男神ガチャとフロア作製
俺がうんざりしたした視線を(！)マークに投げかけると、！マークが居心地悪そうにそわそわし始める。
なんとなくそのまま見つめ続けていたが、ついにぴょんぴょん飛び跳ねて画面外へ逃げてしまった。後に残ったのは( )のみである。
一体何を考えてこんな無駄な機能をつけたのか理解できない。できないが、( )が！マークを追いかけたそうにふるふる震えていて可哀想だった。
不要な罪悪感を押し付けられつつ、男神ガチャを選択する。
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ランダムガチャ
→■ノーマルランダムガチャ■
100魔素/1回 100魔素/10+1回
◎72時間限定○11連100魔素◎
■ランダムアイテムガチャ■
100魔素/1回 100魔素/10+1回 ▽神アイテム出現率Up▽
◎72時間限定○11連100魔素◎
■ダンジョンアイテムガチャ■
100魔素/1回 100魔素/10+1回 ▽人気アイテム出現率Up▽
◎72時間限定○11連100魔素◎
※下級ポーションがおまけに単発に1本、11連に11本付属します。
※それぞれから一定確率でスペシャルエディションが排出されます。
お買い得セットパック
♪ダンジョン旅立ちセット♪
1500魔素/1つ
セット内容
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拡張バックパック
ウエストポーチ
テント
下級ポーション*10
中級ポーション*5
遮音魔道具
濡れタオル(自然に優しい有機素材/150枚入)
不眠薬*5
携帯食料*30
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♪ダンジョン日帰りパック♪
1500魔素/1つ
出現アイテム
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☆使い捨て帰還転移結晶☆確定！☆
↓以下のアイテムより3つ獲得できます
食べあるきマップ
折りたたみマジックペーパーバッグ
魔素ライター
携帯カッパ
簡易キッチン
座標固定ビーコン
下級ポーション
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※購入時それぞれ一定確率でゴージャスモデル・ロイヤルモデルが封入されます。
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デェェェェエエエン。ぼんぼんぼんぼん。無駄に自己主張するSEだ。音質がとても良い。
女神ガチャほどの文字列のインパクトはないが、怪しさとアコギさは数倍である。いちいち記号が揺れ動いて鬱陶しいし、確率に確率を掛けて射幸心煽るんじゃない。
72時間限定の割引がいかにも急かそうとしている。『安い！回そう！！！』とは思わないぞ？ガチャ廃ならわからないが。
前も気になったがラインナップを表示して欲しい。神アイテムとか言われても何が出現率アップしているのか全くの不明だ。
セットパックも内容固定かと思いきや限定モデル商法。搾取する気満々じゃないか。
パックの「座標固定ビーコン」は、帰還転移結晶の転移先をダンジョン前から変更できるアイテムのようだ。これも固定にしとけよ、何故確率にした。
今は旅立つ予定がないので買うことはないが、宝箱の中身に迷ったら結晶とセットで一考の余地があるかもしれない。
俺が生成で下級ポーションを大量に要求したからか、押しが強い。あらゆるところに隙あらばポーションをねじ込んでいる。
まだ作った分が余っているので、そんな量あっても正直要らない。
総評としては『手を出したくない』。
しかし、隣には精一杯の期待を込めて服の裾をひっぱる妻がいる。彼女がガチャを回したそうにしているのには理由があるのだ。
それは追加の2週間いちゃついている時に、女神謹製の避妊薬や化粧水を使用したこと。効果があまりにも桁外れで、荒れ気味だった肌がつやつやぷにぷにすべすべになった。
荒野に突然森林が広がり始めたくらいの衝撃を受け、メルディは無事女神印のファンになった。
出るか賭けになるガチャをするのはアホらしいと思い、女神化粧水を生成しようとしたが叶うことはなかった。
1本生成するために、なんと500万魔素も必要だったのだ。増強剤系は1本20魔素程度で済む。
まさか、と思い避妊具と滋養剤の生成を試みる。予想通り、避妊具は250万/1箱、滋養剤は600万/1本と法外に要求された。女神の力は伊達じゃないということか。
ガチャにさほど良い思い出がない俺は、しぶしぶメルディに愛ガチャを回させた。何度思い返しても失敗だ。
『翔助さん！ やりましたよ！ 化粧水が4つも！』
『えぇ…』
彼女は初ガチャで大金星を挙げてしまう。予想外の戦果を得られ無邪気に喜ぶ。それが沼の第一歩となることが非常に多いとも知らず。
こうして、いままで娯楽が少なかったことも後押しとなり、彼女はガチャが好きになってしまった次第だ。
だが可愛い可愛い妻は妻だ。もしガチャ廃になってしまったら、俺も共にガチャ廃となろう。それが愛というものである。
それでも、少しは止めるのが夫の役目だと心得る。
「好きなだけ回して良いよ」
「ありがとうございます、翔助さん！」
あれ？ 口が勝手に…
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俺とメルディは今、微妙を極めた表情をしている。今ならブルドッグに大勝できると自負する。
原因は当然ガチャだ。メルディの笑顔も微妙顔も、作ったのはガチャだと考えると複雑だが、今は重要でない。
ここに排出された物をご紹介しよう。
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オリジナルクソダサTシャツ(白)
胸にプリントされた文字が考えた文字とフォントに変わる、高性能なダサT。
「オクダT」の愛称で呼ばれる。白、黒、赤の全3色。
デフォルト文字は「しゃけ結び」。
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小文紙
文字がやたら小さく、紙一面びっしり埋まっている新聞紙。内容はほとんどガセ。
読んでいると頭痛を起こし、眉間にシワを寄せさせることで真剣な表情を作る補正機能付き。
デキる人に見られたい人向け。
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深爪切り
切る時に自動で深爪する位置に動く爪切り。
深爪したいけど勇気が出ない人向け。
きちんと手入れしないと切れ味が落ちるので注意。
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曽根瓦
曽根さん宅の屋根瓦。
何故か度々無くなる屋根瓦に日々悩んでいるらしい。
その所為か頭の瓦も抜け落ちているとか。
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大音量ドア
どんなに気を付けてそっと閉めても「バタン」と大きな音が鳴るドア。
防犯と睡眠妨害に最適。
子供が産まれたご近所さんへの贈り物にどうぞ。
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消えるペン
紙の書いた部分が消失するペン。
紙以外に書いても何も起こらない。
履歴書のなかった事にしたいけど書かなきゃいけないところ用に。
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神頼みルーレット
地面において回すと、傾斜に関係なくランダムに方角を示すルーレット。
テーブルなどに置くと効果がない。
樹海で道に迷った時に。
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中級ポーション
それなりの怪我を1日で治せるお薬。消毒効果がある。
患部にかけてもよく、飲んで服用してもいい。筋肉痛にも効果あり。
ハーブミント味。
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お分かりいただけただろうか。
この何に使うか分からないゴミでないようでゴミの数々。まともなのが中級ポーションくらいな上、一部正真正銘のゴミが入っている。曽根さんに返せ。
唯一ルーレットだけ何かに使えそうだ。これでどっちのフロアにするか決めるか。
最初はうきうきして回していたメルディの表情が石膏を付けていくように平坦になっていく様は、ロードローラーにかけられているセメントを思い浮かべた。
11連3回の結果は上記7つと中級ポーション9、下級ポーション17だった。今回だけでおまけあわせて下級ポーションが40本追加されたことになる。ダンジョンを作るときの宝箱行き確定だ。
ニヤついた男神の像がよりニヤついているように見える。クソが。お前いつかぶっ壊してやるからな。
散々な結果に、愛しの妻は鉛を持ち上げるかのようにこちらを見上げた。
「メルディ…」
「…あ、あの、最後に一回だけ、なんて……」
「二度とやらないぞ、こんなガチャ。やるなら必要になりそうな戦ガチャにしなさい」
「はーい」
未だ割引を引いていなかった戦ガチャを選択させる。魔物が出ることもあるようだし、装備はどこかで必要になるはずだ。
男神ガチャが酷かった所為か、女神ガチャが女神に見える。実用的な分まだマシなのだ。例えそれが下世話であっても。
現在22連。ノーマル戦ガチャと特殊武器ガチャを引いた。金演出が何度も出ている。この女神、メルディにだけ甘くないか？
「メルディ、ちょっといい？」
「はい、なんでしょう？」
ガラクタ以外が出てくることにすっかり気をよくしている。笑顔が戻ったのは良いことだ。
「11連、俺にも引かせてくれないかな？」
「はいっ翔助さん！どうぞ！どうぞ！！」
目を輝かせて譲ってくれた。この子ガチャが引かれること自体に喜びを感じ始めている。他人の幸福を祝える良い子だと思う。
気を取り直して特殊防具ガチャを選択する。いつもの白い光が舞い降りる。白い光が、白い光が、白い――
結果、金演出は一つだけだった。
「確率操作だ！！！！」
女神像がびくっと震えた気がする。
…まあ金演出のものは魔素換算で最低数十万単位だし、損はしていない。釈然ともしないが。
戦ガチャでは下級ポーションは排出されなかった。装備のほかにはインナーや歩きやすいブーツなど、普段着に使えそうなものが出た。
装飾に宝石が輝く剣やトラックに突っ込まれても大丈夫そうな全身鎧、聞いた事ある気がする剣といった物もメルディが当てたが、重すぎて持てたもんじゃなかった。くっそ邪魔だけどしばらく放置だな。
どれも金演出で出たものだったので、良いものなはずだ。男神ガチャのせいで金演出の信頼が危うい。
また、通常演出ででたマチェットが特殊武器だった。
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鍛冶神の弟子の練習台マチェット
神界No.1と謳われる鍛冶神の弟子が始めて作ったマチェット。
切れ味が鋭く、手入れが不要。
軽さを重視した材質上折れやすいが、刃片をまとめて置いておけば一日くらいでくっつく。
特殊効果:再生
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かっこいいし軽くて持ちやすいので、我が家の包丁として使うことにする。いつ料理をするのか不明だが。俺もメルディも刃物の手入れなんてした事がないため、非常に助かる。
地球では包丁を研ぐのは近所の世話焼きなおばちゃんにお願いしてたからな。毎回魚の骨まで抵抗なく切れるようになって返って来た。何者だったんだろうかおばちゃん。
寄り道が過ぎたな。メルディも回して満足したようなので、ルーレットを使って記念すべき第一フロアを決定する。8方角に分け、北から時計回りに林・鉱脈を交互に割り振った。
だららららららららららら、だん！
つまみを回すと迫真のドラムロールが流れる。何でこんなところだけ高性能なんだ。
結果はおよそ南南西。林フロアだ。
「林だね」
「はい。川も一緒に作りますか？」
「そうしよう。レイアウト変更に魔素がどれだけ掛かるか分からないから、余裕を持って5日後につくろっか。一緒に構造考えようね」
「ふふふ、楽しみですね！」
「あ、サンプルは表示できるみたいだ。今のうちから設計だけでもやる？」
「やります！」
ベッド作製の時も思ったが、メルディはデータ操作が上手く、ものづくりが好きなようだ。データ時代はずっと俺のサポーターをし続けていたから、彼女に趣味が出来てくれたのなら俺も嬉しい。
ああする、こうすると話しながらサンプルを弄くりまわして、夜にはメルディを弄繰り回しているうちに5日が経った。
