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なろうテンプレの元祖は「かぐや姫」なのではないか?

 竹取物語とは、皆様ご存知の通り、日本最古の物語です。


 成立については謎が多く、具体的にいつ書かれたのか、作者は誰なのか、明らかになっていません(詳しくはWikipediaなどをご覧ください)。ただ遅くとも平安時代初期の10世紀半ばまでには成立したと言われています。


 さて、このエッセイで語りたいことは、タイトルにも書いた通り「なろうテンプレの元祖はかぐや姫なのではないか?」という話です。


 細かい話はあと回しにして、まずは簡単に竹取物語のストーリーをおさらいしながら、一体どこがなろうテンプレに沿っているのか見ていきましょう(以下文章中の「」内の文章は、Wikipedia「竹取物語」のあらすじからコピペしました。URL : https://ja.wikipedia.org/wiki/竹取物語) 


 まず竹取物語では、竹取の翁が竹林へ竹を取りに行く場面から始まります。あらすじを書くと以下のようになります。


「ある日、翁が竹林にでかけると、光り輝く竹があった。そこで翁は一本の光り輝く竹を発見した。翁が不思議に思って近づいてみると、中から三寸(約 9 cm)程の可愛らしいことこの上ない女の子が出て来たので、自分たちの子供として育てることにした。」


 つまりこれチート能力を持って異世界転生した主人公のことです。


 9cmの光る美少女ですよ? どう考えてもチートですね。それに子供の姿=転生者ということが明確に読み取れます。


 しかも転生してからいきなり翁とその妻に拾われるという、異世界転生者にとってクリアすべき課題の一つである、異世界における生活基盤の獲得もすんなりとクリアしています。


 また「小さくて光る美少女」というだけではチート能力として少し弱いかもしれません。しかしかぐや姫は翁に拾われた後にもチート能力を発揮しています。


「その後、竹の中に金を見つける日が続き、翁の夫婦は豊かになっていった。 翁が見つけた子供はどんどん大きくなり、三ヶ月ほどで妙齢の娘になったので、髪を結い上げる儀式を手配し、裳を着せた。この世のものとは思えない程の美しさで、家の中には暗い場が無く光に満ちている。翁は、心が悪く苦しいときも、この子を見れば消えた。」


 この文章だけでも、幾つかのなろうテンプレが登場しています。

(1)竹の中に金 → 前世の記憶を使って荒稼ぎするチート主人公そのもの

(2)三ヶ月ほどで妙齢の娘になった → 少しの修行で一気に成長するチート主人公そのもの

(3)儀式を手配し → チート主人公をもてはやすギルドの振る舞いそのもの

(4)翁は、心が悪く苦しいときも、この子を見れば消えた→どう考えても回復魔法のことです


 どうでしょう? 竹取物語はまだ始まったばかりにも関わらずこのなろうテンプレのオンパレード! 竹取物語に含まれているなろうテンプレはまだまだこんなものではありませんよ!


「世間の男は、その貴賤を問わず皆どうにかしてかぐや姫と結婚したいと、噂に聞いては恋い慕い思い悩んだ。その姿を覗き見ようと竹取の翁の家の周りをうろつく公達は後を絶たず、彼らは翁の家の垣根にも門にも、家の中にいる人でさえかぐや姫を容易に見られないのに、誰も彼もが夜も寝ず、闇夜に出でて穴をえぐり、覗き込むほど夢中になっていた。」


 はい出ました、ハーレムです!(竹取物語では逆ハーになりますが)


 当の本人は何もしていないのに勝手にモテてモテて仕方ない! これこそ異世界転生チーレム主人公の最大の特徴にして面白い点でもありますね。


「そのような時から、女に求婚することを「よばひ」と言うようになった」


なんと独自の設定も付け加えてきました。世界観の説明も忘れません。


「その内に、志の無い者は来なくなっていった。最後に残ったのは色好みといわれる五人の公達で、彼らは諦めず夜昼となく通ってきた。五人の公達は、石作皇子、車(庫)持皇子、右大臣阿倍御主人、大納言大伴御行、中納言石上麻呂といった。」


 かぐや姫は特にモテようとしていたわけではありません。家にずっと居ただけです。つまりニートです。ニートとして家でゴロゴロしていただけで、勝手に金は入る、飯は出てくる、皆からチヤホヤされて、ハーレム要員が向こうから集まってくる。これをなろうテンプレと言わずしてなんと言うか!


 この後かぐや姫は5人の王子達に無理難題をふっかけて、婚約をうやむやにしてしまいます。


 この無理難題というのも「龍の首の珠」「火鼠の皮衣」「蓬莱山の玉の枝」という、ファンタジー色強いものとなっています。


 言い換えれば「ドラゴン」「ファイアボア」「ダンジョンの財宝」みたいなものでしょう? 突然ですよ、急に出てきましたファンタジー要素が。しかも財宝を手に入れるために5人の王子達は海へ山への大冒険をしています。さっきまで美少女がキャッキャしていたのに、ここにきて異世界冒険ファンタジーになってきましたよ!(5人の王子達の冒険の詳細はカットしますが、結構大冒険しています。)


 この後かぐや姫は帝に求婚されたり、断ったりしたんですが、中略します。


「帝と和歌を遣り取りするようになって三年の月日が経った頃、かぐや姫は月を見て物思いに耽るようになった。 八月の満月が近づくにつれ、かぐや姫は激しく泣くようになり、翁が問うと「自分はこの国の人ではなく月の都の人であって、十五日に帰らねばならない。ほんの少しの間ということであの国からやって来たが、この様にこの国で長い年月を経てしまった。それでも自分の心のままにならず、お暇申し上げる」という。」


 ちょっと整理しましょう。

 

 かぐや姫は「自分はこの国の人ではなく月の都の人……」と言っています。つまりここで突然、実はかぐや姫は宇宙人だという設定が登場しているわけです。この「突然現れた謎の美少女の正体が実は宇宙人だった」という設定は2016年の現在でも大人気ですね。


 同時にかぐや姫は自分が月の民であることを急に思い出しています。これはなろうテンプレでいう「私はかぐや姫、実は前世の記憶がある」というやつである。なろうでは特に乙女ゲームモノにおいて主人公の女子高生が急に前世の記憶を思い出すことがありますが、思いっきりそれですね。


 もうなろうテンプレのオンパレードです! まるで現代のなろう作家が過去にタイムスリップして書いたのではないかと思えるほどテンプレに沿っていますね!


そしてついにかぐや姫が月に連れて帰られてしまう日がやってきました。


「そして子の刻(真夜中頃)、家の周りが昼の明るさよりも光った。大空から人が雲に乗って降りて来て、地面から五尺(約1.5メートル)くらい上った所に立ち並んでいる。 内外の人々の心は、得体が知れない存在に襲われるようで、戦い合おうという気もなかった。何とか心を奮って弓矢を構えようとしても、手に力も無くなって萎えてしまった。気丈な者が堪えて射ようとしたが矢はあらぬ方へ飛んでいき、ただ茫然とお互い見つめ合っている。 王と思われる人が「造麻呂、出て参れ」と言うと、猛々しかった造麻呂も、何か酔ったような心地になって、うつ伏せにひれ伏している。」


 え、なに? 魔法? 超能力? もうここまでチートを見せつけられると、逆にすんなり受け入れてしまいますね。多少疑問を抱いても「まぁ異世界だし仕方ないか」と納得させる力を感じさせます。これもなろうテンプレの一種「多少疑問に思ってもそういうものだと受け容れろ」ですね。


 この後かぐや姫は月に帰り、帝はかぐや姫からの置き土産の手紙と不死の薬を駿河の山で焼きました。「不死の薬を焼いた山」ということでその山は「富士山(不死山)」と呼ばれるようになった、でお終いです。


 いかがだったでしょうか? かぐや姫がいかになろうテンプレに沿っているかお分かりいただけたと思います。


 逆に言えば現代でも通用するテンプレ(我々が面白いと思う構成)というものは遥か昔平安時代以前に確立していたということになります。


 しかし「宇宙人、美少女、ハーレム、チート」とか、日本人って考えること変わってないですよね。遥か昔のそんな人のDNAを、現代の私たちも受け継いで、異世界転生チーレムを書いているわけですね。


 なろうテンプレは叩かれることもありますが、竹取物語から物語の歴史を見ていくと、むしろごく自然に行きつくべきものだったのではないでしょうか? なろうテンプレを叩いている人がいたら「お前それ竹取物語の前でも同じこと言えんの?」と言ってやりましょう。

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