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スウェーデンという経験  作者: 泰平
6/10

短編連載(6)

泰平タイヘイと申します。

投稿1弾は、大学生時代の留学経験を基に書いたフィクションです。


6話目は、スウェーデンのアート・デザインについて...



僕自身は書きながら深刻になりなりすぎる気がございますが、読者さんには、サーと読み流していただいて、面白いと言っていただける方がいれば当分連載を続けたいと思います。


 そういえば、スウェーデンの大学で受けていた授業のひとつにスウェーデンのアート・デザインに関するものがあった。

 授業は講義形式だった。一つの机を囲みながら生徒みんなで教授の話を聞く。

 日本の学校と同じかと思った。

 でも人数が少なく、生徒との距離が近いので、教授は授業を進めながら、よく質問をしてきた。

 教授はスウェーデン語と英語を混ぜて話すから、非常に聞き取り辛く、質問を理解することだけに集中して、よく答えに窮して困ったものだった。


 あと、宿題の詳細を何度も聞き逃して悔しい思いをしたものだ。


 文化の違いに関する質問では、


“What about Japan?”「日本では、どうなのか」とよく聞かれた。


 その度に私は口ごもり、まともに返答することができなかった。


 質問の意味が分かっても、それに答えるだけの力がなかった。

 日本文化、至っては日本そのものに関して聞かれても、良く知らないし、後で思い返すと、日本について、ひどく教授を誤解させた気がする。


 授業を経るごとに自分の無知の事実を痛切に感じた。


 遅ればせながら、Wabi Sabiついて調べ始めたが、本当にさっぱりわからず困った。もしかしたら英語で書かれた資料を読んでいたからかもしれない。

 

 そんなこんなで、日本文化を発表する日がついに来た。「ついに」というのは、授業が始まった当初から、発表が決まっていたのに、私がずるずると先延ばしにしていたのだ。



 「猿蟹合戦」という日本昔話について調べ、それを英語に翻訳し、絵を添えて紹介したら、パチパチと拍手された。特にフィードバックはなかった気がする。皆すでに知っていた話だったのだろう。


 アートの授業には留学生がお互いの国の文化を紹介し合う以外にも、課外活動があった。

 スウェーデンの田舎町を訪ね古い教会の中で賛美歌を歌ったり、街の美術館に行くことができた。

 授業を一緒に受けているクラスメイト全員で夕食を共にし、授業を中心にスウェーデンで人の輪が広がっていくのを感じた。

 前にも言ったが、留学生の多い国際的な大学なので、スウェーデン人の学生と知り合いになるのは非常に難しく、大学側はそれを見越して留学生にバディー制度やフレンドファミリー制度をすすめている。

 どちらの制度も留学生とスウェーデン人を引き合わせて交流の機会を作ることが目的で、日本の大学でも留学生向けに設けているところは多い。


 かく言う、私の通っていた大学でも留学生にバディーの学生を付ける制度があった。


 ただ私が留学していたスウェーデンの大学が提供するのは単なる友達交流の場ではなく、地元に住んでいる人達と交流できる場も含めてのバディー制度だった。


 私のバディーは、平たく言うと中東にあるどこかの国の貴族の出身だった。


 その家は庭が数百平米あり、5人家族なのに部屋が10数個あるらしかった。


 金銭的な融通はかなり利くのだろう。スウェーデンに移民したのも貧困のためではなく、子供の教育が目的だったと、私のバディーの母親が言っていた。


 この彼は、(あくまで私の目から見ればということですが)問題児だった。


 イスラム教を守っていると親には言いながら、酒、女遊びの絶えない遊び人だった。


 私は友達として彼が好きだった。が、部屋の片づけを頼まれたので、身にいて見ると、窓枠にほこりが詰まって、窓を開けることすらままならなかった。


 彼とはよくスウェーデンという国や人について話した。私が「スウェーデンという経験」なんて長い話を始めたのも、彼の影響によるところが大きい。


私の話ばかりで悪かった。

君には、これを見てほしかったんだ。』


と彼、タツロウは言って、原稿用紙を5枚ほど取り出した。


『これは?』

『これが、今日の話のいわば肝でね...』と彼は言って、僕にその紙を渡してきた。

『私がつたないスウェーデン語を翻訳したので、少し表現には齟齬があったりするんだろうが、大学生の頃のことだ。良かったら読んでやってくれ。


それでは、少し私はお手洗いを探してくるよ。』と彼は言って立ち上がった。

連載にしましたが、毎日2千字くらい書いて投稿していきます。

全体で、約2万字ほどの一片の短編小説にする予定です。


泰平

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