している」
そういや、この彗星破壊計画って、シーム星でカナロアさんがただ一人訴え、
誰の協力も得られなかったんだったか……。
こんなのや、これ以上の衝突はしょっちゅうだったのかもしれないな。
「感謝は良い、元よりシーム星の衝突と命を共にするつもりも無い。
充分な時間が取れない事も織り込み済みだ。
時間が無いんだ、調査に戻らせてもらう」
銀河パトロール隊も、感謝の言葉にはテレくさいのか?
それとも、いつもクールなのか?
どうでも良いんだけど、カナロアさんの姿がイケメン美青年になってるのと
アルスさんが、そのカナロアさんにだけ銃を向けなくなってるのは……
……突っ込まないで良いか。
ここでちょっとブレイク。
しかしあと4時間かぁ~、早く帰りたいんだけどなぁ。