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葛城節子のひとりごと 金

 今日は華金。

 どいつもこいつも浮かれてるわ。


 クシュンッ。

 会社の中だから、可愛いクシャミを意識する。

 家の中だと豪快にクシャミが出来るんだけど。

 女はいつまでたっても乙女なのよね。たいていの女はこうして使い分けができる。


「葛城さん、風邪ひいたんですか?」


「ええ、昨日夜遅くまでパトロールしてたから」


 嘘ではない。私はこいつらに卵を食べさせるために、夜遅くまで喜一の秘密基地で見張っていた。可愛い我が子たちに夕飯も作らずに。


 秘密基地でままごとのようなことをして遊んでいた子どもたちに役割分担して掃除をさせた。

 ここで卵を見つかるまで過ごすのに、居心地がよくないといけない。


 突然の喜一の母の登場に、子どもたちは固まっていた。

 喜一が俺たちの秘密基地のこと、喋ったのか? と思っただろう。

 だが、面と向かってそれを聞いてくる子どもはいなかった。

 私はホコリ一つでもやり直しをさせた。

 今思えば、この時の私は神様をお出迎えするかのような心境だったのかもしれない。

 卵様のおな~り~。

 という声がどこからか聞こえてきそうだ。


 必要最低限のものしか置かないようにといい、ガラクタは持ち帰らせた。


 大量の泥だんごをビニール袋に詰めていた女の子は、泣きそうな顔をしていた。


「ごめんね。ここに物がない方がいいの。そんなのまた作ればいいでしょ」


「大人はすぐにそんなもの捨てなさいとかいうよね。だから、誰にも怒られない場所を作って、好きなものに囲まれて過ごしてたのに、勝手に外からやってきて、口出ししにくるなんてあんまりだわ」


 大人びた口調で言う女の子は、憎しみの籠った目を向けてきた。

 他の者も、女の子に同調した。


「そうだそうだ! 大人は引っ込んでろ!」


 そんな品のない言葉を投げかけてくる男の子もいた。

 

「さて、今から本格的にここを占領させてもらうとするわ」


 開き直って宣言した。

 子どもたちは口をあんぐり開けている。


「ところで、卵は落ちてなかった?」


「見てない」


 子どもたちからそっけない言葉が返ってくる。

 どうやらだいぶ恨まれているようだ。

 彼らにとって私は、子どもだけの城を荒らしてきたタヌキに見えているのだろう。


「そんな顔しないでよ。私だって好きでこんなことをしてるわけじゃない。卵さえ見つかればお菓子いっぱいあげるよ」


 食べ物が豊富なこの時代、お菓子で子どもたちの目の色が輝くようなことはなかった。


「こんなオバさん、もう放っておこう」


「ママに言っておくよ、喜一のお母さんは不審者だって」


 喜一の名前を出されると、胸が痛んだ。


「喜一は関係ない」


 だが、振り返ることなく子どもたちは走って山を下りて行った。


 山の中を一人で過ごすのは、心細いものだ。

 卵の在りかさえ分かれば。


 私は閃いた。

 卵があるということは、産みの親がいるということだ。

 そいつを探す方が早いかもしれない。

 だが、鶏でもなさそうだし、該当する生物が思い浮かばない。


 山の中をうろうろするのも怖いので、秘密基地でそいつが現れるのをじっと待った。

 

 結局収穫がなかったので、今日も秘密基地に寄らなければならない。


「葛城さんも、今日お疲れ様会行きませんか?」


「ありがとう、でも今日もパトロールだから」


 爽やかに断って、山に向かった。

 子どもたちが来ているかと思ったが、いなかった。

 秘密基地を奪い返すくらいの気概のある少年少女はいないのか、と少しがっかりした。

 秘密基地にどっしり座って待ち構えていると、ハングライダーが飛んでいるのが見えた。


 肌寒くなったので、帰ることにした。

 あったかいお風呂に入って、ゆっくり休もう。

 老体にムチ打って、明日からの見張りも頑張らなくっちゃ。


 家に帰り、電気をつけると、ぎくっとした。

 リビングのテーブルに、敬心が座っていたのだ。


「びっくりするじゃない、電気ぐらいつけなさいよ」


 だが、敬心は何も言わない。

 何かあったな。

 会社を首になったとか?


「ねぇ、大丈夫?」


 敬心は虚ろな目つきで言った。


「僕と、離婚してください」



 



 

 

 

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