葛城摂津のひとりごと 金
夕べは結局、家族会議を開くことができなかった。
家族会議の招集をかけようにも、引きこもっている喜一以外、皆外に出払っていた。
おいおい、ソファから動かないことも珍しくないおばさんまでいないじゃねぇか。
てか、夕飯は?
まさか、喜一の秘密基地を占領しているとは、思いもしなかった。
だいたい智子は電話番するんじゃなかったのかよ。
電話をかけてみたが、長いコール音の後、小声で、今夜は遅くなると言って電話を切られた。
なんだよ、どいつもこいつも。
悶々としながらみんなの帰りを待っていたが、結局帰ってきたのが十二時を回っていた。
便所で部屋を出てきた喜一とばったり出くわした時は、本当に気まずい思いをした。
「見つかった?」
そう言われて父の不倫のことで頭がいっぱいだった俺は、一瞬何のことだか分からなかった。
卵のことだと分かった時には、不信感丸出しの顔で見られていた。
「僕の気持ちなんて、お兄ちゃんは分からないんだ!」
喜一はデリケートな時期を迎えているらしい。
俺の返事も待たずに、部屋に引き返していった。
ビールを飲みながら俺なりに心配していたが、早番のバイトが終わり、夕方家に帰ると、玄関に大量の靴があって、驚かされた。子供の靴だ。男の子の靴も、女の子の靴もあった。
学校に来ない喜一を心配して集まってくれたというのか。
喜一にそんな人望があったことに少し兄として誇らしく思った。
ジュースでも出してやろう。
兄として、お礼を言わなければいけない。
小学生といえども、宿題があったり、習い事があったりする中、喜一の元に来てくれているのだ。
喜一にも、俺が友達に感謝している姿を見せなければいけない。
襟足をただす気持ちでジュースを入れる。
ドアの前では、話し声がする。
盗み聞きするわけではないが、そのトーンの低さに、ぞっとした。
まるで小学生らしさがない。サラリーマンが会議をしているようだ。
小柄な会社員が中にいるわけじゃないだろうね?
緊張気味にノックする。
話し声がピタッと止まった。
え?
ドアが開いた。
喜一がジュースだけ受け取ろうと虫のいいことをしようとしたので、渡さずにずいずい自分でジュースを持っていき、配った。
見た目は小学生だ。
靴の数を数えてコップを出したが、合っていたようだ。
「喉が渇いたでしょう、これ飲みな。オレンジジュースしかなくて悪いけど」
「ありがとうございます」
みんなすぐに手をつける。よほど喉が渇いていたようだ。ナイス、俺!
おっと、浮かれている場合じゃない。それほど喜一のために頑張ってくれてるんだな。
さあ、感謝の言葉を言わなくちゃ。
皆、俺を見てるぞ。早く出ていけということか?
なら、早口で言うぞ。
「皆、今日は小学生生活を終えて、疲れているところ、うちの弟の為に駆け付けてくれてありがとう。こいつはまだまだ甘えているところもあるけど、皆が来てくれたことで、気持ちが動かされてると思う」
皆が、きょとんとしながらこちらを見ていた。
少しかしこまりすぎたかな?
いやいや、今頃の子どもはこれくらいの口調でちょうどいいんだ。
子どもだと思って話すと、痛い目に合う。
「お兄ちゃん、皆困ってるじゃん」
喜一の言葉は、意外と深く胸に刺さった。
「特に用がないなら早く出てって。今大事な話をしてるんだ」
喜一に押されて追い出されてしまった。
気を利かせてジュースを持ってきてやったというのに、ひどい有様だ。
聞き耳を立てるつもりで、そっとドアに耳を押しつける。
子どもたちも俺を警戒しているのか、ヒソヒソ声で話しているので断片的にしか聞こえない。
よくわからないが、何か壮大な計画をしているようだ。
どうやら子どもたちは喜一の様子を心配して来たわけではないようだ。
卵のことより気になることができたんだったらよかった。
しばらくすると、喜一は友達と一緒に出掛けて行った。
部屋の外にも出なかったというのに、すごい変わりようだ。
帰りは遅くなるかもしれない、と言って出て行ったので、家族会議は喜一抜きでやろう。
それにしても、この頃母の帰りが遅い。
今回の会議の中心人物なのに、どこで何してるんだか。
父には、今朝の時点でまっすぐ帰るように言ってある。
智子とは、連絡が取れない状況だ。
まぁ、両親さえいれば問題ない。
電話が鳴り響く。
喜一が卵のことを度外視している今、無理して出る必要もないだろう。




