3-2 インスタント
機械仕掛けの野生の王国、いや大怪獣ワンダーランドにやって来て、
巨大怪獣に追い回される、絵に描いたような珍道中に巻き込まれちゃって
心も体も、もう結構疲れちゃったよ。
あぁ~、こんな時に皆を助けてくれるヒーローがいてくれたらなぁ~
え? お前がヒーローだろって? そうです私がヒーロー『マスクドDJ雷音』!!
でも、ヒーローだってヒーローが助けてくれたらなって思う事だってあるよ。
そしたらさ、来てくれたっぽいのよ! 眩しい空から舞い降りて来たのよ!
巨大怪獣のお陰で広場になっちゃった、私達の目の前に銀河パトロール特有の
ギンギラギンの格好良い宇宙船が、ゆっくりと降りてきた。
丁度良い高さでギュンギュンと3本の着陸脚が伸びて地面にスっと立つ……
もう私程の宇宙経験者からすると、だいぶ慣れっこになってるんだけど、
この手のすんごい文明の宇宙船って、一体全体どういう仕組みで飛んでいて
風も起こさずゆっくり着陸なんか出来るんだろう? って唖然とするね。
宇宙ステーションから帰って来るのでも、火の玉みたいになってドカーンって
落っこちてくる我が星の先端技術と比べると、本当こっ恥ずかしい。
船の底の一部、丸い装甲版がスイーっとエレベーターのように降りてきて、
そこには長身でガッシリした体格の男が、やたらと姿勢正しく立っている。
服装はアルスさんと同じようなメタリックなプロテクターを着ていて、
ヘルメットのバイザー越しに見える目は、キリっとした力強さを帯びているが
それでいて柔らかな余裕のある表情を浮かべた中年の男前といった感じの人だ。
「マスター!」
「おお、アルス無事だったか。心配になって来てみて正解だったようだ」
マスター? アルスさんの師匠みたいなものなのかな?
確かに、そこはかとなく只者ではない感と言うか、オーラを放ってるんだよね。
よく見ると、似たプロテクターを着ているけど、アルスさんのよりも少し
作りが良いと言うか、上位互換な感じがする物を着てる。
一方キラッキラした目をしだしたアルスさんは、テンション高く振り向き
私にその人を紹介してくれる。
「ライオン紹介します。こちらはイェルド、銀河パトロール上級司令官で、
訓練生時代に大変お世話になった方なんだ」
「おお、キミがテラの勇者ライオンか! 教え子が大変世話になったそうだな
それにあの死神アルノルディを打ち破ったとか!!」
「あいや、打ち破ったとかではないんですけどね、あはは……ライオンです」
こっちのマスターもテンション高っ! 圧が強っ!
でも、こっちの事は何となくは知っててくれてるみたいだから楽で良いや。
それにしても女王を私が倒した事になって伝わってるのはビックリだな、
今も元気に宇宙海賊と仲良く飛び回ってるんだけどね。
「それにしてもマスター、どうして此処へ?」
「銀河パトロールの船が2隻もここに降り、1つは無断で使用されたもの、
もう1つは嘗ての教え子が私用でとなると、気にもなるだろう」
「そ、それで、マスター自ら?」
「おかしいか? それともこの状況で心配など要らないとでも?
ここへ来た事情もだいたい分かっている。カイ星から来たというロボットだろ。
私もその友人を探すのを手伝わせてもらうぞ、丁度今日は非番だしな」
「あ、有難う御座いますマスター! ライオン、心強い味方が出来たな!」
要するに、助っ人登場の巻なわけだ。
始めて見る知らない人だからねぇ、アルスさんは凄い盛り上がってるけど、
コミュ障特有の人見知りのソワソワなのかな? 急に知らない人が現れて
手伝ってくれるっていうのが、何かピンと来ないこの感じ分かる?
いや、助けて欲しくないっていうわけじゃないし、凄い立場の人が
わざわざ来てくれてる事の、ヤバさや凄さも何となくは分かってるんだけどね。
何て言えば良いんだろ、高校の友達の家に遊びに行ったら、
そいつの中学の頃の友達もやって来て、その中学ローカルトークが始まって
居場所が無くなっていくあの感じ? みたいな?
「それにしても、目にしてみると驚きだな。この星がこんな場所だったとは
そしてそれを我らも見過ごしてきたとはな」
「全くです、先程の巨大なものだけでなく、狂暴な機械の獣も徘徊しており
全くどうしてこのような環境が生まれたのか理解出来ません」
「機械が生命体を模した収斂進化を遂げた……いや、考えられない」
そんな戸惑いなど知る由も無く、盛り上がってる銀河パトロールのお二人。
あ、収斂進化っていうのは全く別の生き物でも、同じような生態的地位では
似た姿に進化をするっていうやつよ。
イルカとサメとか、カニとタラバガニみたいなやつね。
地球人によく似た宇宙人が意外と多いのも、この収斂進化によるものらしいよ。
……って、それどころじゃないのよ、さっさとバートの手掛かりを見付けて
こんな危険で厄介な所から連れて帰らないと。
ちょいちょいと、とんでもないアクシデントに見舞われるもんだから、
その解決にばかり気を取られてしまうんだよね。
「アルス、友人のロボットは本当にこの辺りにいるのか?」
「いえ、近くにバートの乗って来た船があるというだけで……」
「成程そういう事か、こんな危険な場所で今も無事でいるんだろうか?
ライオン君はどう思うかね?」
「え、そうですねぇ~、バートのすばしっこさと、コソコソ隠れる能力は
なかなかのものですし、私は無事でいると思うんですよね」
「ほぉ、そんなに高性能なロボットなのかね」
「それもありますが……その、これは私の推理でしか無いんですけど、
ここの機械の動物達ってのは、私達を見るや唯ひたすらに殺しに来る程、
滅茶苦茶な狂暴性を持っているわりには、奴ら同士で争ってる感じが全く無い。
加えて、遠くからも一直線に私達だけを狙ってやって来ます」
「なんと! ロボット同士では争わないのか、それならばキミ達の友人も
狙われる事は無く、無事でいる可能性が高いと考えるわけだね?」
「楽観的過ぎ……ますかね?」
ついつい、ここに来てから起こる異常事態の私の考えを口にしちゃったけど
こんな話しは、無知な田舎星人だと鼻で笑われるんだろか?
「いやいや、状況から見て、そういう事も充分にありえる事だ」
「そうなると謎なのは、私達は何故に襲われるのかって事なんですよ。
捕食というわけでも無さそうだし、何の為にあんな殺傷能力を持っていて
どうして私達だけに、あれだけの殺意を持っているのか……まるで」
「まるで?」
「私達から何かを守っているような?」
「はっはっは、面白い推理だ! ここのロボット達は何かの番人だとでも?」
「気がするだけですけどね」
「いや~あながちそうかもしれん、もしそうであったとしたら
ヤツらは何を守っているのか、それを是非とも突き止めたいものだ。
いや~未知の星の探索なんてどれくらいぶりだろう、やはり現場は良いな!」
な、成程……そういうのもあってテンション高いのね。
立場ある人みたいだから、普段はデスクワークばかりなのかな?
何か凄く楽しそうにしてるけど、本当に心強い味方をどうも有難うだ。
ま、やることは広い森の中をバート探してウロウロするだけなんだけどさ。
ん!?
視界の端に何か動く物を見付けた。また機械仕掛の動物かもしれないけど、
バートかもしれない、取りあえず行って確かめてみよう。
「ライオン! どうしました?」
「何処に行くんだ、ライオン君!」
「あそこになにかいるみたいなんだ、ちょっと行ってみます!」
そこは、さっき殴り倒した怪獣ロボのいた辺りだ、バラバラになった部品が
山のように積み上っている。
よく見ると、やはりその瓦礫がガサゴソと動いているようだ。
私は地を蹴り一気にそこまで翔けると、動きがあった辺りをキョロキョロと
見ていると、足場になっていた瓦礫がゆっくりとせり上がってきたんで、
思わず私は飛び退いて身構えた。
メカ怪獣だった部品がガラガラと雪崩を起こし、その下から現れたのは
幅8mくらいの機械の獣……いや、何だろうこれ? 動物的なのじゃなくて
今までの猛獣ロボット達とは雰囲気が随分と違う。
生き物に無理矢理例えるとするなら、クモとかカニのような印象だね。
戦車のような平べったい角ばったボディの四隅から、4本の脚が生えていて、
更に上部に生えている2本の腕の一方が赤黒く光る球体のパーツを
4本の指でガッチリ握っている。
こいつは、メカ怪獣のパーツを回収しているんだろうか?
持っている赤い丸い物は何なんだろう?
「ライオン! こ、こいつは一体?」
「な、何だこいつは?」
2人も追いついて来て、このロボットを見て驚きの声を上げた。
「さあね、何だか分からないけど襲って来るならぶっ壊すまでだ!」
「待って下さい、ライオン!」
今にも殴りかかりそうな私を、トリガーハッピーさんが制止するなんて、
本当、以前とは全然キャラが違うから調子狂うんだよね。
ここのロボット達がどれくらい狂暴な殺戮マシンか知らないわけが……
「そいつの内部には、生命体反応があるんです!」
「へ?」
中に生命体? 中に生き物がいるの?
と、取りあえず今回はここでブレイク。




