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採用条件は大切なのです

『レヴァン


 ・採用理由:八つ当たり・胸

 ・採用部署:子爵(ししゃく)(てい)の侍女

 *化粧さえあれば、顔は何とかなる(ため)

 ・採用条件:(以下省略)』


『シャルロッティ


 ・採用理由:婿(むこ)対策

 *婿の育成の前に、部下を育成して対策を()る為

 ・採用部署:次期大公私設秘書官

 *高級娼婦としての教育が役立つと思われる

 ・採用条件:(中略)

 *兄上目的の変態(へんたい)からのとばっちり暗殺には、気を付ける必要性が――


「――そこのポンコツ、ちょっと待てやぁっっっっっ!!!!」


 シャルロッティの従兄(いとこ)は、そう(さけ)びながら(こぶし)をテーブルに(たた)きつけた。

 切れ気味のレヴァンに、まずは互いの条件を整理するのだと、元見習い娼婦の採用条件を紙に書きだしていた次兄が、不思議そうに顔を上げる。


「いきなり大声を出すとは、何なのだ、レヴァン」

「なに人を変態みたいに書いてるんですかね、この脳筋はっ?!」


 ぎりぎりと歯ぎしりするレヴァンに、シャルロッティは冷たい視線を浴びせる。

 真面目に八つ当たりと胸で採用を決めた分際(ぶんざい)で、どうして次兄に抗議する権利があると思っているのか。


「……とばっちり、あんさつ……?」


 大好きなお義姉様とは質が異なるものの、それなりに耳当たりの良い声音が、愕然(がくぜん)とシャルロッティ側の条件を口にする。

 否定の言葉なんぞ口が()けても言えなかったので、次兄もシャルロッティも、見習い娼婦だった娘からそっと目を()らした。


 軍事を(つかさど)り、暗殺を()ね返す脳筋バッチコーイな次兄はさておき、これがあるせいで、シャルロッティは養父より人材集めが大変なのである。

 まず、誰しも暗殺なんて()でもない脳筋になれる訳もなく、第一、脳筋しかいない状態で、どうやって(まつりごと)をまわしていけと。

 しかしながら、本当にとばっちりの暗殺が横行しているのだから、雇用条件にあげない訳にもいかない。

 だって、虚偽(きょぎ)申告(しんこく)(かた)りは、裏切り謀略(ぼうりゃく)の種なのだ。

 大好きなお義姉様(ねえさま)との団欒(だんらん)の時間を(ないがし)ろにするほど、シャルロッティは仕事中毒になった覚えはない。


 当人だって呼ぼうとも集めようとも思っちゃいないが、長兄目的でわらわら出没(しゅつぼつ)する変態共は、非常に性質(たち)が悪い。

 なんせ、長兄に近しいという理由で、最大の障害であろう兄嫁はおろか、身内のシャルロッティや次兄にまで暗殺者を(おく)ってくるのだ。

 はっきり言って、シャルロッティとて、そんなものは本気で()らない。

 が、同様の理由で、長兄に仕える文官達の必修技能の一つに、各種戦闘技術が含まれてしまったのだから、もうどうしようもなかろう。

 そんなこんなで、ただの一般人よりは長兄に接触する可能性が高い、末姫(シャルロッティ)の部下と言うのは、地味に危険な職業でもあったりする。


 そして、長兄関係のせいでえげつない環境下にある(とつ)ぎ先であっても、長兄に愛情があり()まず引き(こも)らず暗殺されない義姉(あね)は、(まこと)稀有(けう)な女性であった。

 ――シャルロッティが心から尊敬できる女性を、この国の次代の王は見事引き当てたのだ。

 きっと長兄は、今生(こんじょう)の女運を、根こそぎ使い果たしたに違いない。


 それはさておき。


 ふと、思い付いた疑問を、シャルロッティは口にした。

 ――うっかり忘れかけていた可能性だが、間違いなく放っておいてはいけない(たぐい)のものである。


「ラザロス兄上、そこの方を部下として教育することは(かま)いませんが、ゼノン兄上との接触で、おかしくなってしまったらどうしましょう?」


 具体的にどうおかしくなるかは、歴代の変態共が身を(もっ)て証明しているが、そんな事になったら面倒臭(めんどうくさ)いので、シャルロッティが困る。

 特に、長兄と義姉(あね)が。


「ぬ?

 大丈夫ではないか。

 死にかけたのだし」

「ちょっと殿下、それは一体どういう理屈(りくつ)なんですかねっ?!」


 (なぞ)な理由で雇用対象の安全性を断言した次兄に対し、レヴァンが全力で突っ込みを入れた。

 今は特に関係ないが、突っ込み役がいると、シャルロッティがいちいち次兄に物申さずに済み、大変楽だ。

 それに、次兄の野生の勘は神がかっているので、意味不明な理屈であっても、次兄が大丈夫だと言えば、次兄的には問題無いのだ。

 ……ただ、次兄の『大丈夫』の基準は、常人のそれからかけ離れている為、次兄以外には大問題に発展しかねないけれども。


 シャルロッティは、ビミョウな表情で自分達を(なが)める娘に、薄い琥珀(こはく)(いろ)の瞳を向けた。

 次兄ときたら、雇用条件書に大事なことを書き忘れていやがった。


貴女(あなた)の人生は貴女が決めるべきものですから、強要はしませんけれど、長期雇用を望むなら、レヴァンはよした方が良いですよ。

 ――人生の目標が、若いうちに悠々自適(ゆうゆうじてき)楽隠居(らくいんきょ)で、出来る限り長い余生を働かないで過ごしたい男ですから……」


 言いながら、シャルロッティは頭が痛くなり、額を押さえて溜息を()いた。

 一応、不本意ながら伯父(おじ)である、(ぼう)公爵(こうしゃく)の様な無能な働き者などより、レヴァンは(はる)かにましな人種だ。

 少なくとも、貴族であることすら面倒臭がっているレヴァンにも、自分に不都合が降りかかる前に動き出すぐらいのやる気はあるので。

 そして、自分が楽をする為に、父親から押し付けられた不毛地帯を少しでもましな領地にしようと、次兄やシャルロッティとの(つな)がりを使い倒す気概(きがい)もあるが。


 ただ。


 ――もっと働け、と。


 働かないとどんどん問題が雪だるま式に増殖していく状況に、従兄を()り落としたくなる衝動に()られるのは、シャルロッティが未熟なせいなのか。


「――おい待てちびっ子、誤解されるような台詞(せりふ)()くなっ!!

 隠居の前にちゃんとまともな働き口用意するに決まってんだろっ!

 ――妙な恨みなんか買って、念願の隠居生活を邪魔されてたまるかぁっ!!!」

「レヴァン、(ひろ)うと決めたら、最後まで責任を持って面倒を見ましょうよ……」


 清々(すがすが)しい程自分本位な従兄の言葉に、シャルロッティは、子供らしからぬ表情で天を(あお)いだ。


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