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そうだ、部下を育てさせよう

 最近被害が相次いでいるという、無断転載についてのエッセイを読んで、勝手にビビッて、被害に遭う前に無断転載対策をしてみることにしました。


 本作品「次期大公の華麗でもない日々」におきましては、部分的に本文と後書きを入れ替えると言う無断転載対策を実施しております。

 ややこしいことをしてすみませんが、自分の作品が無断転載される想像をすると、イラッときたので、自主的に対策をとってみました。


 読者の方々には、大変ご迷惑をおかけいたしますが、ご理解の程よろしくお願いします。 

 Copyright © 2018 詞乃端 All Rights Reserved. 


 対策については、MITT様のエッセイを勝手に参考にさせていただきました。


 地面に()いつくばりながらも、ラザロスの足首を(つか)んだ男の手は、しかし、異様な程に力強かった。


「――で、でんか、……どうか、……どう、か……」


 息も絶え絶えに、ラザロスに己の言葉を伝えようとする男の瞳には、(すが)る様な光が浮かぶ。


「――すえひめさまを、止めて、くだされ――」


 血を吐かんばかりの訴えに、ラザロスは重々しく(うなづ)いた。

「分かったのだ、スィデラス伯。

 貴殿の要望は、確かに受け取った。

 ――今は、休むといい」

 ラザロスはしゃがみ込み、倒れ伏した男の方に、手を置いた。


 走りながら叫んだせいで体力が尽きた伯爵を、救護班が、手際良く担架に乗せ、医務室に運んでいく。

 ある意味いつも通りの光景を眺めながら、ラザロスは(あご)に手を当てた。

「――よし、あれには部下を育てさせるか」

「……いや、何でそんな結論になるんだよ……」

「ぬ?」

 訓練場の片隅で休憩中だった、従兄弟(いとこ)のレヴァンの突っ込みに、ラザロスは首を傾げた。

 昔から逃げ足を(きた)えてやっているレヴァンは、ラザロス程体力がなく、(ラザロス基準で)すぐにへばっては、従者の膝を借りて寝転がってしまうのだ。

 兄夫妻の膝枕(ひざまくら)は、雰囲気が甘ったるすぎてラザロスは胸焼けしそうになるが、レヴァンの場合、従者の太股(ふともも)の上で我が物顔で()ん反り返っているだけなので、精神的打撃は特に無い。

 独身の部下達からの殺気をものともせず、汗だくのレヴァンは、呆れ返った表情で、薄い琥珀(こはく)色の瞳をラザロスに向けていた。

 侍女姿の無口な従者も、レヴァンを膝枕したまま、ラザロスを見上げる。

 ラザロスやレヴァンと変わらない年の従者の、亜麻色の髪のお下げと同じく洒落(しゃれ)っ気のない眼鏡(めがね)の奥で、藍色の瞳が瞬く。

 いつだって、ラザロスは、ラザロスなりに考えて結論を出しているのだが、レヴァンとその従者のアステリには論理が分からないらしい。

 聞かれたからにはきちんと答えるかと、ラザロスは腕を組んだ。

「スィデラス伯は、シャルロッティが婿(むこ)を育てようとしているのを、不安に思ったらしい」

「だろうな。

 婿の前に、自分の胸を育てるべきだろ、あのちびっ子」

 女性の価値はまず胸にあるという信念を有するレヴァンは、真顔で言い切った。

 兄と浮気を試みなければそれで十分なラザロスには、いまいち理解できないが、己の理想の胸を持つアステリを、口が利けないにも(かかわ)らず重用するあたり、レヴァンには(ゆず)れないモノらしい。

 幸い、レヴァンはもう理想の胸が身近にあるし、他人の所有物には興味が無いので、ラザロスは従兄弟を牢屋にぶち込まずに済んでいる。

「――だから、シャルロッティに部下を育てさせようと思ってな」

「結論までの論理を飛ばしすぎだろっ!

 ――その前に、妹の話をしに来た奴と一緒に走るとか、意味が分かんねぇよっ!!」

 レヴァンの突っ込みに、ラザロスは(まゆ)を寄せる。

 部下達は、『団長だから』と言う理由で終わるのだが、レヴァンは色々と説明が必要になるのだ。

 ラザロスは説明が得意とは言えないが、聞かれたことに対する答えを(ないがし)ろにするのもどうかと思うので、頑張って従兄弟への説明を考えた。

「婿の教育に失敗したら、取り返しがつかないし、お互いに不幸なのだ。

 シャルロッティは、何かを育てた経験が無いから、とりあえず、部下を育てさせたらどうかと思ったのだ」

「……よう殿下、あんた妹が婿を育てようとすること自体は、止める気が無いんですかね?」

 父王と老大公が教育係の選択を間違えた結果、どうあがいても取り返しのつかない状態になってしまったラザロスに、彼の従兄弟は口の端をひくつかせる。

 そんな従兄弟から、ラザロスは、頭を()きながら目を()らした。

「私が何を言ったところで、シャルロッティが納得しなければ、意味はあるまい。

 それに、シャルロッティの同世代から上は、赤毛の人間に対する忌避感(きひかん)が強いからな。

 年下の方が、まだあれを個人として好いてくれるかもしれないのだ」

「……すみませんね、うちの(くそ)親父が……」

 ラザロスの台詞(せりふ)に、レヴァンは苦々し気に吐き捨てた。

 この国の貴族階級に蔓延(まんえん)する、赤毛の人間への差別は、流入する移民だけではなく、レヴァンの父親――ラザロスの母親の兄も原因を担っていたのだ。

 その原因となる出来事に関しては、恐らく、未だに父王はレヴァンの父親を(ゆる)していない。


 忌々しい某女神の末裔の姫君に粘着された父王が、立て続けの婚約破棄の後、投げやりに王家に連なる公爵家の令嬢と婚姻を結んですぐあたりの事だ。

 長く続く戦乱に困窮(こんきゅう)した西方の隣国が、この国に侵攻してきたのである。

 父王はすぐに対処しようとしたのだが、――王妃の実家に、全力で足を引っ張られた。

 当時、レヴァンの実家は、西部の有力貴族と関係が最悪であり、隣国の侵略に便乗して、対立貴族の力を()ごうとしたらしい。

 ラザロスもレヴァンも、親戚及び身内の所業に関しては、馬鹿、との評価で一致している。

 国を滅ぼされたら、勢力争いも糞も無かろうに。

 最終的に、戦大好きなラザロスの師がヒャッハーして、赤毛の人間で構成された軍を蹴散(けち)らしたが(思い出話を語る彼は非常にイキイキしていた)、少なくない爪痕(つめあと)をこの国に残したのだ。

 だから、西方の貴族は赤毛の人間を良く思っていないし、シャルロッティも、色眼鏡で見られがちなのである。


 ――父王が母親と結婚したことについては、まあ、仕方がないとしか言えないのだが。

 優秀な子供を三人産んだから、あの頭のおかしい姫よりも(いく)らかはまし、と言うのが、老大公によるラザロスの母親への評価である。

 ……因みに、某粘着姫は、貴方だけがいればいいと、御花畑思考で子供を産むことを拒絶し、父王にフラれたら身勝手に自殺した上に、何だか(たた)りっぽいのが続いたそうな。

 女運の無さに関しては、陛下ってやっぱり団長の親ですね……、と、この話を聞いた部下の一人が言っていた。


 ついでに言うと、レヴァンの父親は面倒極まりない男で、自分の思う正しさ以外は受け付けない性質(たち)である。

『うちの国凄い=祖神が凄い=祖神の血を受け継ぐ自分も凄い』と言う謎の論理から、異国の血が濃いシャルロッティを、王族とも自分の姪とも認識していない節がある。

 当然、そんな欠陥品を産んだ妹も、その男にとっては出来損ないだ。

 シャルロッティが生まれた後の彼等の関係は、ラザロスが記憶している限り、他人同士の方がよほど仲良しだと思えるような状態であった。

 また、面倒な公爵は、神の血筋であることを誇る割に、まともな方面で役に立ったことは無い。

 そんな訳で、ラザロスにとっての母方の親族は、レヴァン以外は潜在的な敵だ。

 根絶する為に、巣を見つけるまで観察中の害虫の様なものである。


「……で、殿下におかれましては、虫食を広めた貧民街あたりから、妹君の部下候補を見繕(みつくろ)うつもりなのでしょうか?」

 自分を見限った父親の話題をこれ以上続けたくなかったのか、レヴァンがラザロスに問いかけてくる。

「うむ、王都の高級娼館で都合良く死に掛けた娘がいると聞いたから、とりあえず、交渉からやらせてみるのだ」

「――だから、説明で理由を端折(はしょ)るのは止めて(いただ)けませんかねっ?!」

 ちゃんと答えたのに、レヴァンに怒られた。

 ラザロスが眉尻を落とすと、レヴァンは焦げ茶が混じる金髪をぐしゃぐしゃとかきまわす。


 混じり気のない金髪こそを王族の証と見做(みな)す公爵は、主神の寵児(ちょうじ)であった妾の血が現れた次男を、ただそれだけで不良品と断じた。

 レヴァンは不良品でも何でもないのだが、彼の父親は、自分の正しさでは無いのは恥だと、生後間もない彼を別邸に放り込み、今に至る。


 頭を従者の太股から動かさないまま、レヴァンは米神を()む。

「……とりあえず、どうして娼館の娘になるんだよ?」

「だってなあ、基礎的な読み書きから覚えさせたら、時間が掛かり過ぎて、教育の練習にはならないだろう。

 それに、男だと、未婚のシャルロッティの傍に(はべ)らすのに、障りがあるのだ。

 高級娼館で教育を受けた娘なら、基礎的な部分は問題無いし、シャルロッティの近くにおいても安心だろう」

 ラザロスの返答に、レヴァンは片手で顔を覆う。

 次いで投げ掛けられた質問は、(うめ)くような声だった。

「……それで、死に掛けたのが都合が良いってのは……?」

「一度死に掛ければ、シャルロッティの口の悪さも気にならなくなるだろう。

 私も、一度師匠に切られて死に掛けた後、周りの悪口が気にならなくなったのだ」

 一度死に掛けると、悪口如きでは人間死にはしないと、良く分かる。

「――いやそれ、あんただけじゃないか……?」

「ぬ?」

 顔から手を退()け、ラザロスを見上げるレヴァンの瞳には、憐みが浮かんでいた。

 (ほこり)か何かが目に入ったのか、近くにいた部下が両手で目を押さえ、地面に崩れ落ちる。

 余り表情を変えないレヴァンの従者も、可哀相な子へ向ける目で、ラザロスを見ていた。



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