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2-10 オブザバトリー

「何を騒いでおるのか?」


 どうも、リスナーの皆さん、イタズラが先生にバレちゃってどうしよう?

そんな懐かしの絶望感にハラハラドキドキな『マスクドDJ雷音』です。

アモルフォの巨大城から、宇宙海賊キャプテンワールドを連れ去ろうと、

カナロアさんを女王アルノルディに変身させて、まんまと城の人間達を騙し

もうあと少しで外に出られるといったところだったのに、残念ながら

シーム星人の変身を見破ってしまう兵士に見付かっちゃった。

そうこうしてる内に、アルノルディも現れちゃって、もうサイアク……

気分一つで、ホイホイ命を奪ってしまう死神を相手に、さあどうしたもんでしょ。


「あ~……ちょっと、急用で、ぁいや仕事がね、絶対外せないのがあるのよ」


「ワールド、これはどういう事でしょうか」


無視かい。

でも、ワールド1人だけ量産型な格好させられてないし、あの豪華な部屋だし、

やはり女王にとって格別の思いがあるんだろう……その点でワンチャン無いか?

一方、ワールドもワールドで、女王に対して、ただ自分の自由を奪おうとする

厄介な相手というわけでも、これ無さそうなんだよねぇ。

こんな事だったら、もうちょっとよく話し聞いておくんだったかな。

この宇宙の全ての美しいものを守りたいなんて奴が、この眩しい程の美貌を持つ

女王だけはスルーって事も無いでしょう。

脱走前の態度も、何か色々含みあったもんね。


「すまん、アルノルディ、黙って行こうとした事は悪かった。

ほんの数日で良いんだ、俺がそのままお前を一人にするわけが……」

「これで5度目、あなたはそう言って城を出ては、帰れぬやもしれない危険に、

簡単にその身を投じてしまうではありませんか」


「え? 常習者なの?

いや、その癖ホント直した方が良いよ、すぐに命賭けちゃうやつ。

こうして待ってくれてる人がいる奴のする事じゃないよ? ねえ女王?」

「…………」

「あ~……でも、これ男としては憧れなくも無いわけよ。

この宇宙中に数多ある、美しき物を人生の全てを賭して守る!

その己の正義の元に生き、その思いに賛同した者達と共に宇宙を駆け巡る!

いやぁ~格好良い、もう生き方が格好良いよね、しかも利己と利他が伴ってて

文句の付けようが無いじゃない? なかなかいない素晴らしい男だって思うよ。

だからさぁ、ちょいちょいここに帰ってくるって言ってるんだし

少しくらい認めてやっても良いんじゃないかなぁ?」


こう無駄に言葉数が増える時ってのは、だいたい頭の中が整理出来ていない。

吐いた言葉の補足を補足で何とかならないかなって場面でよくなっちゃう奴ね。

つまり大体が、口から出まかせなのよね。


「ライオン、お前の話しは聞いていません」


そんでもって、聞くに堪えないものになるわけよね。

いや、それ以前の問題っていう状況だよね今は。


「…………」


「悪かった、せっかく連れ戻した愛しい人を3日と経たずに誘ったのは私だ。

いや知らなかったからさぁ~、そんな事情があるってことは。

何せワールドは、あんたに捕らわれているんだって話しを聞かされてたし。

でも、そういう事なんだったら、キャプテンお前は暫くここにいるべきだよ。

危険な旅を続けるお前さんの身を案じて、ずっと待っててくれてたんだ、

その気持ちに対してまんざらでも無いんでしょ? だったら先に言ってよ~。

とんだオジャマ虫しちゃったじゃない、本当にごめんっ。

帰る場所がある、待っててくれる人がいる、こんなに幸せな事は無いよ?」


違う違う、これはその~……アレだよ。

ワールドが黙って変な沈黙を作るから、放送事故を自然と避けようとする

職業病みたいなものであって、冷静な時は、こんな馬鹿ではないからね。

馬鹿ではない筈だけど、やっぱり重苦しい空気がずっと続くんで、

もうこれは条件反射としてのアレだから、もう苦笑いして許して。


「…………」


「そんなわけで、私にも故郷で私の事を待ってる人が大勢いるんですよ。

ちゃんと水曜日の夜には、この声を聞かせてやらないといけないわけ。

ここには黙って来てるけど、こういう状況だなんて皆に知れたら、

それこそ、あんたと同じで心配で心配で食事も喉を通らないんじゃ……

あ、いや、そうでもないか、私は無敵のスーパーヒーローだからね。

イヤイヤ、でも仕事に穴を開けちゃいけない。

責任を果たすっていうのもあるけど、楽しみにしてくれてる皆を

ガッカリさせるわけにはいけないからね、そんな訳で了解してくれないかな」

「ライオン、お前には聞いていません」

「そ、そうだね……じゃあ、後の事は二人でじっくり話してもらうって事で

私は失礼する事にしますね、じゃ~また……」


そそくさと、その場を後にしようとした私の頬を掠めて衝撃波が通り過ぎ、

壁に外が見えるくらいの大穴を開けた。

今ので集合していた兵士達が5、6人は巻き込まれちゃったかな。

振り向くと、そこには女王が綺麗な顔が台無しになる、怖い表情をしている。

突然の事態に兵士達もドヨドヨと狼狽えまくっている。

私も内心ガクブルだよ、これは確実に事態の悪化しかしていない。


「わ……悪いねぇ、出口ならそこの門を開けてくれるのでも良いのに。

でも有難う。 少しの間だったけど実に刺激的な体験だった。

今からこれをどう皆に伝えたものか、考えるだけで楽しくなってくる。

感謝してるよ女王様、じゃあまた会お……」

「許しません」

「え、いやいや、今は愛する者同士の危機なわけでしょう?

私なんかに構ってないで、しっかりと話し合った方が良いって、絶対」

「行く事は許しません」

「いやだから、私は地球で外せない仕事があるの、私にしか出来ないやつが」

「我には関係の無い事です」

「そう、私にも関係の無い事です、私がここにいなきゃならないっていう

そもそもの話しとか、あんた達二人の愛の危機とか全部が全部ね」


「やめろライオン! アルノルディ違うんだ、こいつは辺境の星の者で

その外へ出たのも初めてだ、全く何も知らないんだ」


益々怖い目付きで睨む女王と私の間に、キャプテンワールドが入り込んできた。

何も知らない田舎者って扱いは、少し引っかかりはするけど

仕方ない、本当に何も分からないわけだからね。

でも当の女王は、そんな事で事態を収める気はさらさら無い様子だ。


「このような野蛮人には、力で思い知らせるてやるのが良いであろう、

そこを退きなさいワールド」

「良いねぇ~、らしくなってきたじゃないの、死神さん」

「数々の無礼、今は田舎者の無知故にという事で許しましょう、

すぐにそのような口は、きけなくなるのですからね」

「OKだ、じゃあ表に出よう、私と本気でやり合ったら、こんな城なんて

あんな穴の1つや2つじゃ済まないからねぇ」

「表に?」

「そうだ、聞けばこの星に建物はこの城一つ、外はやたらと広い大自然、

それぐらいの場所じゃないと私のパ……って、うわぁ」


あまり前をよく見ずに、女王の明けた大穴を話しながら進んでいくと驚きの風景!

城をぐるりと囲むように底も見えないような深い大渓谷になってるの。

お堀ってやつかな? 掘った人はさぞ大変だっただろう凄い深さと幅だ。

まさか城の周りに、こんなものがあったなんてね。

遠くから見たんじゃ、ジャングルの木々で城の周りは見えてなかったし、

ここに来るのも窓一つ無いタコ部屋に入れられてたんだったわ。

その深い谷には、門から続く大きな橋がかかっているけど、

たった今開通した穴っぽこの先には何も無くて、危うく真っ逆さまだったよ。

いや待てよ、さっきの女王の攻撃で何人か落ちたぞ? 大丈夫なのか?

……しかし、これは丁度良いぞ。


 一同仕切り直して、門から谷に架かる巨大な橋の上に、私とカナロアさん、

キャプテンワールド、それに対する形で女王と取り巻きの兵士達が揃った。

さっきまでの、息が詰まるような灰色の濃淡だけの風景から抜け出せただけで

何となく解放感を感じてしまうね。

ここが、深い谷の上にかかる橋で、ずっとお冠の死神様に睨まれてなきゃ

もっと良かったのに。


「わざわざ、逃げも隠れも出来ぬ場所を選ぶとは、つくづく哀れですね」

「その哀れみの心で、一つ私達を自由にしてくれりゃ~話しは済むんだけどね」

「黙りなさい!」


女王の目が見開いたと同時に、その身に纏っている装飾品らしき宝石が輝き、

強烈な衝撃波が私めがけて飛んできた。

音も無く発せられるパワーに、辺りのチリが一瞬で飛散してゆく事で

そのスピードと威力が良く分かる。

どういう仕組みなのか分からないけど、さっき城の壁に大穴を開けたやつだ、

たぶん例のエーテルだかヨーデルだかそんなのが巻き起こしてるんだろう。

だが、こんなもの避けるまでも無い、正面から受け止めて、跳ね返してやる。

そっくりそのまま帰っていく衝撃波は、女王と兵士達を飲み込んだ。

数メートル吹き飛ばされつつも、強固な鎧に身を包んだ兵士達は無事そうだ。


「きゃっ!!……お、おのれっ」


女王も驚きはしているが、強風に吹かれた程度にしか効いてないんじゃないか?

あと、案外可愛いリアクション取るんだなってのには驚いたね。

さ~て、次はどう来る? そろそろこっちからも仕掛けるようか。


「そんな半端なパワーじゃ、無敵のスーパーヒーローは倒れないね」

「いい気になりおって……」


女王の目が銀色に輝く、髪は緩やかに逆立ち、薄布で作られた服が揺らめく。

あ……これは、あのヤバイやつだ!! ちょっと煽り過ぎたか?

ここの隊長に任命されてるんで、本気で殺しに来るのはもっと後だとばかり……

こんなに早く出してくるなんて思ってなかったんだけど、どうしよう。

いや、何もかも女王の気分次第なんだったか。


「ここまで我を怒らせて、殺されずに済むとでも思ったか」

「あ……あれ? おっかし~な~無礼講の場だったんじゃないの?」

「冥界で、これまでの愚かな言動の数々を悔いるがよいっ」


女王の掌が私に向けられる……どうなるの? これどうなっちゃう系のやつ?

避けれる? 逃げれる? そもそも何が来るの!?


「……?」

「……?」


再び、女王の目が銀色に輝き、髪とセクシー衣装がユラユラ揺れる。

そして私に向けられた掌に力がこもる。


「……?」

「へ?」

「……何故死なないっ」


いや……知らんよ、そんな事。

……ちょっとブレイクしよう。

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