3-1 ランペイジ
どうも、星を越えた熱き友情に心動かされる男『マスクドDJ雷音』です。
ベールルードN3αXXって星に降りて行方不明になった清掃ロボットのバートを
探しにやって来た私と、銀河パトロール隊員アルスさんはは、
その星にウヨウヨいる機械仕掛けの狂暴な動物達に次から次に襲われて、
もう大変なのなんのって、聞いてないのなんのって、もうね。
とうとう数十メートルの巨大怪獣まで現れて、テンションが爆上がり……いや
今正に、てんてこ舞い極まる状態なわけ。
太い2本の後ろ足で大地を踏みしめ、引きずられる巨大な尻尾を振り回しては
森の木々をバキバキ薙ぎ払い、あっと言う間に見晴らしの良い平野にしてしまう。
恐竜、と言うより昔の間違った復元の恐竜か……あ~やっぱ怪獣だよな
のっしのっしと直立して歩いて、口からビームも撃って来るんだし。
アルスさんの光線銃を真面に受けて、片目を破壊されたっていうのに、
その怪獣は怯みもせず私達に猛攻を重ねてくる、やっぱ痛みは感じないのかな?
たかがカメラをやられただけだ! ってなものなのかもね。
じゃあ、どうするか、どこを攻撃するべきかって事をさっさと考えないと、
いつまで経っても怪獣とも鬼ごっこは終わらない。
「え? ライオン、何処に?」
おもむろに足を止めた私は、アルスさんの声に答えることもしないで、
真っ直ぐ追って来る怪獣の壊れた右目の死角から、ささっと後ろに回り込んだ。
こういうのは、何度も何度もあのハンティングゲームでやってたもんね。
そうして、背後を取ったらやる事は1つでしょう。
この興奮を分かち合えるゲーマーな皆さんは、もうお分かりだよね。
「そうりゃあああ!!」
目の前をずるずると進む新幹線の車両より馬鹿デカいしっぽを蹴り上げた。
やったね~! 見事脚の突き当たった所から縦一直線に尻尾は斬り裂かれ、
切れた先はグルグル回転しながら宙を舞うと、近くの地面に突き刺さった。
両足と尻尾の3点でバランスをとっていた怪獣は仰向けにひっくり返り、
短い手足をジタバタとさせるが起き上がれないでいる。
「ナ~イスカット!」
「ライオン、遊んでいないで、さっさと破壊しろ……破壊して下さいっ!」
「あ、はい」
怒られちゃったけど、そりゃそうだよね、これ以上暴れられたら
この辺りの森も地面も、どんどん荒れて酷い事になっていってしまうもんね。
巨大メカ怪獣を壊しちゃうとか、凄く惜しい気もするけど仕方ない。
私は少年の心を押し殺し、ゴロゴロと暴れ回る子供の夢の塊のようなそいつに、
ゲンコツをコンと当てると、メキメキとメタリックな全身にヒビが走り、
そのままバラバラに砕けて瓦礫の山が出来上がった。
「さっさとそうしてくれれば、肝を冷やす事も無かったのに」
「ごめんごめん、何か勿体なくてね」
「全く……」
確かにもうちょっと早く冷静になって怪獣を止めるべきだったよね。
この怪獣が数分暴れ回ったスクラップの山を見わたせば、バート探しが
更に困難なものになってしまったのは確実だった。
機械の樹に、機械の怪獣の壊れた部品が結構な面積で積み重なった下に、
手掛かりがあったとしたら絶対ヤバイよね、眺めていてもいたたまれないし
さっさと取り払っちゃおう。
1歩だけ歩み出たその瞬間、目の前に驚きの現象が起こった。
「へ?」
「えっ?」
何もしていないのに、辺りに散らばる鉄くずが一斉に飛び上がった。
いや、飛び上がっているのはそれだけじゃない、私もアルスさんも一緒に
地面から弾き飛ばされている。
強烈な縦揺れの地震が起こったらしいけど、ホントこの星どうなんてるの?
なんて思いつつ、吹き飛んだ瓦礫の隙間から辺りを見て更にビックリ!
さっきやっつけたメカ怪獣が4体、いや5体もこっちに向かって走っている。
この地震はあいつらが地面を蹴って起こしている地響きだったみたい。
悠長にはしてられない、あいつらが5体も暴れたら、ここら一帯は滅茶苦茶だ。
吹き上がる瓦礫を足場にして、飛び移りながら目に入った一際大きな
怪獣の外装だった鉄板を掴むと、フリスビーのように回転を加えて
1体の怪獣目掛け放り投げた。
私の手から離れた直径15m程の回転ノコギリは、空を斬り裂く音を轟かせ
我ながら見事なスライダー軌道を描いて怪獣の首に命中したかと思ったら、
そのまま切断した首を吹き飛ばし、勢いそのまま隣の怪獣の首も吹っ飛ばした。
ラッキー! ……あ、いや、正に私の狙い通りだわ。
スタっとスタイリッシュに着地を決めて、アルスさんとハイタッチを交わす。
「流石ですね! ライオン!」
「よせやい、でもまだ怪獣は残ってるんだし、油断禁物ですよ」
「はい……あっ、あれ」
晴れやかだったアルスさんの声が急に曇ったんで、振り返りその視線の先に
目をやると、首のちょん切れた怪獣が、そのままこっちに向かって突進している。
そうだった、機械なんだもんね動けないように全部ぶっ壊さないとだったわ。
そうとなれば、それをただ実行するのみ!
あの怪獣の装甲をぶつければ、怪獣は壊せるとなれば、この辺りの瓦礫を
どんどんぶん投げていけばいけば良いって話しだよね。
ドスドスと落っこちてくる巨大な金属の雨に向かって駆けだした。
「そうらぁ!! オラァ!! とりゃあ!! もう一丁!!」
次から次へ、降って来るスクラップを怪獣目掛けてボレーシュートを放つと、
面白いくらい見事に命中し、そこはバッキバキに壊れてはいくんだけど、
原型が残らないくらいズタズタにしないと、ヤツら突進を辞めないんだよね。
ホント手間のかかる奴だな……。
しかし、そうして破壊すれば動きを止められるんだからどんどんいこう。
1体、2体、3体、よん……あれ? あらら、部品が無くなっちゃった。
だったら、私が飛んでけば良いって話しだよね。
くっと膝を折ると地面を蹴って怪獣目掛け飛び出し、ブチ当てたパンチそのまま
綺麗に体を突き抜けちゃったんで、すぐさま体制を整えて振り向くと、
残ったボディの内部に響く重目のパンチをコーンと食らわせてやると
振動を起こしながらバキバキにヒビ割れると、粉々になって辺りに飛散してった。
ホっとする暇も、格好付けてる暇も無いよね、まだ1体残ってるんだしね。
最後の怪獣に向かってよ~く狙いを定め、クラウチングスタートを切って、
一気に飛び掛かり怪獣まで数十メートルというところで、咄嗟に森の木を掴み
ブレーキをかけて地面に踏ん張り止まった。
何せ突然空から巨大なビーム光線が刺し、怪獣のボディを焼き貫いて
ポッカリと丸い大穴を開けているんだもんね。
腹を貫かれた怪獣は、数歩進んだかと思ったらそのままバタリと、
いやドンガラガッシャーンと、ぶっ倒れてしまった。
光線を放った元を見上げると、眩しい陽の明りで逆光の影になってて
よく分からなかったんだけど、ゆっくりとこちらへ向かって高度を下げ、
その姿を次第に明らかにしていく……ヒロイックな雰囲気を醸し出す
シルバーの流線形ボディに青いラインが数本走った格好良い宇宙船、
私がアルスさんに乗せられて来たのと同じものだ。
その宇宙船がある程度の高さでピタリと空中に制止すると、男の声が響いた。
「アルス! 無事か!?」
どうやら、知り合いの銀河パトロールのお仲間か何かかな?
取りあえず、一旦ここでブレイク。




