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シルビアの絆  作者: 180sx
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Episode 00

車好きでこんなのを書いてしまいました。

車の知識もそこまでないのですが、完全自己満足の小説ですので暖かい目でみていただけるとありがたいです。

 月夜が水面に映る真夜中、

 俺は毎年、妹が残した車でこの場所に来る。

 3年前のクリスマスイブ、妹の恵はこの場所で死んだ。

 水平線の綺麗な海辺の道、そこにあるガードレールには生々しい事故の後がいまだに残っている。


 恵が好きだったラナンキュラスの花束を置き、胸ポケットにあるセブンスターを取り出し、ソッと火をつけ、口からフゥ……と煙を吐き出す。

 ガードレールにもたれかかるとギシギシという音が静かな冬の夜の、凍えるように澄んだ空気の中で鳴り響いた。

 ふと顔をあげると、堤防の上に黒髪の少女が凛とした佇まいで空を眺めていた。


 その姿は男性はもちろん女性が見ても見惚れてしまうような、美しい佇まいだ。

 そんな姿を一目見ると、また視線を下げタバコを一口吸うと、煙を吐き出した。


「……今年も来たんだね」


「……命日だからな」



 ポケットに手を突っ込み、ぶっきらぼうに答える俺を背に、少女はじっと夜空を眺めていた。


「花束……可愛いね」


「……」


「高かったでしょ?」


 消えかけのタバコを一口吸うと、地面に落とし靴で火を消した。


 そして、2本目を口にくわえる。


「…大した額じゃない」


 そう答えて俺はもう2本目に火をソッと灯した。

 恵の好きだった花束、恵が死んだあの夜も俺は滅多に行かない花屋で目つきの悪い俺のような男に似合わない、鮮やかな色をしたラナンキュラスの花束を携えていた。


 恵はこの花束を見ているときだけは本当に嬉しそうな顔をする。

 俺はそんな恵の顔が大好きだった。そんな顔を見るためだけに毎年花屋を訪れていた。

 本当ならその日も恵の笑顔を見ることができた。


 だがそんな俺の、ほんの小さな幸せすら神様は許してくれなかった。

 恵は帰ってこなかったんだ。2度と。


「……俺は今、生きている人間の顔をしているか?」


「……してない」


 少女は小さな声で呟いた。

 目も合わせず放ったその言葉はとても、何よりも重く感じた。


「……フッ、だろうな。 毎朝鏡で自分の顔を見るたびに吐き気がしてきやがる……嫌気すら差してくるさ」


 そうだ。

 恵が死んだあの夜、俺も死んだ。

 死んだも同然だった。

 親の顔も知らない俺たち兄妹にとって、兄である俺と妹である恵は唯一の血縁者だった。

 どちらか片方が欠けてしまえば簡単に崩れてしまう。

 そんな不安定な、ぎこちない関係を俺たちは二人で必死に守ってきた。


 だがその片方が欠けてしまった。

 ならもう俺はこの世に存在しない。

 "影"なんだ。

 実体のない"影"


 この広い世界でたった一人の妹すら守れなかった。

 そんな俺にもう、


「居場所なんて………」


 居場所なんてない。

 影は光に照らされて初めて姿を現す。

 俺が"影"なら恵は"光"だった。

 光を失った影は闇に消える。

 それが自然の摂理なんだ。

 今の俺は光を失った"影"

 そんな俺にある居場所は闇。

 即ち、この世界での"死"だった。


「あるよ」


 俺はタバコを落としてしまうほどの勢いで顔を上げた。

 そして少女は堤防から飛び降りると俺の顔をみてそう言った。

 その顔は何十年もみてきた、生涯忘れることのない大好きな笑顔が俺を見つめていた。


「恵……」


「居場所がなければ見つければいいんだ……お兄ちゃんにはまだその体があるじゃない……」


 恵はそっと、俺の頬に手をあてる。

 その小さな、柔らかい手のひらには涙が流れていた。

 俺は泣いていた。

 こんな小さな手のひらすら俺は守らなかった。

 そう考えると、堪えていた涙が止まらなかった。


「だからもう……ここに来る必要はないんだよ……」


「……」


「毎年毎年……そんな顔でこられると……私だって……辛いよ……」


「そう…だよな…」


 気づけば恵の頬にも一筋の涙が流れていた。

 そんな恵の頬をソッと拭う。


「俺はまだ……生きていていいのか……?」


 恵が死んでからずっと考えていた疑問をぶつけた。

 ぶつけられずにはいられなかった。

 恵はそんな問いに一呼吸も置かずに答える。

 ずっと俺が待ち望んでいた答えだった。


「当たり前だよ……生きていて……光を失わないで……」



「そう……か……」


 俺は小さな体を力一杯抱きしめた。

 その温もりは、ガキの頃にリビングで寝てしまった恵を二階へお姫様抱っこで運んだ時と何も変わらない、暖かい温もりだった。


「ありがとう……」


 涙が止まらなかった。

 水面に映し出された月は、いつか二人でみた月の光と何ら変わりない光で俺たちを包んでいた。


 しばらく経った後、車のドアを開けて乗り込んだ。

 その時、恵は別れの言葉は言わなかった。

 またねとも、バイバイとも。


 鍵を回してエンジンをかける。

 帰り際、バックミラーを俺はみた。


 堤防には誰もおらず、月明かりに照らされた道路が美しく照らされているだけだった。


 クリスマスイブの月夜、恵がずっと乗っていた愛車、"日産シルビアS13"の排気音が、静かな堤防の夜を駆け抜けていった。

初心者のため、駄文ではありますが、なにがアドバンスなどありましたら是非ご教授願います。

辛口でも全然ウェルカムです!

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