葛城喜一のひとりごと 土
緊急事態に二人しかいないとなると、協力体制を敷くほかない。
ルパンと次元だって、トムとジェリーだってそうするだろう。
喧嘩をしている場合じゃないのだ。
学級委員の曽根松とは、以前からソリが合わなかったが、複数人いる中で、ぼくたちだけ意見が一致した。
煙突から突如ぶら下がってきた綱にしがみつかない。
保守的な曽根松とぼくだけが拒否をし、皆上がっていった。
みんなこんなにも勇敢だったんだ。若さゆえの勇敢さだ。
白雪姫がぼくを見た時の顔は忘れられない。
「やっぱり俺たちも上ったほうがよかったのかな」
おいおい、お前までそういうこと言わないでくれよ。
「皆、どうしてるのかな」
「それを言うのは後にしてくれよ。あれからまだ十分しかたってないんだから」
「二人しかいなくて心細いな」
「お前にそう言われると心外だな」
ぼくは遠慮なく本音をぶつけた。
コツ、コツ、と、何かが近づいてくる音がした。
「お前、好きな人いるか?」
この状況でそれを聞くか!?
この音が聞こえていないはずがない。
「いるけど」
そっけない言い方に、場違いな質問への不快感を込める。
「白雪姫?」
「ああ」
「そっか」
気まずい空気が流れる。足音がどんどん近づいてくる。
「やっぱりね」
曽根松が会話を再開させた。
「ずっと見てたから分かる」
「お前も白雪姫が好きなの?」
ちょっと意外だった。なんとなく、硬派で恋とは無縁な気がしていた。
「いや」
違うんか。ほっとしている自分がいた。
「俺が好きなんは、お前だよ」
その瞬間、ドアの前で足音が止まった。
カチャリ、と鍵が開く音がする。
ぼくはどっちが原因で心臓が音を立てているのか分からなくなっていた。
頭の中は真っ白だ。
曽根松が手をにぎってきた。ぼくはびっくりして、その手を振り払った。
あんなことを言われなければ、握り返していただろう。この恐怖を一人で耐えることはできない。
ドアがゆっくりと開く。
若い黒髪短髪の長身男がスーツ姿で現れた。
「ほかのお友達はどうしたの?」
気さくに話しかけてくる。
「さあ、ぼくたち寝てたので知りません」
男はクスッと笑って言った。
「まぁいいだろう。君たちに選択肢を提示しに来たんだ。どうするかは自分たちで決めることができる。心の準備はいい?」
無言でうんうん、と頷く。
「選択肢は二つ。ここに残って職員になるか、他言無用で帰ってもらうか」
「ぼくたちは、エリサに元の姿に戻ってほしいだけだ。職員になったら元の姿に戻す薬が手に入るって言うんだったら前向きに検討するよ」
「賢い子だね。だがそれは保証しよう。ただ、その薬が手に入ったからと言って、彼女が確実に元の姿に戻ることは保証できないよ」
「どうして?」
「彼女も人間だ。薬が合う合わないもあるし、どう作用するかは実際に使ってみないと分からない。実験結果を待ってから決める?」
ぼくと曽根松は、相談して実験結果を待ってから決めることにした。
ここで引き下がると、ここに来た意味はない。
実験結果を待って、もし合わなければ、ここで働いて彼女の体に合う薬を開発したいと思った。
「じゃあまた実験結果を伝えにくるよ」
「よろしくお願いします」
曽根松は丁寧に頭を下げた。
男が出て行って二人きりになると、そういえばこいつ、ぼくのことが好きなんだよな、と、告白されたことを思い出した。
しばらく二人とも黙っていた。
もはや、どちらから口を開くか互いに意地を張っているようだ。
「なあ」
先に根負けしたのは、曽根松だ。ぼくは心の中で下を出した。
「みんな、今何してるのかな」
「またその話かよ」
「ごめん」
ムードが悪くなる。
早く実験終わんないかなぁ。
間がもたんよ。
ぼくはため息をひとつついた。




