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この人ですっ!!

 

「シルキーちゃ~ん、こっちにおいで~」

「――お義姉様に近寄らないでください、この不審者っ!!」


 気持ちの悪い猫撫(ねこな)で声で、大好きなお義姉様――の、ドレスに爪を立ててぴるぴる震えている、ふわもこワンコへ接近を試みる不審者に、シャルロッティは叫んだ。

 手にした(おうぎ)――次兄から贈られた護身用で、骨が特殊鋼で作られている――を、相手の脇腹にぐりぐりと突き立てているものの、不審者が(ひる)む様子もない。

 それもそうだ、次兄を軍事以外はポンコツ仕様の脳筋に仕立て上げた張本人が、非力なシャルロッティにどうこうできる訳もない。

 そんな事が可能なら、()えある軍部の長が戦闘狂という、未だに被害者一同を(なげ)かせ続けている事態が、今まで継続してなどいないのだ。


「怖くないからね~、シルキーちゃん♪」

「元帥閣下、それは本気で止めて頂けませんかっ?!

 (むし)ろ気持ち悪いんですけどっ!!」


 還暦を過ぎても(なお)、筋骨隆々(りゅうりゅう)の大柄な体躯を(かが)め、山賊張りに(いか)つい顔をだらしなくにやけさせられた日には、シャルロッティでなくとも悪夢を見そうだ。

 元帥と言う名の不審者にドン引きしながらも、(よわい)十二の次期大公は、その場から逃げなかった。

 彼女が退けば、不審者の被害を受けるのは大好きなお義姉様と、次兄から預かったふわもこワンコである。

 ドレスにしがみ付くふわもこワンコのせいで動くこともままならず、困惑しきった表情を浮かべているお義姉様は、シャルロッティより繊細(せんさい)なのだ。

 酔っ払った挙句(あげく)に、弟子の(はず)の次兄を袈裟(けさ)()りにした野蛮人なんて、お義姉様が相手にしなくてもよいのである。

 ――一瞬、ふわもこワンコを生贄(いけにえ)に、この場から逃走しようかと、シャルロッティは考えたが、それも駄目だと思い直す。

 ふわもこワンコことシルキーは、頑張り過ぎなお義姉様の大事な(いや)し要員なのだ。

 ()でスキルが壊滅的な元帥のせいで、丸禿(まるはげ)ワンコになってしまったら、目も当てられない。

 毛を逆立てた猫よろしく、薄い琥珀(こはく)色の瞳を吊り上げていたシャルロッティは、けれど、状況の打開策を思いつけなかった。

 残念ながら、まだ幼いシャルロッティは、元帥から子供扱いされているし、周辺諸国にその名を(とどろ)かせる戦闘狂を、物理的に対処できるのは彼女ではないのである。


 と、(やに)下がっていた元帥の顔が、一瞬で引き()まった。


 矢羽が、空を切る音。


 元帥が飛びのくのと、彼の足が存在していた空間に矢が飛来したのは、ほぼ同時に感じられた。


「――師匠っ!!」


 王城の、長く、天井も高い廊下に、次兄の怒号が響いた。


 殺傷能力の高い、金属製の太い矢が、次々と床に敷かれた絨毯(じゅうたん)に突き立つ。

 王城の物品だけに、台無しになった絨毯(じゅうたん)は、南方から輸入された高価なものだ。

 まあ、修繕費は次兄の懐から出させるし、シャルロッティが支援している職人達の腕前を国内外に示す良い機会になるので、特に問題はないのだが。

 ――死蔵状態の給料を(勝手に)活用して、ちゃんと資産を増やしてあげたのだから、次兄はシャルロッティに感謝するべきだと思う。

 明確な害意を(もっ)て己を狙った矢に、しかし元帥が浮かべたのは、(ひど)(たの)しそうな、覇気(はき)(あふ)れた笑みである。


 ……やだ、この戦闘狂。


「――うちのシルキーをいじめるんじゃないっ!!」

「ラザロス兄上、この人ですっ!!

 早く連行して下さいっ!!!」


 手にした扇をビシッと元帥へ向け、シャルロッティは、白馬ならぬ、白系どデカワンコに(またが)った次兄に助けを求めた。


 ――と言うか、何時(いつ)も無駄に偉そうな次兄の愛馬は、どうしたのだろうか?


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