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7/20

目覚めと歩み

 目覚めは心地良い肌触りの感触と共に、緩やかな倦怠感に引きずられる。まだメルディは寝ているようだ。


 雰囲気の半画目すらない初体験の日から、気付けば2週間ほど経ったと思う。未だに交わして食べて重ねて流して貪って寝る、爛れた生活を繰り返している。


 はじめの3、4日は俺の暴走が断続的かつ突発的に続き、彫像の前で食事を取る以外は寝室と風呂場で日がな一日重なっていた。その所為で彼女の濡れて艶めく髪が乾くことはなかった。


 断続的なだけマシになったほうで、2日目までは殆ど食事も取らずにせめ立て続けた記憶が朧気にある。


 当然メルディが持たず、水分補給代わりにポーションを飲ませていたため数時間で尽きてしまい、補充のため割引ガチャを全て回した。


 通常価格のガチャも何回か回したが、1本15魔素で「生成」できることに気付いてからはそちらで賄った。


 また、目新しいものがちらほらと。まずはピックアップから。



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 女神謹製避妊薬


 悩める乙女の味方、身体に害が無い女神印のアイテム。

 1粒であの日を穏やかに整え、2粒で完全避妊効果が出る。

 効果が出るまでに1日必要。1箱32粒入り。


 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 箱裏に珍しく補足が書かれている。

 基本的に7日に1粒、食後に服用すれば効果は継続するらしい。そして効果期間中にもう1粒服用することで、12時間完全に避妊できると女神のイラスト付きで説明されていた。


 知識だけは豊富な元童貞はこの産業革命に衝撃を受けた。これさえあれば世の中の女性の平穏は保たれる。俺はヒステリー型女上司の金属音からも解放される。


 win-winの関係だ。一番俺の利益になる。もし戻れる時が来たら大量に持ち帰るか。


 次に副産物。



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 精神強壮薬


 精神的な忍耐力を高める薬。

 日々のストレスに押しつぶされそうなアナタへ。

 強い刺激によるストレスにも効果的。


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 体力強壮薬


 身体的な継続力を高める薬。

 日々の激務に慣れないアナタへ。

 これの使用を前提としたと見なされる業務内容は神律で禁止されています。


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 女神謹製滋養剤


 食物繊維に吸収しづらい栄養素2500種類をこれでもかと凝縮した、女神印のお薬。

 生活習慣病が気になるアナタ、年で小食気味になってきたアナタへ。

 これを3食の食事とすることを前提としたと見なされる業務内容は神律で禁止されています。


 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 避妊薬ピックのガチャから当たりはでなかったが、ノーマル愛ガチャから出た滋養剤が金演出だった。


 このラベルが付いていない3本は1日目に当たり、名前を確認するとベッドに倒れ伏すメルディに無理矢理飲ませて続行した。


 荒い息を繰り返し、身体が小刻みに震えており相当追い詰められていたはずだ。落ち着きが戻ってきた3日目くらいにすぐ謝った。


「ふふ。強引な翔助様も、男らしくて素敵でしたよ」


 なんて腕を絡めて湿った瞳で許すもんだから、彼女は直後にまたシーツを濡らす羽目になった。


 後ほど正気に戻った俺が取説を読んだ時、なんともいたたまれない気分になったのは言うまでもない。


 高卒で就職した友人の『やっべwww今日で50連勤達成wwwwwwほめて?』と突然寄越したメールに『お前は俺が知る誰より努力家だよ』と返信して以降音信不通となったやつを思い出した。元気にしてるといいな、あいつ。


 精力剤の効果は1週間程で完全に抜け、平常通り1日1回、時間を置いて2回でバテるようになった。それでは何故まだ爛れているのかというと、俺達は互いに虜になってしまったのだ。


 俺は慰める時と打って変わって暖かく纏わり癒す感触に。彼女は今まで感じ得なかった刺激的な満足感と、受け入れる充実感に。


 ずっと壁越しに背中合わせだった4年間を、補い整えるように。


 もともと自堕落な俺をメルディが律していた関係が崩れ去り、自分が相手を引き込み合うようになった。2人分の深みを代わる代わる作っているのだ、抜け出せる筈が無い。


 しかしいつまでもこうしている訳にはいかない。やらなければならないのに全く手を付けていない事が多すぎる。俺が変わり、彼女を引き上げる時が来たということだろう。


 丁度寝ていたメルディが身を捩じらせ、瞼をずらし始めた。今日の俺は鉄壁のデュランダル。大塊の如き惑い全てを両断して見せよう。


「おはよう、メルディ」

「おはようございます、翔助さん」


 メルディは奥深くまで触れ合ったここ3日くらいから「さん」付けで呼ぶようになった。強烈な新妻感が十二勇士となり襲い掛かる。


 しかし俺はデュランダル。オリファンの角笛など必要ない。


「メルディ、今日は」

「ん」


 話を聞かず、再び睫毛を揃えた彼女は唇を差し出す。


 背を屈めてそれに応じると、彼女は俺の唇を舌で割く。上唇の裏をなぞり、下唇を甘く噛み、舌で舌を(くる)み出し入れする。


 置いて来た吐息が駆け寄ってきた時、じっと虹彩を映す。


「翔助さん」

「メルディ」



 どうやら俺はローランで、彼女はバスク人だったらしい。



 ・・・・・・・・・・・・・

 ・・・・・・・・・・・・・

 


 人は変わろうとしても変われない。身を以って経験した。


 俺が史実のローランとなってから、更に2週間程も経過している。さすがの俺もずっとこの生活を続けてしまうには危機感を抱いた。搾り尽くされたとも言う。


 ただ体力と時間に余裕ができてくれたのはよかった。メルディが寝静まった頃、結婚指輪を少しずつ作っていく。


 秘密にしたい、と伝えるとハイド機能が追加され、製作過程の指輪が非表示になった。喜んでもらえるだろうか。


 メルディはこの1ヶ月間で大分満足してくれたようで、予定を立てる予定だと伝えると「お手伝いします」と張り切った。自ら退路を塞いだことに気付き、言わなきゃ良かったと額を押さえる。


 だが、その前に山脈となっている洗濯に洗い物を片付けねばならない。やる気はSTAP細胞だったと発表しようとしたが「くだらないこと言ってないでください」と問答無用だった。


 なんとか片した俺達は食卓で向かいあう。


「さて、これからのことなんだけど」

「生活基盤を整えるはずでしたね」

「そうだね。と言っても殆ど出来上がってるけれども」

「確かに、あとは個室作るくらいしかありませんね。ではどうしましょう?」

「せっかく自由にできるんだから、ダンジョンを大きくしたい。それに面白そうだし」

「私にもやらせてくださいね」

「もちろん。色々助けてよ」

「ふふ。もちろんです」


 俺の嫁超かわいい。…それはいまは置いておき。いちゃいちゃオンリーデイズを過ごしている時、ふと気になってダンジョンについて色々と手の像に尋ねたことがある。


 例えば、「世間のダンジョンに対する認識」。回答は「国による」。


 様々な物資が採取・狩猟できる天然資源のような扱いだったり、魔物の軍勢を育て上げた末に開放する爆発物のような扱いだったり。


 また、神から与えられた試練だとか、悪魔の作り出した汚らわしい子宮だという説もあったりする。


 試練とは違う気がするが、神に与えられた物なのは正しいだろう。ガチャあるし。後者は意図がどうあれ、女性を馬鹿にするようなニュアンスを感じてしまって不快にさせるし良いものではないだろう。


 俺としては、ダンジョンは趣味と実益と社会貢献を兼ねた仕事のような認識となっている。いっぱい魔素(おかね)稼いで大きなダンジョン(おうち)に住もうってな。目指せ天然資源住宅だ。


 それからダンジョンの仕様について。


 まず、侵入者が死ぬかどうか。これは俺にとって最重要だ。一度死んだ身としては当然、死んで欲しくない。回答は「設備を作れば問題ない」。


 リストに追加された『リヴァイブルーム』。これを生成・設置すれば、ダンジョン内で死んだ人はこの部屋で復活できる。しかし丸一日部屋の個室から出られず、激しい運動も出来ない。


 復活したばかりの身体は脆く、無理な負荷がかかると()()()しまうそうだ。グロい。1日過ごせば出られるようになり、出口にあるダンジョン入り口へと転移する魔方陣で退出できる。


 ただ、死ぬ直前の記憶は無くならないらしい。実体験済みの俺はなんとかならないか尋ねに尋ねたが、他の記憶より優先して早く朧気になるようにするのが精一杯だった。


 曰く、「再びの生を受けるための対価である」と。よく分からないが、どうしようもないなら仕方がない。生きてさえ居ればいつかはなんとかなるはずだ。


 

 次に魔物について。ダンジョンの「創造」で作る、若しくは産まれる魔物を『クリーチャー』と言い、外を徘徊する『魔物』と見た目は同じでもマスターの許可がなければダンジョンからは出られない。


 所謂ダンジョンモンスターってやつだ。コアとダンジョンマスターの両方が破壊されてしまうとその制限はなくなるみたいだけども。


 ダンジョン内でクリーチャーや侵入者(魔物含む)が死ぬと魔素が得られる。侵入者が人間の場合、ダンジョン内にいるだけで魔素が貰える。


 死体は放置しておくとダンジョンが糧として魔素に変換・吸収する。掃除要らずで素晴らしい。


 クリーチャーは創造するだけでなく、フロアに環境を作るとそれに適応したものが勝手に産まれる。森フロアではトレントが産まれるように。


 また、創造と自然発生では基本的に同一のクリーチャーが生まれるが、創造したもののみ名前を付けることができ、『ネームド』と成る。


 通常のクリーチャーは自我がなく、本能と知性で行動するが、ネームドは自我が出来る。

 

 それから、フロア内で自然界と同様に食物連鎖を形成する。食べなくても空気中の魔素を吸収して生命維持するため、餌など特に考えなくても良いが、空腹は満たされないため凶暴化する。この辺りの管理がマスターの仕事のようだ。


 フロアボスに丸投げもできるみたいだけど。フロアボスで思い出したが、コアさえ破壊されなければマスターとフロアボスは侵入者に討伐されても設定した時間で復活する。


 フロアボスになる条件は食物連鎖の頂点であることか、ネームドがマスターに指名されること。つまり、ダンジョン内での下克上によるフロアボスの交代が起こる。


 ネームドがフロアボスの時は起こらない。ほっといても割となんとかなる俺に優しい仕様だ。補足として、フロアは生成で設置できる。


 …クリーチャーに自我が無いと知ってかなり安堵した。まだ人間でなくとも死ぬのに忌避感が強い。特に資源として生まれてくるのはまるで家畜のようで、煮え切らないものがある。いつかは割り切れるのだろうか。畜産家って精神値高そう。


 あとはクリーチャーの配合もできる。2体を合成して新しい1体に。細々したことがいくつかあるが、今は使わない機能なので良いだろう。早く俺だけのクリーチャー育てたい。


 最後に宝箱だな。固定とランダム配置が選べる。『倉庫』設備を作ればそこから時間指定の自動補充に再配置・リポップも設定できるようだ。


 宝箱も倉庫も中身には保存効果が働くので、食料なんかも入れることが出来てしまう。とことん自堕落な俺に優しい。なまけ癖が強くなってしまう。



 さて、似合わず急に行動を起こした俺だが、それには理由があるのだ。1ヶ月間過ごして分かったことも関わっている。


 このままだとまた、2人だけの爛れた生活に逆戻りしてしまう。そうなっては何も進まないのだ。俺達の生はそこで停滞する。


 あるいはそれが幸せの一つであったとしても、選ぶことは無い。「2人だけで」ではなく「2人で生きていく」と決めたのだから。


「翔助さん」

「ん?」

「上手くいくと良いですね」

「…そうだね。始めは、大変だろうけど」


 今のやる気はiPS細胞。どんな無理難題にも対応してみせる。


 メルディを傍らに、コアに歩み寄る。今まではずっと、ダンジョン内のことだけを気にしていた。だが、天然資源としてのダンジョンにするなら、周囲の環境から需要を予想するべきだろう。…周囲があるのなら、だけれど。


 コアに触れ、強く願う。この場所、取り巻く環境を知りたいと。応えるように、メニュー画面に新たな項目が追加された。



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 ダンジョン:無名 

 概座標:ラグシス平原(未所属) 

 状態:断空間



   残存魔素 16728


 メニュー

 → 生成

   創造

  ガチャ



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 ここはラグシス平原という所の地下に在るようだ。外があることに一先ず安堵する。

 意識を集中させると解説が表示される。



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 ラグシス平原


 丈の短い食用菜や雑草が群生し、まばらにある小さな魔素溜まりに果樹が植生している。


 立地上サージュイン王国と宗教国家ティアンスを繋ぐため、行商人によく利用され道ができている。


 見晴らしの良さと魔物が少なくのどかなこともあって、子供達の恰好の遊び場でもある。


 北には小高い山脈と、南には湿原がある。


 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 人もいて国家もある。行商人が通ることから、両国家は戦争中でないことがわかる。


 子供の遊び場になるくらいだから、危険もさほどではないだろう。もっとも魔物というのが気になるが。


 断空間とは超長距離を圧縮することによって、物理的に繋がっていながら隔絶された空間のことを指すらしい。


 もっと具体的に、と考えると、


『目と鼻の先まで数百km』


 という返答があった。マジでどうやって作ったんだよ。ちなみに作り方に返答はなかった。


 代わりに生成リストへ『空間圧縮』が追加されたが、1/10に圧縮するために1億魔素必要だった。このダンジョン自体断空間がデフォルトなので使う機会は無さそうだ。心底安心した。


 外へ続く「入り口」は一つのみ作れ、その道だけは断空間を跳躍――つまり、普通の通路となるらしい。ダンジョンの大きさに関わらず、周囲を掘っても内部に潜り込むことはできなくし、素直に入り口を使わせるということだ。


 ざっくりと周囲の環境はわかったので、どんなダンジョンにするか決める判断材料を求め、国家名に集中する。


「おや?」

「なんですか、今の?」


 解説が表示されようとしたが、直後にノイズが走り消えてしまった。今までこんなことはなかったのに。

 もう一度挑戦するも選択される気配すらなかった。


「ダメみたいだ。メルディ、やってみる?」

「はい。…どうやらダメみたいですね」


 早々に諦めた。俺達にはブラックボックスをどうこうできないし。仕方ないのでちょっと雑談する。


「行くことになったらどっち行ってみたい?俺はサージュイン王国なんだけど」

「私はティアンスですね」

「その心は?」

「二人きりの結婚式を聖堂で」

「うわぁ、超行きたい」

「王国と聞くと、厨二知識(データベース)から貴族とかが面倒そうというのもありますが。翔助さんは何故王国に?」

「政治がきちんとしてそうだからかな。程度は分からないけども。あと宗教国家って排他的でやっかいごとなイメージが」

「ああ、それもありますね…。『婚姻は神に認められた教主以外許されない』とか」

「偏見が強くなりそうなこと言わないで?」


 にしても、どっちに行っても大差なさそう。現状ではどっちかを優先したダンジョンにする必要はないかな。


 ティアンス宗教国家が排他的なら他国と交流していないだろうし、サージュイン王国も貴族が横暴なら子供が平原で遊べるほど余裕は無いはずだ。それに平原はのどからしいし、戦争も起こってないと思って良いだろう。


 生成からフロア作製のリストを開く。基礎環境に大森林や水平線、断崖山脈など壮大なフロアが色々あるが、どれも数十万・数百万魔素するものばかり。樹海みたいな山と女神の化粧水が同じ価格なのか…。


 そうそう、フロアを設置するとそこからもある程度魔素が得られるようだ。


「うーん、どんなダンジョンにするか迷うな。何でもよさそうなのが逆に困る」

「晩御飯の献立みたいですね」

「ベーコン入り野菜炒めかハンバーグか。それが難しい」

「盛り合わせで作ってあげますよ」

「最高」


 海フロアを作れれば間違いなくフィーバーするのはわかっているが、残存魔素(よさん)的に出来ない。


 ある程度の融通は効くが、それでも5万魔素は使う。しかも池みたいな大きさで。はたして海とは一体。いずれは広大なリゾートビーチみたいなフロアを作りたいな。


『ドクロ』や『ガイコツ』みたいクリーチャーを使うなら格安の洞窟フロアで済むが、生まれるクリーチャーがそれ系やネズミにコウモリのような倒しても実入りの無さそうなものが多くなってしまいそうだ。ちょっとばっちいイメージもあるし。

 

「食用菜や果樹は平原に生えてるみたいだし、木材が取れて薬草も植生できる林フロア。危険が山脈よりも少なくなる鉱脈フロア。15000魔素で作るならこのあたりかな」

「そうですね。20000魔素まで我慢すれば林フロアに小さな川も流せますし、野生生物のクリーチャーが期待できます。柔軟な林フロアが無難でしょうか」

「林が安定択ではあるんだけど、鉱脈で金とか銀を探鉱夫するのも面白そうなんだよな。うーん迷う」


 さっきまであれだけ需要がどうしたこうした言っていたが、自由度があるとやはり趣味にはしってしまう。しょうがないね。


 前言撤回して需要があれば儲けもの、くらいに思えば良いか。こういうときは楽観視しないと踏み出せなくなってしまうからな。


「よし、どっちでもいいな」

「私もどちらでもいいですね」


 だからと言って同時に踏み出すのはどうかと思う。

 一度こうなると譲り合いに発展してなかなか収集がつかなくなってしまう。


 お互いをないがしろにしないよう気遣った結果だから、なおさらやっかいだ。どうしよう、迷うな。サイコロで神頼みでもするか? と考えた直後のこと。


 ヴォウン、と小さな音が響き渡る。


 それはコアの音よりも低く、同時に舞った黒い粒子は空気を不穏に感じさせた。


 元凶はイケメンの彫像が左の手の平に納めていた。鈍く輝くその水晶から粒子が溢れ、部屋に吸い込まれていく。


 壁に視線を投げると、メニューが閉じられ薄暗い文字が描かれる。



『立ち止まりし者よ、汝に標を授けよう。迷いし者よ、汝に導きを授けよう』



 結構です。できるのならお断りしたかった。前回の女神像といい、俺の求めに応えられるかが鍵となっている節がある。


 救助要請のクーリングオフはできないのだろうか。



『できません』



 遠い目で壁を見つめていると、文字は散り消えていった。まだ雰囲気が重い。


 メニューが自動的にたちあがり、ガチャの横に(!)がぴょんぴょん飛び跳ねている。今押さないとダメか?今度にしてくれない?


 放置していると勝手に選択された。今日は随分積極的ですね。ワンクッション増え、欲しくもない項目が増えていた。



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 ガチャ

 → 女神ガチャ

   男神ガチャ(!)


 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 もうガチャは勘弁してくれ……

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