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『皇帝』制作、部品加工

 さて突然だけど、『ものづくり』は大きく分けて4つの工程に分けられる。


 1.企画フェイズ

 2.設計フェイズ

 3.試作フェイズ

 4.量産フェイズ


 の、4つが基本の四柱となる。もちろんこれは『人型ロボットづくり』でも例外はない。今僕たちは、1、2番の企画と設計は終わっているから3番の『試作』に該当する項目を遂行している真っ最中だ。


「流石にあのサイズを作るとなるとなかなか大きい『創造部屋クリエイトルーム』ねー」


 と、頭に黄色のヘルメットを被り、僕の工場を見渡しているのは風見風子さんだ。迷彩の軍服に、工事現場にありそうな黄色のヘルメットとはなんだか違和感を覚える服装だけど、実際上から物が落ちてくる事もあるからヘルメットはバカに出来ない。


 そして彼女のポニーテールは頭の上でお団子のように丸めてもらっている。これは加工機械を使う上で大切な安全策だ。髪の毛のようなヒラヒラしたものがあると、回転軸に巻き込まれて大事故に繋がってしまう。


 まぁこの工場に回転機械なんてないから、全くもって必要のない対策だけど! 強いて言うなら気分の問題と僕の趣味だね。

 やっぱり風見さんのお団子姿は可愛らしいし。


 僕の工場は基地の真横に隣接しており、広さは約2000㎡で、小学校のグラウンドほどの広さを持つ。その一角には『創造機械クリエイトマシーン』と呼ばれる、このゲーム特有の機械が鎮座している。見た目は異常に大きいプレス機の様なもので、材料と図面をセットするとまるで3Dプリンターのように部品が形成されていく。

 そして完成した部品はベルトコンベアに乗せられて次の組立工程へと自動搬送される。

 この工場は全て外注で作ってもらったけれど、流石にこの工場の設備投資にかかった費用は考えるだけで頭を抱えたくなる程だ。

 

 そんな僕の自慢の工場を感心した目で眺める風見さんは、何となく嬉しそうに口を開いた。


「じゃあボチボチ始めましょうか」

「そうだね」


 もちろん試作には設計者が立ち会う。流石に量産体制まで整うと、もう設計者はいい意味でお役御免となるのだけれど、今は必要だ。


 試作なんて不具合が付き物なもの。『桜』だって試作に相当の時間を必要としたんだ。今回は風見さんという強力な助っ人がいるからいいものの、『桜』は本当に大変だった。


「じゃあ今日は『皇帝』の右足パーツの製造ね。まず図面の459番をセットしてくれるかしら」


 僕は『創造機械クリエイトマシーン』のコントロールパネルの前に立ち、言われた通りに図面をセットし、図面の右下に書かれている材料の欄を確認する。

 最近はやっとこの部品図にも慣れてきたものの、初めは見方すらわからなかった。東藤さんに言われるがままに行動して、言われた通りに手を動かす。

 まぁそれでもいいんだけど、やっぱり自分が何をしてるかわかったほうが楽しいし、遣り甲斐があるってもんだね。


「風見さん、これは何の部品なの?」

「あぁそれ? それは『皇帝』の足回りのギアボックスよ。どうせその辺りは不具合が出るでしょうから、纏めて成形せずに分けてみたの」

「ふーん」


 聞きはしたものの、『ギアボックス』自体が何なのか僕にはてんで検討がつかない。うーん、やっぱり言われた事をやるのが一番かなぁ。


 ぼーっと頭を回転させつつ僕は材料のセットを完了させる。まぁセットと言っても倉庫内にある材料を登録するだけだけどね。


「よし。じゃあ動かすよー」

「おっけー」


 と、言いつつ赤いボタンを押すと、それまで静かだった『創造機械クリエイトマシーン』は突如唸り声を上げて作動し始めた。


 まずは何もない空間を押し潰すかのように、無数の平板を備え付けたアームと、細い管のような物がたくさん降りてくる。東藤さん曰く、細管から材料が射出されて、あの平板から発せられる特殊な電磁波により化学的に材料同士を接合させる。そして層を積み上げるように目的の形状を成形していくのだとかどうとか。


 管の尖端のから材料が噴き出され、それに合わせて複数の平板が様々な角度から謎の電気を発生させつつゆっくりとそれらを上昇させていく。


 一応防護柵で囲ってあるため、その溢れでる紫電が僕たちまで届く事はないけれど、何となく怖いので僕は毎回離れるようにしている。


 テクテクと風見さんの横までいくと、彼女は動作中の『創造機械クリエイトマシーン』から目を放すことなく口を開いた。


「で? 結局『桜改』の歩行テストするんでしょ? そっちの首尾はどうなってるの?」

「え? あぁ。うん。そっちは東藤さんと弓佳ちゃんが担当してるよ。準備が整ったら無線で呼んでくれるってさ」


 結局人型ロボットを歩行させたければテストをしなければならない。いくら『桜改』が歩行は出来ないとわかっていても、巨大な人型ロボットを歩かせて始めてわかることもあるのだ。

 まぁ中途半端に作った『桜改』も勿体無いし、折角だから歩かせてみようって事だね。どうせ通らなきゃならない道だし。


 そして『ギアボックス』なる部品が成形されていくのをぼーっと見つめながら、僕は小さくため息をついた。

 要するにこの工程を図面の数だけ繰り返すのだ。しかもどうせ不具合が出ることを考えると、さらに数は増えていく。

 そして部品を作り終えると次は組立だ。またその工程にも気が遠くなるような作業量が待っているのだ。

 そうして苦労して『皇帝』が出来たとしても、ひょっとすると一瞬で崩れ去る可能性だってあるのだ。過去に何度だってその経験はあるし。


 ロボットアニメでは新型が物凄く短いスパンで次々と製作されている。その事実から考えると、裏方のエンジニアの努力は計り知れないものがあるのが最近身に染みるよ。

 彼らは僕らのような便利極まりない機械『創作機械』がないんだ。一から切削やら鋳造やら全ての加工を行っているんだ。


 基本的にああいうロボットアニメではパイロットが『凄い人』という風に描かれるが、今この場をもって言わせてもらおう。どう考えても一番凄いのは『エンジニア』だ。と。




ーーーーー




『もしもし、こちら東藤です。『桜改』歩行実験の準備が整いました。適当にキリがついたら、実験所まで来てください』


 風見さん監修の下、次々と部品を作り上げていると工場に東藤さんの声が響き渡った。

 

 

 


 









 この9話の『実はエンジニアが一番凄い』という事がこの作品で一番言いたかった事です。それをこの作品を通して少しでもわかってもらえればいいな、と思います。

 どうしてもふぇありーが目立つので奴が凄いと思う方もいらっしゃると思いますが、この作品で一番凄いのは東藤です。圧倒的東藤です。ふぇありーなんて後ろに目が付いているだけのただの引きこもりです。

 


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