2-8 ザ メダリオン コールズ
「それで、まんまとこんな所まで連れて来られたというのか」
「全く酷い話しだ、人の親切心を何だと思ってんだか」
「悪く思うな、あいつらも俺をここから出そうと必死なんだ」
「まぁ~その甲斐あって、あんたはここから出られるわけだ」
「それは、どうだろうなぁ……」
自称宇宙海賊ブラザーフッドのボス、キャプテン・ワールド、
現在彼は惑星アモルフォにある、巨大な城の一室に囚われている。
私はこいつを助けに遥々やって来た……つもりでいたんだけど
女王と宇宙海賊との間では、ワールドの解放の条件として
私をここへ連れてくるって話しになってたんだとさ。
私達を攻撃してきた宇宙戦艦部隊も、この星で戦った兵士達も全部
私の力を試す為のものだったって言うんだから、
全くご苦労な手の込みようだこと。
私が優しく手加減してなかったら、どうなってた事か本当にもう。
どうも、リスナーの皆さん、そんな宇宙一お人好しのが私
スーパーヒーロー『マスクドDJ雷音』ですよ。
……虚しいねぇ~。
いやしかし、幽閉なんて言うもんだから、どんな境遇なんだろと
心配していたんだけど、何とも快適そうな部屋だこと。
高級ホテルの特等室のような広さと、清掃の行き届いた清潔感、
異文化民から見ても何となく分かる豪華な調度品の数々、
所用はハウスキーパーが全部やってくれると来たもんだ。
ここに住んで良いって言われたら、それを振り切れるかね?
なんて恐ろしい脱出困難な牢獄だよ、全く。
「そうだなぁ、ここは過ごしやすそうだし、出ていけないかぁ~
って、じゃあ私は何の為に来たんだよ!?」
「お前も見たのだろ、アルノルディのあの力を」
「あぁ見たよ、全てを殺し、全てを破壊する力ってやつね」
「あれがある事で何者もアルノルディに異を唱える事は出来ない。
メデアが具体的にどのような契約をしたのかは知らないが、
それを反故にされようとも、俺達はそれを飲むしか無いんだ」
「はぁ~……全く、とんでもない事に巻き込みやがって」
「巻き込まれたのではない、この宇宙に住む者は全て
アルノルディのお目溢しで生きているに過ぎない。
目を付けられたら終わり、諦めるしかないのだ」
相変わらず、下等生物を見下すような鼻に付く言い方だなぁ、
諦めるしかないなんて負け台詞を、格好付けて言ってんじゃないよ。
「分かった、諸問題は一旦置いておこう。
あんたはどうしたいんだ? そこをハッキリさせておこう。
ここを出て、メデアさん達の所へ帰りたいのか?」
「…………」
え、だんまりなの?
女王の厄介な力とは別に、素直に思いを聞いてるんだけどな。
でも、迷うって事は、出たいような出たくないような複雑な感じ?
それとも諸問題は一旦置いて考えるって事が出来ないのか?
何にしても、この方向じゃ真面なやりとりになりそうもないか。
「ところでさ、あんたらは一体何をしてる集団なんだ?」
「どういう事だ?」
「仲間以外には自分達の事を宇宙海賊って呼ばせてるみたいだけど
宇宙船を襲って、略奪とかしちゃってたりする悪党なわけ?
でも、それにしちゃ~お節介にもシーム星を救おうとして、
慈善活動に命を懸けたりもしてるわけじゃない?」
「世界には命を賭す価値を持つ美しいものが、無数に存在する」
「お、おう?」
「芸術品は言うに及ばず、生物や風景、または星そのもの……
それらが、その価値も分からぬ者達によって汚され
破壊される事が我慢ならない、こういう気持ちが分かるか?」
この人は、黙ってても語り出しても大袈裟な空気を放つよな。
要約すると、俺は俺のルールに従いこの宇宙の美しいものを
守ってるんだぜ~って事で良いのかな?
「お、おう、分かる分かる」
「だろうな、あの時、同じ目的でホープで出会っていた時点で
お前とは同志にもなれる筈だったのだ」
「そ、そうだな、ははは……」
「あの美しいシーム星が崩壊するのを黙って見過ごすなど
力有るお前なら出来る筈が無い、俺達もそうだった」
いや、あの時点ではシーム星なんて見た事無かったし、
綺麗な星だから守りたいっていうのとは、ちょっと違うんだけどなぁ。
「そこに住むシーム星人もそうだ、種として高い知性を持ち
素晴らしい発明品の数々は、この宇宙に無くてはならない存在だ。
あの高い共感能力で相手の理想の姿に変容するというのも
究極の美の一つと言えるだろう」
「そいつは、どうかな~」
「何? どのような文化、価値観、美意識にも左右されない
その者にとって、正に理想の体現としてそこに在るのだぞ」
「いやぁ~それはそれで、案外考え物なんだよ。
シーム星を救った後、避難してたシーム星人達が帰ってきてさ、
星を挙げての大歓迎イベントが開催されたんだ。
で、私の事を一目見ようと集まった群衆がさ、とんでもないのよ。
視界を埋め尽くす全てのシーム星人が、老いも若きも男も女も
み~んな理想の美女に擬態してるって、あの風景ってのは……
ちょっと、狂気の世界だったよね」
「……では、お前が連れている、あのシーム星人は何なのだ?
そのような特殊な状況でなければ、心奪われたのではないのか」
「まぁ、そうなんだけど~……でも、ふと考えちゃうとさ、
カナロアさんと一緒にいる事ってどうだろって思う事もあるよ?
自分の理想や好みや性癖みたいなのフルオープンで
見せて歩いてるようなものなんじゃないのか? ってさ」
「……な、成程……そんな事、考えもしなかった」
「あんたの言う事は分かるんだよ、凄く分かる、概ね同意だよ。
でもね~、美しいから大事にしなきゃ、守らなきゃとか、
理想通りだから愛するとか、そりゃそういう気持ち凄いあるけど、
それだけって事でも無いわけなのよ」
「それは……ヒーローだからか」
「そう、ヒーローだから」
「フフ……はっはっはっはっ、やはりお前は面白い奴だ」
「そりゃどうも、さ~て、お喋りはそろそろ終いだ。
あんたは、これからも美しいものとの出会いを求めて、
ここを出て、再び広い宇宙を駆け巡りたいのか、どうなのか?
それを聞きたい。
ここに居たいのなら止めはしない、私らだけで帰るとする」
「無理だ、この城の中では、そのテレポータンの転送も遮断される」
「瞬間移動出来ないなら、歩いて出て行けば良いじゃないか」
「多くの見張りの目もある、騒ぎを起こせばたちまち……」
話していると突然扉が開き、女王が部屋の中へ入ってきた。
急にピリっとした緊張感が走り、ワールドの目付きも変わる。
「あ……アルノルディ」
「に、擬態したカナロアさんだ」
「な、何だと」
「さぁ、一緒に来るかい?」
ドヤ顔で迫る私達に、ワールドは静かに頷いた。
よっしゃ、キャプテンの腹も決まったし、さっさと行こう。
「あ~そうそう、私を連れ歩くのが恥ずかしいって野郎は、
無理にいらっしゃらなくとも、構いませんのよ?」
「ちょっ、聞いてたの? そんな意地悪言いっこ無しだよ」
「理想や好みや性癖を見せ歩くのは、さぞお恥ずかしいでしょうし」
女王本人は絶対しないような、イジワルな顔をするカナロアさん。
まぁ、私も失礼な事言っちゃったけどさ。
それはともかく、色々あったものの囚われのキャプテンは
無事に確保出来たわけだ。
え? お前だって囚われの身だろって?
ものは考えようだよ、悪い状況も上手く使えば、こんな感じで
一気に目的に到達出来たりもするわけじゃない。
諦めないって大事な事なのよ。
さてさて、いよいよ脱出作戦の開始だけど、ちょっとブレイクだ。
 




