葛城喜一のひとりごと 日
やってきたのは、エリサの手術が終わったことを告げるスーツの男ではなく、桜のバッチを胸につけた男たちだった。
警察が乗り込んできたのだ、と、乾いた頭でなんとなく分かった。
終わったんだ、何もかも。
「あいつらはどこにいるんですか?」
聞き飽きた台詞を疲れ切って何歳か加齢した曽根松が口にした。
「あの子たちも無事だよ」
若い警察官の言葉に、ぼくも安心する。
でも、すぐに会えるからね、という言葉には、絵の具をこぼし、何色も混在してしまって思わず眉を顰めてしまうようなモヤモヤが広がっていく。
どんな顔して会えばいいんだろう。
白雪姫にも、太郎にも。
種類は違っても、二人とも大好きな人だ。
同時に失いたくない。
曽根松と警察の車に乗せられ、連行される。
大筋の話はしたが、続きは署で、ということらしい。
車を出ると、足元に何かが落ちてきた。
「なんだこれ」
漫画が描いてあった。
空から次々と漫画が降ってきた。
「すげー! 空から漫画が降ってきたよ」
ジャンプで喜びを表現する曽根松をよそに、全部拾って、番号順に並べた。
「署で預かろう」
「ちょっと待って」
漫画を取り上げようとする警察官の手を払いのける。
一枚目を読んで、次も読みたい、と漫画の世界に引き込まれていった。
「事情聴取が終わった後にしてくんないかな」
手を振り払われた警察官は、苛立ちを隠さずに言った。
それでもぼくは、そんなのお構いなしに見続けた。
後から来たパトカーから、太郎たちが降りてくると、咄嗟に漫画を隠した。この漫画読んでみてよって差し出しても良かったのに、どうして隠すような真似をしてしまったんだろう。
再開したが、皆それぞれの顔を見て、静かに再開を喜んだ。警察官たちは、そんなぼくたちを見てどう解釈したのか、少しゆっくり休みなさい、と時間をくれた。ぽつりぽつり、話し声があちらこちらで囁かれる。
「あのさ、ごめん。助けに行けなくて」
ぼくがそばにいって唯一声をかけたのは、エリサだった。
「無事で本当に良かった」
その柔らかな笑顔が、ガソリンになって大きいことを口走る。
「ぼくが必ず、元の姿に戻してみせるから」
「ふふっ。大丈夫、もう終わったんだもん。いずれ薬は頂けるわ」
エリサはぼくが肩肘が張っているのを見越したように言った。
「そっか」
「でも、ありがと。嬉しいよ、君がそんなに思ってくれてるなんて」
そう言ってエリサは手を握ってくれた。
ちらりと、白雪姫の方を見る。
前はすぐに目が合ったのに、全く合わない。
彼女の目は、太郎の背中を追っていた。
再開の余韻を味わうのに十分な時間が与えられた後、一人ずつ事情聴取に呼ばれた。
太郎が呼ばれている隙を狙って、ソファーに座って順番をまっていた白雪姫の隣に滑り込む。
「見損なった?」
「んー、私が勝手に喜一のこと、大きく見えてただけだよきっと」
「見損なったんだね」
「もう、自分の世界から出てきてよ」
「あいつのこと、好きなの?」
沈黙が答えになっている。
「ぼく、白雪姫のこと好きだった」
「知ってるよ」
「知ってること知ってた」
また、沈黙が訪れる。
呼んでないのに訪れてくれんな。と、めちゃくちゃなこと思ってた。
こいつはいつも、ぼくの思考回路をバラバラにする。
太郎の前に事情聴取を終えたエリサが、戻ってきた。
「どこに行ってたの?」
「風に当たってただけ。奴らの組織のこと、明日の朝、早ければ今日の夕方のニュースに出るみたい」
「ふうん。これで本当に終わりなのか」
ぼくたちが主役になるはずだったのになぁ。
「これって私たちのお手柄にはならないのよね。世間からすれば、大人の目を盗んで無茶をした子どもたち」
白雪姫も同じことを考えていたようだ。
「ママに怒られちゃうなー」
お母さんのことを思い出した。まだ例の卵を探してくれてるんだろうか。秘密基地を占領して、近所に変な目で見られながら。
なんだか泣きたくなった。恥ずかしい、という気持ちと、かわいそうって気持ちと、愛おしいって気持ちが同時に湧いてきた。
「早くお母さんに会いたいな」
太郎が取調室から出てきた。疲弊の色が見える。昨日からまともに寝ていない。
「元気ないじゃん」
ぼくと白雪姫を見て何か言うかと思ったが、彼はエリサに声をかけた。
「太郎には何でもお見通しね」
エリサは嬉しそうに泣いた。
「何を言われた、あいつらに」
「もしかしたら、国の許可が下りないかもしれないんだって、もとに戻る薬の服用が。下りたとしても何十年、何百年先になるだろうって」
言葉が出なかった。
「俺が、交渉してみるよ」
「青いわね。そんなの無理だから」
白雪姫が言った。
「もういいの。皆が私の為にここまでしてくれたこと、本当に嬉しかった。どうもありがとう、でも、もういいよ」
「ぼくに、ぼくに手があるよ」
皆がぼくに注目する。
「政府の手に渡る前に、取り返せばいい」




