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ミサの元カレのひとりごと 土

 なんだアレは・・・・・・!

 

 自宅のベランダで双眼鏡から覗いていると、あの親父が白いワンピースを着てマンションから出てきた。


 話が違うじゃないか。一体何があったんだ?


 双眼鏡で親父の姿を追っていると、突然視界が俯瞰に切り替わった。

 妻が双眼鏡を取り上げたのだ。


「煙草吸ってるのかと思ったら、なーに見てんの?」


 双眼鏡を覗きこむ妻にひやりとして、素早く奪い返す。


「なんでもいいだろう、別に」


 早く子どもが産まれてくれねぇと、この束縛から逃れらんねぇよ。


「煙草吸うから、あっち行ってろ」


 胸ポケットから煙草を取り出すと、妻は睨み付けながらさっさと部屋の中に入っていった。

 機嫌が悪いことは、網戸を閉めるときの音で分かる。


 煙草をくわえながら、再び双眼鏡を覗き込む。

 走るワンピース親父はすぐに見つかった。


 どこに行くんだ? あんな格好で。

 妻さえいなければ、匿ってやるのに。

 明日。明日が例の約束の日だ。

 逃がすわけにはいかない。


「あなた!」


「あ?」


 部屋の中が騒がしい。


「あなたって!」


「なんだよ! 俺は目が離せねぇんだよ」


「産まれる!」


「え?」


 煙草を落とした。

 双眼鏡を持ったまま部屋に入る。


 水が漏れていた。


「破水。病院に電話して」


 固まる俺をよそに、妻は冷静だった。


「オーケー」


 すぐにかかりつけの総合病院に電話し、車を出した。

 自力では立ち上がれないので、お姫様抱っこをする。


「ヌオッ」


 自分でも信じられない力が出た。

 妻もびっくりしたようで、


「コソコソ筋トレでもしてたの?」


 と茶化してきた。

 コソコソしてたのは筋トレじゃなくてストーキングです。


 病院についたころには、俺の方が血相変えていた。


 庭から何か音がしたので見ると、緑色の男が土の中から出てきた。


「ヒイッゾンビ!!」


 足がすくんで動けなくなる。妻が発破をかける。


「早くしないとぶん殴るよ」


 妻を担架に乗せ、分娩室に行くのを見届けると、またあの男のことが気になってきた。

 戻ってみてみようか。

 怖いもの見たさで。


 しかし、戻ると男が土の中に埋まっていた形跡だけが残っていた。

 まだそんなに遠くには行ってないはずだ。

 妻の出産は安産だとしても二時間はかかる。

 聞き込み調査をしてみるか。


 もしかしたらあの男には懸賞金がかかってるかもしれない。

 自分がわくわくしているのを自覚した。


 病院の自販機で、迷った挙句、カルピスを頼む。


 メロンジュースを買おうかと思ったが、ボタンを押す寸前でカルピスに変更した。


 やっぱり、こんなことしてる場合じゃないのだ。確かに懸賞金も手に入れたいし、男のことも気になる。

 だけど、明日は約束の日だ。


 緑色の男のことは諦めて、白いワンピースのおっさんを探す方が先だ。


 受付で、産まれそうになったら電話をくれるよう言ってから病院を後にした。


「白いワンピースを着た男の人見ませんでしたか?」


「卵もワンピース男も見てないけど。近頃は変わった落とし物をする人が多いのね」


 女子高生の制服を着ているが、俺より人生経験が豊富そうな口ぶりだ。

 女子高生の制服を着た女に会釈をし、手掛かりを探す。


 オカリナ?

 誰かがどこかで、オカリナでエーデルワイスを吹いている。

 俺は中学から高校まで吹奏楽部にいたため、そのへんは敏い。


 オカリナの奏者であろうじいさんにでも聞き込みをすることにした。

 音の鳴る方へ、歩を進める。


 まじかよ。

 俺の予想をいい意味で裏切ってくれた。


 吹いていたのは、白いワンピースオッサンだった。


 捕まえた。


「オカリナを吹く場所を探すのに奔走してたんか?」


 オッサンはいきなり登場した俺にびびってた。

 オッサンから見れば俺もオッサンだ。


「どちら様ですか?」


「この声に聞き覚えは?」


 随分時間をかけて頭の中で様々な可能性を考えているようだった。

 ようやく、ああ、と何か閃いた台詞を口にすると、ワンピースを脱ぎ始めた。


「どうぞどうぞ」


「これ、あのワンピースじゃないじゃないか」


 双眼鏡から覗いていた時には気づかなかったが、これはアイツにあげたものじゃない。


「おい、どういうことだ」 


「いや、その、本物は居候が着て出掛けたから、代わりのものを」


「代わりじゃダメなんだよ、オッサン!」


 オッサンは俺の野太い声に肝を冷やしていた。


「居候の行き先は?」


「さあ? 聞いてないんだ」


「じゃあ、居候の特徴は!」


「み、緑色をしてます、全身」


 あいつか!


 俺は、病院へと走った。



 


 


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