2-4 アデリー
やぁ~リスナーの皆さん、未知の世界に、未知の異星人達、
見るもの、聞くもの、感じるもの全てが、それまでの常識を覆す中、
その中心にあるものが愛かもしれないって……何か良いよね。
どうも、辺境の惑星からやってきたヒーロー『マスクドDJ雷音』です。
この宇宙で死神として称え恐れられている女王アルノルディは、
自分にしか破壊する事が出来ない物質アブダイトを破壊した者を
見過ごすわけにはいかなかったんだけど、その破壊した張本人を
私ではなく、宇宙海賊キャプテンワールドだと勘違いし、
しかも恋に落ちちゃったという、ややこしい展開。
キャプテンは女王の星、アモルフォに連れ去られてしまい
残された宇宙海賊達は、女王の元からキャプテンを救い出そうと
私に助けを求めて来たそうなんだ。
浅からぬ縁の宇宙海賊達の切なる思い、聞いてやらないわけにもね。
さて、通された部屋で過ごす事1時間、ようやくその時がやってきた。
船内に艦橋からの放送が響く、間も無くアモルフォに到着、
戦闘員は配置に着き待機せよとのこと。
あの艦隊戦から道中何事も無くやってきたけど、いよいよ敵の本拠地だ
のんびり宇宙旅行もここまでで、ここから先はピリピリムード全開かな。
取りあえず私達はどうしたら良いのかな~って思っていたところで
部屋のドアがプシューっと音をたてて開く。
廊下にはメデアさんと、その後ろに数人の宇宙海賊も並んでいた。
警戒中だからかメデアさんの長い髪はコンパクトにひっつめられている。
「ライオン、カナロア、お前達は第2ドックで着陸艇に乗ってくれ」
「お、早いな、もう着陸準備か」
「アルゴーはこのまま真っすぐアモルフォに向かい奴らの目を引き付ける
その隙に我らの乗る着陸艇は、別ルートでアモルフォへと向かう」
「我らの乗るってことは、案内はメデアさんが?」
「そうだ、急いでくれ」
そのまま部屋から追い立てられ、速足で通路を進む。
さっき使った戦闘機ドック以外にも、着陸艇用のものもあるんだね、
デカイ船なわけだ。
それ故に、良い囮にもなるってわけなのね。
そんな巨大戦艦に収納されている、小さな着陸艇に乗り込むと、
私達はコッソリと出航し、惑星アモルフォへと向かった。
着陸艇は操縦席、副操縦席を含め、シート6つの小ぶりな船で、
黒いボディで、ペンギンみたいな丸っこい流線形をしている可愛いヤツだ。
ジェームズと呼ぶとしよう。
あ、好きなペンギン映画の役者さんの名前ね、気になったら検索して。
ジェームズには、パイロットのメデアさんが勿論操縦席に座っていて
その後ろのシートに、私とカナロアさんが座っている。
駆動音もしなければ風を感じる事も無いんだけど、左右や後ろへの
慣性を強く感じるんで、結構な高速で進んでいるらしい。
機内解説や救命胴衣の説明も無いんで、到着まで結構な手持無沙汰だ。
そう言えば、もう随分スマホもまともに触れてないなぁ~
当たり前だけど電波も届かないんで、SNSのチェックは出来ないしね。
何となくバッテリーが勿体なくて、電源は落としてある。
そうこうしてると……ついに惑星アモルフォが見えてきた。
いやぁ~単純に、綺麗だ。
この前見たシーム星がアメジストなら、アモルフォはエメラルドか、
暗黒の宇宙に煌々と緑に輝く巨大な宝石だ。
思わず胸ポケットからスマホを取り出すと、久しぶりに電源を入れ
その美しい光景を撮影していた。
ネットに繋がってたら、何個いいねが貰えてるかなぁ。
それどころか、YouTubeで夢の広告収入が得られたりしてね。
そんな私の感動は他所に、ジェームズは速度を保ったまま、
どんどん目の前の宝石に突っ込んでいく。
死神の軍隊も出て来ないんで、上手く囮に引き付けられてるのか、
ジェームズには凄いステルス機能が備わってるとかなのか?
「これより再突入に入るっ」
ピリっと緊張感高まる声で、メデアさんが声をかけてくれた。
大気圏再突入、星間移動で最もハラハラする展開だよね。
私はこれが人生2回目で、慣れたもんですよ、緊張とかは全然無い。
前回の生身と比べれば、格段の安心感があるから。
よくSFで見る、圧縮熱だか大気との摩擦だかで船が火の玉になったり
船内が蒸し風呂のように暑くなるなんて事は無く。
数秒の激しい振動をやり過ごすと、実にスムーズに地面へと着陸した。
そもそも、こっそり忍び込んでるんだし、ドッカーン! と着陸して
地面に巨大クレーターが出来上が出来るような事はしないか。
宇宙海賊の技術ってすげぇ。
ジェームズを降りると、そこはまるでジャングルのように、
色とりどりの巨大な植物らしきものが鬱蒼と生い茂っていた。
巨木が幾つも聳え立ち、その隙間を背の高い草が茂っていて
身を隠すのには丁度良い感じだ。
しかし、ここを歩いて進むのかと思うと、とても嫌な感じだ。
カナロアさんは、こういうものには興味津々といった感じで
周りの植物っぽいものを次から次へと見入っている。
植物っぽいものの他にも、虫っぽいもの、鳥っぽいもの等々
当たり前だけど、図鑑やテレビでも見た事無いものばかりだ。
実際見た事無いんだけど、ざっくりとした雰囲気は
テレビで見た南米のジャングルに似てる……ような気がする。
「珍しいのは分かるが気を付けろ、厄介な生物も生息している。
辿り着くまでにトラブルは起こしたくないからな」
メデアさんが作業の手を止めず背中向きで忠告してくれた。
確かに、毒ヘビとかジャガーとか軍隊アリなんかに出くわしたら
発狂ものの大パニックだもんな。
この星には、もっとヤバイのがいるのかもしれないし、
大人しくメデアさんが渡してくれた腕時計型の装置を装着した。
手首に巻くベルトには、小さな2つのメカが取り付けられている。
1つは私でも知ってる、スイッチ1つで母艦に転送される
超便利ガジェット『テレポータン』だ。
で、もう1つは……
「メデアさん、こっちのコレは何に使うんですかね?」
「こいつは『リフラクター』、使い方は……こうだ」
そう言った直後、メデアさんの操作でジェームズが音もなく
すーっと消えて見えなくなってしまった。
いや、よーくよーく目を凝らせば周りの風景と少しだけズレてて
違和感をおぼえなくもないんだけどね。
光学迷彩っていうやつ? そう言えばホープでも海賊達は使ってたな。
感心しながら、自分の腕のスイッチも何度か押してみたんだけど、
自分の体が消えたり現れたり、何とも言えない妙な気分ですよ。
瞬間移動が出来る機械に、透明人間になれる機械かぁ~
……あ、別に邪な想像はしてないからねっ。
「原生生物の目程度なら誤魔化せる、これを使って進むぞ」
なるほど、こんな機械が普通にあるって事は、それを見破る技術だって
もうあるって事なんだろうか?
誤魔化せない場合も結構ありそうな言いぶりだ。
調子に乗らずに、気を引き締めて行こう。
(ぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴ)
あ、やばい! スマホの電源を切り忘れていた。
画面を見ると、目覚ましのアラームが鳴る時間だった。
1日が24時間の、地球の時間感覚がもう懐かしいよ。
でも皆の姿が消えていて良かった、どんな冷たい目で見られる事か
想像するだけで、いたたまれなくなるよ。
スマホの電源をしっかり切り、今度こそ気を引き締めて行こう。
今回はこのへんでブレイク。
しかし、早く地球に帰って仕事しないと、私の生活の危機が……。




