葛城摂津のひとりごと 木
一円にもならないことにこんな労力使わんといけんとは。
ビラ配りに駆り出され、智子によって駅から放出された摂津は、電柱や、通学中の小学生のランドセルにペタペタ張っていった。
これで俺も不審者の仲間入りかな。
智子から電話で、調査を押し付けられた。
冗談じゃない。
「この卵を探してるんですけど、見かけなかったですか?」
なんて、単独で聞けるわけない。
とはいえ、智子のことだから、収穫なしで帰ると、何か言ってきそうだ。
「落し物はないですか?」
俺は、若い女を狙って話しかけた。
「ないです」
冷淡に突き放すのが鉄則だと言わんばかりの態度だ。
「あ、落し物があるのは俺の方だった!」
おどけてみたが、白い目で見られただけだった。
失敗した。
どうせ話しかけるのなら綺麗どころがいいなと選好みしていたが、夕方になるにつれ、そうも言っていられなくなった。
焦る気持ちだけが募っていく。
「これくらいの卵見なかった?」
将来有望の綺麗どころといえる小学生の女の子に話しかけてみる。
だが、首をかしげてばかりで話にならない。
そこで、今度は元綺麗どころにも話しかけてみる。
「あそこのスーパーで安売りしてたよ」
というので、そんなバカなと思いつつも、念の為に行ってみた。
だが、そんな代物があるはずもなく、あんな婆さんに聞くもんじゃないなと思ったそのとき、見覚えのある男性が遠くにいるのを発見した。
父だ。父が、知らない若い女性と、アイスクリームを品定めしている。
おいおい、不倫かよ。
智子のデートも発見したし、今週はそういう週なのか?
高級レストランでデートよりも、スーパーで買い物デートの方が、妙に生々しく、ショックはデカい。
母さんはパートであくせく働いているというのに、自分は若い女にうつつを抜かしているとは。
ふつふつと、母親の肩を持つ気持ちが芽生えてくる。
こりゃ卵どころじゃなぞ。
喜一には悪いけど、卵の喪失体験は早く立ち直ってもらって、不倫問題の家族会議にはつらつと参加してもらわないと。
俺は、スマホで二人のツーショット写真を収めた。