葛城喜一のひとりごと 水
ぼく、葛城喜一(10)は見てしまった。
学校帰りに友達と秘密基地で遊んでいた。
今日はみんな、塾があるとかで、秘密基地に寄らずにまっすぐ帰っていった。
ぼくは迷ったけれど、一人でも秘密基地に行ってみることにした。
食料を増やして、みんなの前でいい顔をしようとしたのだ。
好きな人もこの秘密基地に携わっていることだし、いい機会だと前向きにひとりぼっちを受け止めていた。
学校から歩いて十分ほどの距離にある裏山の秘密基地に着いたとき、いつもとおかしな光景に気が付いた。
先約がいたのだ。
だれだろう?
秘密基地に行き来できる仲間全員に声をかけたが、みんな塾や習い事でいけないと言っていたはずだ。
習い事が急きょ休みになったのだろうか?
何も考えずに進んでいく。だが、そいつを見て、俺は木の陰に隠れた。
緑色の人間が、秘密基地に隠しておいたバナナを剥いて食べていたのだ。
心臓が急に早くなる。
初めてみるその気色の悪さに、胃液が上がってくるのを感じる。
ぼくは、物が分からず、はしゃいで近づくような子どもではない。
仲間に教えてやらなくちゃ。
秘密基地が何者かに侵略されていること。それも、なにやら未知の生物に侵されていることを。
問題集と睨めっこをしている場合じゃないぞって。
だが、ぼくはあいにくキッズケータイというものを持ち合わせておらず、仲間と連絡をとる手段がない。
ぼくはしばらくそいつを監視することにした。
特徴をとらえるまで、むやみに近づくわけにはいかない。
これで三本目だ。他にもリンゴやみかんがあるにも関わらず、三本連続でバナナを食べている。
指は五本、基地の中に入っているため、上半身しか見えないが、体つきも人間に見える。服は着ておらず、髪はショートカットの黒髪だ。よく見ると、黒髪から双葉が生えている。水をやると育つのかは本人に聞いてみないと分からない。男か女かは判別できない。目の色はオレンジで、皮膚は緑色。攻撃力は謎。
エイリアンだ。
もし石ころをやつに投げたら、命中したとしても、しなかったとしてもやつに何をされるかわからない。
こういうとき、相談相手がいないのはつらい。
ぼくにはまだ、一人でエイリアンに立ち向かうほどの勇気がなかった。
なんだかエイリアンの様子がおかしい。バナナを頬張る手が止まり、うずくまっている。顔色も悪そうだ。
ぼくはますます困った。
どうしよう。声をかけた方がいいのかな。
躊躇っていると、あいつの苦しげな目が僕を捉えていた。
助けてくれ。そう言われた気がして、おずおずと前に出る。
ランドセルを前に背負いながら、防御の姿勢を取り、そいつに一歩一歩近づく。
そいつはフルマラソンをしたかのように汗だくになり、肩で息をしていた。
「だいじょうぶ?」
声をかけると、うめき声が返ってきた。
ぼくは去年、盲腸にかかった。そいつを見ながら、盲腸にかかったのかと思ったが、そいつのお尻から、何かが出てくるのが見えた。
大きな卵だ。
こいつは、催しているわけではなく、盲腸になったわけでもなく、出産中だったのだ。
なかなか卵が出てこなかったので、俺は卵を引っ張った。ネバネバしていてなんだか気持ちが悪かったが、モタモタしながらもなんとか引っこ抜いた。その瞬間、尻もちをついたが、卵は両手で抱えたまま、落とさなかった。
エイリアンは出産後もぐったりしており、かなり疲れているようだった。
今は走る気力もないだろう。
いまだ! と、思い切ってその場を逃げ出した。
通行人に卵を見られないよう、ランドセルの中を空っぽにし、その中に卵を入れた。丁度ぎりぎり入った。ランドセルの中に入ってたものは、手で抱えて持って帰った。
学校でも、エイリアンの卵を持っているのはぼくだけだ。
友達みたいに、ガチャガチャのおもちゃではなく、ぼくが持っているのは本物なんだ!
ぼくは胸を張って家に帰った。
「ただいまぁ!」