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葛城節子のひとりごと 土

 質屋に行こう。

 敬心のいない間に、思い出の品を品定めだ。


 荷物をまとめながら、器用にこなしてやる。


 視界がぼんやりしてきた。

 涙が出ているのだろう。


 またか、しぶとい奴め。


 夕べから、何度出てきたか分からない。

 よく、枕を濡らして寝る、と言うが、枕カバーが本当に湿っている。


 洗濯はやつにさせればいいさ。


 私だって、人肌に包まれてやる。


 いけない、品定めに集中できない。

 高く売れそうなものをごっそり盗っていかなきゃ。


 この葛城家で最後の大仕事よ。


 化粧台にしばらく置いたままになってある腕時計。

 まだ動いてるわね。

 これは私の就職祝いにあいつがくれたもの。

 あいつだってまだ働く前でお金がないっていうのに、かなりの大金をはたいてくれたんだっけ。


 魚を釣る前は惜しみなく餌を用意するタイプなのよね。


 でも、もう二十年以上も前だし、今更お金にならないわよねぇ。


 ふう。


 ため息をつく。


 アクセサリーも眺めたが、これといってお金になりそうなものはない。


 逆に、私がやつにあげたブルガリの時計は持ち出しておこう。

 これは良い値を張ったはず。

 私も無茶したわよねぇ。就職前の分際で。


 今智子が同じように貢いだら勘当よ。


 そのあと、二、三点盗むと、ゴミ袋の中に放り投げた。

 穴の開いたジーンズ、これも持ってくか。


 あいつはよく靴下に穴を開けた。

 そのたびに、縫ってやったのに。


 これからじわじわありがたみを感じてくるだろう。

 やつが泣き寝入りした時には、遅いんだからね。

 子どもたちとは、物理的に離れていたって心は同じ場所にある。

 だから、何度だって会える。いつだって力になる。全力で守っていくさ。これからも。

 だけど、あいつとは赤の他人になる。

 子どもを守る協力者として同じ位置づけにいる人間同士になるだけだ。

 あばよ、旦那。

 写真たてを伏せる。

 家族みんなで動物園に行った時の写真。猿山の前で撮った。

 よりにもよって、外国人に写真を撮ってって頼んでだっけ、あの人。

 英語も話せないくせに。案の定、プリーズプッシュって言って、突き飛ばされてた。

 どうして鮮明に覚えてんだろう。こんなどうでもいいこと。

 

 季節外れの手編みのマフラーを引っ張り出す。

 あの時代、好きな人のためにマフラーを編むなんぞ、定番だった。


 まだ中学生で、お金もなかったけど、お裁縫なんてしたこともなかったけど、家庭科ではいつも隠れて友達にやってもらってたけど、マフラーを編むことにしたんだよね。


 クラスのマドンナもあの人のことが好きで、マフラーでもあげようかなって言ってるのを聞いて、じゃあせめて私は手作りでがんばろって決めたんだ。


 私が渡す前に、マドンナが先に渡してた。センスのいい柄のマフラーだった。

 夜更かししながらなんとか形になったマフラーを持ったまま、その場から動けなくなっていたら、あいつが私に気が付いて、マフラーを取り上げた。


「なんだ、これ」


 バカにされるって思って、顔から火が出そうだった。実際、ぐちゃぐちゃのマフラーだったし。


 でも、あの人は私のマフラーを首にかけた。


「俺が引き取ってやるよ、マフラーも、お前も」


 二枚目キャラだったあいつにそう言われて、クラクラした。


「なにそのきったねーマフラー」


 友達が馬鹿にしてきても、絶対に外さなかった。

 さらに、マドンナにマフラーを突き返したの。私の目の前で。

 それを見て、私の選球眼は間違ってなかったと、確信したのよね。

 この人を好きになって、よかった。


 それから恋愛し続けて、結婚、出産。

 人は大恋愛と呼ぶのだろう。


 感傷に浸っていたそのとき、マフラーをしまっていたタンスの奥から、その時のマフラーが出てきた。

 マドンナに突き返していたはずの、マフラー。


 どうして?


 私は、とりあえずそれを持って逃げなくてはならなくなった。


 

 


 



 

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