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葛城喜一のひとりごと 金

まず、感情に走って引きこもってしまったこと、お母さんに脅されたとはいえ、秘密基地のことを話してしまったこと、秘密基地でお母さんが好き放題していることを皆に詫びた。


「そんなことはどうでもいいから、悩み事を僕たちに相談しなかったことを謝ってほしい」


 そんな風に言ってくれる仲間がいて、僕はなんて幸せな小学生なんだ。


 放課後、塾や習い事があるにも関わらず、佐竹を筆頭に友達数人が僕の家に集まってくれた。

 佐竹の口から、あの卵の産みの親の話を聞いて、本当に驚いた。

 彼女は佐竹の家で待機しているらしい。

 名前はエリサだと言われた。

 エリサには、直接会って謝らなければ。


 エリサをあんな姿にして奴を探して、元の姿に戻してやろうと思うんだけど、協力してくれるか? と言われた。答えはもちろんイエスだ。僕にはその義務がある。


 途中お兄ちゃんが部屋に入ってきて話が中断したけども、なんとか話に整理がついて、皆で佐竹の家に向かうことにした。


 いざ佐竹の家に来ると、ドキドキが止まらなかった。

 どんな顔して会えばいいんだろうか。


「いい奴だからそんなに緊張しなくても大丈夫だよ」


 無論、これは僕だけでなく、皆に向けて言った言葉だ。

 皆もやはり初めて見るその姿に、緊張しているようだった。


 僕は皆とは違って、まず殴られる覚悟で行かなければいけない。

 あいつが産んだ卵を盗んでしまった。

 あいつは自分の卵を盗んでいった僕の顔を忘れるはずがない。


 誰かが僕の手をにぎった。

 前からちょっといいなって思っていた女の子だった。

 名前はルミ。色が白く、皆から白雪姫と呼ばれている。


 大丈夫だよ。そう伝わってきた。

 僕はしっかり握り返した。


 リビングの押入れを、佐竹がノックする。

 すっとふすまが開く。

 佐竹がエリサと呼んでいた彼女が、俯き加減で、細長い足から先に出てきた。

 誰かの唾をのみ込む音がする。


 すとんと軽やかに降りると、一礼した。


「初めまして、エリサです」


 容姿は醜いが、所作は美しい。

 僕たちもエリサに一人ずつ自己紹介をする。

 僕の番になった。


「僕のこと、覚えてますか?」


 エリサは、少し間をあけた後、


「忘れたことはありません」


 と答えた。


「謝ってすむことじゃないけど、本当にごめんなさい」


 心拍数が跳ね上げる。

 しばらくの間砂漠にいて、久しぶりに水気を得たトビウオのように。


「顔を上げて」


 優しい言葉をかけてもらうのを待っているように見えたのだろうか、エリサは穏やかな口調だった。

 先走って涙が出てきた。温かい言葉をかけてもらうのはこれからなのに。


「私に誓ってくれる? あなたが一番初めに犠牲になるって」


 背筋が凍った。

 その場の空気も震撼した。


「喜一、お前何をしたのさ」


 佐竹が小声で聞いてきたけど、答えなかった。


「誓います」


 男、喜一。

 声が上ずりながらも、エリサの目を逸らさずに言い切った。


 僕は男になったのだ。


「さ、変な空気になっちゃったけど、行きますか」


 喜一がどうにか場の空気を変えようとする。皆もなんとかそれに応えようとした。


 皆でハングライダーに乗った。

 エリサからいい匂いがした。

 白雪姫とは違う、大人の匂いだ。

 学校も、秘密基地のある山も上から見渡した。


 皆が言っていた通り、母さんが秘密基地に座って腕を組んでいた。


 目が合った気がするが、気のせいかもしれない。

 皆もきっと母さんに気づいただろうが、僕に気を遣って誰も口にしなかった。


 佐竹の話では、アジトに向かうようだった。

 子どもと変色した大人だけで大丈夫かと思ったが、佐竹は自信に満ちているようだった。


 エリサはそのアジトで、不眠不休でも体調になんら影響を及ぼさない薬を手に入れたらしい。それを服用したところ、副作用が出て後悔しているということだった。

 どうしていかにも怪しげな薬に手を出すのだろうか?

 小学生の自分でもわかる。


 自分から招いた事態とはいえ、いの一番に生け贄にされる身としては、理不尽に思えてならなかった。


 白雪姫の横顔を眺める。

 いつ人生の最期を迎えるかわからない。


 僕は、彼女の頬にキスをした。


 白雪姫の頬は、赤く火照った。


「お前、何考えてんだ!」


 佐竹に殴られた。

 佐竹も好きだったんだろうか。

 普通、小学生なら冷やかすところだろう。


 だが、佐竹は僕が早々とこの世からおさらばした後、ずっと白雪姫と一緒にいられるのだ。


 それまでは僕がモーションをかけてもいいじゃないか。


 佐竹はエリサとの関係性を考えても、どうせ最後まで生き残るのだろうから。佐竹が白雪姫を好きなのだとしたら、彼女はヒロインだ。


 アジトが見えてきた。

 港付近の工場だ。


 僕は内心ほっとした。

 もしかしたらアジトにつくまえに生け贄にされてしまうのではないかと思っていたからだ。


 ここに来るまで特にトラップもなく、エリサに動きはなかった。


 丸腰で正面から工場に入ろうとする佐竹を見て、心中穏やかではないことが伺える。


 そうか、自分の命を保障するためには、仲間の心を乱さないようにしなきゃいけなかったんだ。


 俺は考えを改めることにした。

 まずは、どうやったら生き延びられるか考えよう。

 生け贄を逃れるためには、仲間に気持ちよくやってもらうしかない。


 一同は工場の中の草むらの茂みに身を隠した。中の様子を知るために、エリサが望遠鏡で覗きこんだところから、記憶がなくなった。

 

 

 


 


 

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