葛城節子のひとりごと 日
自然のパワーを求め歩いた。
なぜそうしたか?
そんなの、心赴くままに決まってる。理由は後からついてくるわ。
私は川の中の石に仰向けに寝転がり、英気を養う。
空の青さを目の当たりにすると、巨大なバックアップを得た気になる。
大丈夫、お天とさんはちゃんと見てるんだ。
三十年間、私は家族の為に、そして奴の為に、誰も手伝わない中家事をし、家計を支えてきた自負がある。
なにより家族優先で生きてきた。
なのに、この仕打ちはなに?
後生大事に思い出のマフラーを取っておくなんて、あんまりじゃない?
このまま黙って出て行くなんてできない。
懲らしめてやらなきゃ。
あいつに分からせてやらなきゃ。
でないと不倫相手も被害にあうわ。
とまあ、不倫相手の心配までし始めた。
びくびくした態度で私に接してたけど、やることやってたのね。そんな度胸だけはあったんだ。
同じ遺伝子を持った子がフリーターでアイドルに夢中なんて、不思議ね。
あいつ、きっと腹の中で笑ってたんだわ。
子どものことも、私のことも。そして、何かといえば私たちが家族会議をしていたことも。いつも面倒臭そうだったし、それを隠そうともしなかったしね。
マフラーを渡すときに死ぬほどドキドキしていた相手に、こんな感情を持つなんて、どうかしてる。
私、病気になっちゃったのかな。
病気じゃないけど、正気じゃないってところかしら。あーあ、壊れちゃった、あいつのせいで。
桃でも流れてきたもんなら、この短い足で何度もかかと落としをしてしまいそう。
私が昔話のお婆さんじゃなくてよかった。
桃太郎も、拾ってくれたのがあのお婆さんで幸せだったに違いない。
風が全身をめぐる。心地よい。復讐方法なんて一人じゃ思いつかない。仲間を作ろうか。
近所づきあいなんてしてこなかったし、子どもを巻き込むのは違う。
やつを、地獄の果てまで最短コースで突き落とす方法を考えることは、同時に私の最短での天国行だ。
やつが好きそうな女を送り込んで、金を抜くか。
ううん、と私は一人で首を振る。
私は復讐はしたいけど、犯罪者にはなりたくない。
子どもたちにとって、犯罪者の母親になりたくない。
そんなことしたら、喜一は二度と部屋から出なくなるだろう。
子どもがいなけりゃ、復讐の幅は広がっていた。
やつに恥をかかせることは舌なめずりしたいほどの復讐だが、同時に子どもたちにも恥をかかせることになる。そう思うと、どんなにパワースポットを巡っていても、体力だけがついていく一方だった。
もう少し若ければ、インスタグラムに投稿し、いいねボタンが押されるのを待ち構えていたのに。
いわゆるインスタ映えしそうな景色の連続だった。
見ててね、お天とさん。
人間代表で、悪魔を退治するからね。
あの恩知らずには、お灸をすえないとね。
知らない土地で、やつの私物を売って得た金で、どんぶりを三種類注文した。
喜んでくれてもいいところを、店主は気味悪そうに私を見て注文を聞き返した。
復讐前で愛想をよくすることもできず、仏頂面で頷くしかなかった。
どんぶりを待つ間、テレビを見ていた。
全身が緑色になる薬を調合していた組織を逮捕したというニュースをしていた。
実際にそこに居合わせた子どもと被害者も救出したらしい。
やつがこれを飲めばよかったのに。
思っていたより早くどんぶりが来た。最初に来たのは親子丼だ。割り箸を割る。緑色になった被害者を見逃さないようにと、目線は画面に釘付けだ。
救出した子どもたちの名前を何気なく見ていると、箸を落とした。
そこに喜一の名前があったからだ。




