ジョセフのひとりごと 日
二人で手を繋いで戻ってきた時には、目を閉じて頭の中で十数えた。
そうすると、数え終わる頃には、怒りが静まっている場合が多い。
だが、目を開けると、持っていたペンを、投げつけていた。
「失せろ」
キャンベルの傷ついた顔を見たくなくて、漫画に集中した。
服から出てる手足が緑色になっていても、二人は何も言わなかった。
お節介なやつだから、どうしたの? って、心配してかけよってくるかと思ったが、俺に言われた通り素直に出ていく。
失せろ
自惚れて漫画に投影する。
キャンベルを頭の中から追いやろうとしても、わずかな隙間をこじ開けて入ってくる。手で押してるのに指と指の間から入ろうとしてくる間隔だ。
あなたに残された時間はあとわずか。
静かに、だけど力強く、強調して。
失せろ。
そう呟いて流した涙は眩しいほどに輝かしく。孤独を描く。
漫画家だからこそ描ける。いや、俺だからこそ描けるような漫画を描くんだ。皮膚の色、生き方が違っても、人は自由に生きられる。愛を知り、誰よりも大きな勇気を手にいれることができる。
締め切りのない漫画を描くのは初めてだった。
だが、いつ読み手がこの世から旅立つか分からない。
一分後、一時間後が保障されない不安と戦いながら、ありったけの思いを込める。
デビューしてから描き続けていたのは、何万人の読者のために、描いては会社の思惑も入れて手直しされてきた漫画。
だけど、今は違う。一人の子供に、自分の百パーセントの漫画を届けるドキドキは、感じたことのない期待感だった。
未来が保障されていない子どもだからこそ、長い年月をかけて得られる経験や信頼関係は一切省いた。
俺の残された時間に付き合え。
傲慢だけど憎めない主人公。
敵味方関係なく、愛をばらまいていく。
違うことは違うという。
初対面でも、ずっとそばにいる肉親でも、本音で相手とぶつかる。
命は長さではなく、どう使うのか。
それを、この主人公から読み取ってほしかった。
自分だけの人生を、自分らしく生きる。
少年は死んだが、仲間は悲しみを乗り越えてより、強くなる。太く生きる。
少年が周りの人たちに与えた影響は大きかった。
少年は、周りの人たちの中で生き続けた。
自分が死んでも、この漫画は読み手の中で生き続けてほしいと思った。
俺は今日、ようやく漫画を描き終わり、漫画を手に、少女の部屋にお見舞に訪れた。
少女はすでに、亡くなっていた。
今朝の出来事だった。
約束を守れなかった。
大丈夫ですか?
遺族に心配されるような足取りだったらしい。
外の空気を吸いに行く。
誰もいないことを確認すると、わんわん泣いた。
声に出して泣くのは、子どもの頃以来だ。
強風が吹きつける。風に乗って原稿が飛んでいく。
天国まで飛んでいけ
せめてもの思いで、そう呟いた。




