エリサのひとりごと 木
光合成がしたくなった。
お父さんは、夜のお店の為に外が明るいうちに睡眠をとっている。
子どもは学校に行っている時間だ。
この家には女性がいないみたいで、外に出たくても着ていく服がない。
よわったな。
緑色に変色した今、服を着ずに出かけるわけにはいかない。
リビングに置いてある全身鏡を見て、今日もまた、落ち込む。
私だって、生まれつきこんな化け物だったわけではない。
あいつらにさえ出会わなければ。
涙が出てくる。
涙でよく見えないが、緑がくすんできたように見える。
私はどんどん醜くなっていくんだろうか。
おしゃれに気を遣うのが楽しかった。
肌や髪の手入れには人一倍手も金もかけてきた。
肌が緑色になってからは、髪がボサボサでもほったらかしている。
髪だけ綺麗でも、キモいものはキモい。
この姿で町を歩いても、恋愛対象外のオーラを放ってしまうのだろう。
哺乳類じゃなくなってしまったことも、だいぶ痛い。
元の姿に戻るまで、押入れにいるわけにはいかない。
ドラえもんだって、人からだいぶかけ離れた姿をしているけど、そんな卑屈にはなっていない。
私がまだ人間だったころ、タケコプターで空を飛んでいるのをテレビでよく見かけた。
私だって、空を飛ぶくらい前向きな気分になりたい。
だが、この家のお父さんはタケコプターは持っていなさそうだ。聞かなくてもオーラで分かる。
そう、タケコプターを隠し持っていそうな特別なオーラを放っている人間は、オーラで分かるものだ。
ドン底で一人悩み彷徨っていた私を助けてくれたことには一定の評価はするが、それ以上の、何かしてくれるだろうというような期待は望めない。
とりあえず、ベランダに出るぐらいなら大丈夫だろう。
ベランダから見下ろす。
すぐそこの公園で、砂遊びをしている幼稚園ぐらいの幼き子どもたちがいた。
公園の入り口の前にある一軒家では、大の大人が庭を掘っている。
銅像の前でスケッチをしている人、ブランコに乗る子どもの背中を押してやる母親。
ベンチに横たわって呆然としている若者。
ベランダからでも社会を切り取ることができるんだ。
緑になってから、行動範囲が狭められて初めて気づいた。
先ほど庭を掘っていた人が、尻もちをついた。
どうしたのだろう。
興味深く見ていると、そいつは堀った穴の中から白いワンピースをつまみ上げた。
次々に衣類が出てくる。
そいつの様子からして、埋めたのはそいつじゃなさそうだ。
私は閃いた。
人間観察にピリオドを打ち、メッセージを描いた紙ヒコーキをそいつめがけて飛ばした。
あと少しのところで、公園前で散歩中の犬にぶつかり、犬のフンの始末をしていた飼い主が紙ヒコーキを広げてメッセージを読み、眉間にしわを寄せながらも、フンを入れたビニール袋を持ってこちらに向かってきた。
失敗した。だが、めげることなく再チャレンジする。
今度は目当ての人物に当たった。
〇〇マンションの〇〇号室にそれ持ってきて!!
と書いたメッセージを読んだそいつは、持っていた衣類を持って、こちらに向かってくる。
ダブルブッキングは避けたいが、目的の人物が最初に来てくれた。
目だけ出して、服を譲ってくれないか交渉を始める。私好みの細マッチョの若い男だった。
トキメキを感じながらも、対象外のオーラを自覚し、自己アピールを自制する。
少し遅れて、大事そうにビニール袋をかかえた中年女が戸惑いながらやってきた。
イタズラかもしれない、と警戒しながら来たから細マッチョよりも出遅れたのだろう。
おばさんの方は、イタズラです、と追い払った。
細マッチョは、頬を引きつらせながら、持っている衣服を全部くれた。
「ありがとう」
そう言うと、逃げるように帰っていった。
白いワンピースにタイツをはき、インナーに長袖をして完全防備で外出した。
帽子を深めにかぶると、普通の人間に見える。
よし、出かけよう。
堂々と出かけられる幸せをかみしめた。
ケンタッキーの前の駐車場に、ハングライダーがおいてあった。気分がよかったので、乗って帰ることにした。
図に乗っているからだろうか。開放的な気分から抜け出せず、帰ってきた子どもと初対面してしまった。
服を脱いだから、少し恥ずかしい。目も合わせられない。
だが、物わかりがよく、私の事情を知った男の子は、私に協力してくれると言ってくれた。
なんだかお父さんよりも頼れそうだ。
マンションの屋上に置いたハングライダーが、いい足になるかもしれない。
あいつらを見つけて、元の姿に戻るんだ。
この姿になって初めて、そう思えた。




