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スウェーデンという経験  作者: 泰平
8/10

短編連載(8)

泰平タイヘイと申します。

投稿1弾は、大学生時代の留学経験を基に書いたフィクションです。


8話目は、街の治安について...



僕自身は書きながら深刻になりなりすぎる気がございますが、読者さんには、サーと読み流していただいて、面白いと言っていただける方がいれば当分連載を続けたいと思います。


【この話で「僕」は、スウェーデンで「彼女**暖炉を囲んでいた時と、彼女と再会した時で根元的には同じ*を抱えてい**。それは「僕」がいくつも経験したであろう幸福とは別の問題なのだ。幸福とは**であると思う。僕が「幸福で人は救われない」と言ったのもそのためだ。】とほとんど、読める。


解読しようと原稿を注意深く指でなぞっていると、彼はトイレから帰ってきた。


『待たせて、すまない。お手洗いがなかなか見つからなくて...』と彼は言った。

『いえいえ、まだお話は終わっていないですよね。』と僕は言った。


『まぁ、話せないことはないがね。』とタツロウは言って、フッと軽く笑った。


『一応確認なんだが、もし私の言う話が、単に私が経験した時代に特定された事物、つまり友人や近しい物を語るだけのものなら、その事実がもはや存在せず、そんな時代も社会もなくなってしまった後、残る物は何もないし、現実性を失い、打ち捨てられた廃墟になるしかないと思うんだ。それについてはどう思う?』と彼は唐突に僕に質問してきた。


『僕はあまり、話の真実味は気にしませんね。それよりも、もう少しタツロウさんの話が聞きたいかもしれません。「打ち捨てられた廃墟」という意味は分かりませんが、どちらにせよ、今の僕にはよくわからないことです。』と僕は言った。


『そうか...じゃあ、もう少しスウェーデンについて話そう』と彼は言って少しの間、僕の時計を眺めながら黙っていた。


『 12月も後半になると雪がちらついてくるんだ。』彼は話し始めた。

『気温の高低差が激しくなり、私も軽い風邪を何度か引いた。


 雪が降り続くと、いつも通っていた道がなくなったように見え、湖は一面凍り、景色が一変する。

寮の裏ではサッカーグランドだったところに水を撒いて凍らしたのか、いつの間にかアイスホッケー場ができていて驚いた。

 それからは、近くのスーパーに行く道すがら、地元に住む子供たちがアイスホッケーを楽しんでいるのをよく見かけた。


 どのような環境にあっても人は知恵を持ち合い、様々な工夫をして生活を豊かにするすべを見つけ出すということかもしれない。

 何度も言うようだが、北欧のいくつかの街は住み続けるには非常に過酷で、子供たちが凍り付いたサッカーグラウンドでアイスホッケーをしている姿に私は驚いた。


 スウェーデンに滞在している間に特別治安が悪いと感じたことはなかった。スリやそのほかの犯罪に出くわしたこともなく、アイスホッケーを楽しむ子供たちも8時を過ぎてようやくちらほらと帰りだすくらい安全にかけては日本とも変わらない。


 ただ、私は夏の終わり、スウェーデンで電車に乗っている間に車内で、人生初めて荷物を置き引きされた。

 スウェーデンからイギリスへの旅行日なので荷物が多く、私はシートの上の荷物置きに貴重品を詰めた小さめのバックパックを置いていたが、気が付くとなくなっていた。

  電車の中での置き引きは比較的治安のいいスウェーデンを含め、ヨーロッパ全土で起こることらしかった。

 その後は電車移動の際は特に注意を払うようにした。

 

 住んでいた街を一歩外に出ると、まるで危険地帯のようだったが、街の中では夜に一人で歩いていても危険を感じることはまずなかった。

 あるとき街のパブで飲みすぎて休憩をしようと一人で外へ出て道のベンチに座っていたところ、よほど気分が悪そうに見えたのか、道を通り過ぎる人が代わる代わる何人も近づいてきて


 “Are you ok? Need some water?” 「大丈夫か?水がほしいか?」と何度も聞かれたことがある。


 もちろんすべて丁寧に断ったが、そのうちの一人は私が断った後、数分すると水を買ってきてわざわざ戻ってきてくれた。

 嬉しかったが、私は炭酸水が苦手で、買ってきてくれた水が炭酸水だったことに気付かずに一口飲んで、気分がさらに悪化してしまったんだ。炭酸水を持ってきてくれた男は気の毒そうに私を見てひとこと何か言って立ち去って行った。


 基本的に街の人々はとても親切なのだが、冬になると、急速に心の余裕が失われていくようだった。

 1月も終わる頃、半年で留学を終える友人とお別れ会をかねて夜にバーへ行った時、酔った勢いとはいえ、その一晩で、もめごとに二つも巻き込まれたことがあった。

 イタリアとアフリカからの留学生と、地元のスウェーデン人の間で喧嘩があったのだ。


 実際に私がその場に立ち会ったわけではなかったが、友人の一人がスウェーデン人から雪玉を突然投げつけられ、近づいてきたかと思うといきなり殴られたそうだ。


 にわかには信じられないが、その後乱闘になり、街でも大きな騒ぎになった。


 私のバディーは、スウェーデン人とその喧嘩について、移民が急増しているからだと言っていた。


  “People started hating immigrants because of some crimes committed by foreigners.” 「外人の犯罪のせいで、スウェーデン人は移民を疎ましく思い始めている。」と。


 彼がその時意味していたのは、若い中東からの移民が犯したレイプ事件によって、スウェーデンにおける移民の問題が人種差別と結びつき始めているという事だった。

 彼がただの怠けた若者ではなく、その「憎しみ」に立ち向かい、戦い続けてきた勇者の一人だったのだと気付いた瞬間だった。


 一度冗談めかして彼が言った言葉が印象的だった。


“I cannot be just handsome. I have to be cleverer than white men.” 「俺はカッコいいだけじゃダメなんだ。白人どもより賢くなけりゃ。」


 肌の色が違うのだから当然と、それまであまり意識をしませんでしたが、彼は私のスウェーデン人のイメージとは見た目も振る舞いもまるで違っていた。

 彼は、「白人ども」と言ったが、インド系の自分と白人系の人間にあるのは「差」ではないともちろん理解していたと思う。


 しかし、それと同時に、私は彼の中にあるどす黒い「ねじれ」を垣間見た感じがした。

連載にしましたが、毎日2千字くらい書いて投稿していきます。

全体で、約2万字ほどの一片の短編小説にする予定です。


泰平

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