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『悠久機プロジェクト』解散


 数日後。僕は一人で『工場』に籠り、残された注文を片付けるために『皇帝改』を作っていた。

 これまで賑わっていた『悠久機プロジェクト』は嘘のように閑散としていた。『工場』はただただ機械が動き回る音が空しく響き渡っている。


 悲しいのか嬉しいのかまだ『皇帝改』の注文は来る。『風見鶏騎士団』が『風見ティーガーⅠ』を売り始めたらしく、皮肉にもその宣伝効果のお陰で『皇帝』の注文が止まらないのだ。


 また時を同じくして、彼らは『拠点迫撃用二足歩行戦車』の実用化を発表。それは言わば『風見ティーガーⅠ』をダウンサイジングした実用向けの機体で、これまでの戦車が入れなかったような場所で運用するらしい。

 高山地域や、山の中まで侵入し、ピンポイントで迫撃。そしてお得意の『エリクサー加速装置』で早期離脱し、また別地点から砲撃する、というコンセプトだそうだ。


 本来『兵器』というのはその使用目的ありきでその開発が行われる。そのため『巨大人型』という手段から目的を探している『悠久機』は既に兵器として破綻している。それに対して『風見鶏製二足歩行戦車』は踏破性能を戦車に付加するという目的のために『人型』という方式をとっている。

 つまり『兵器』として正しい開発の手順を踏んでいるのだ。実用性が認められ、普及するにせよしないにせよ、前提の時点で『悠久機プロジェクト』は負けている。


 つまり、既にエンターテイメントとして確立しつつある『悠久機』シリーズとは異なる実用的な兵器を、僕たちの技術を応用することで開発したという事実は、僕にも劣等感の種を植え付けるような気がしたってこと。



 そして、僕は機械が動く様子を悲しげに見つめながら鉄菊さんを思いだし、小さくため息をつく。


 結局、全ては鉄菊さんの仕業だった。

 弓佳ちゃんが鉄菊さんに接触した時点で、風太さんは鉄菊さんを懐柔し、僕たちへのスパイとして送り込んでいた。

 あの戦闘前の風太さんからの通信は、僕たちは風見さんへの意思確認だと思っていたが、実はそうではなく鉄菊さんへの最終確認だったらしい。確かに言われてみれば鉄菊さんが突然僕と風太さんの会話に割り込んで来たのは事実だ。

 そして、結果的に僕たちはまんまと情報を全て敵方に送られてしまっていた。


 彼がとった戦法は確かに卑怯、だ。大きな声を上げて『お前は卑怯だ』と後ろ指を指したい気分にもなる。だけどそんなことをしたって僕たちに何の得もない。

 非公式な、身内戦の延長のような試合で『風見鶏騎士団』に卑怯な手を使われて負けましたと言ったところで何の解決にもならないからだ。


 彼はそれを見越した上でこの作戦をとってきたと思うと、腹立たしいと共に悔しさが込み上げてくる。


 また、鉄菊さんを『悠久機プロジェクト』に誘った弓佳ちゃんは責任を感じてチームを一時離脱。同様に東藤さんも鉄菊さんの小細工に気づけなかった事に責任を感じて同様に一時離脱した。


 もちろん風見さんも『約束』通り『風見鶏騎士団』に帰還。



 僕はまた一人になってしまったのだ。

 僕は過去の栄光にすがり、たった一人でこの広い『基地』で作業するより他にない。


 昔に逆戻りしてしまった。いや、ある意味あの頃よりも状況は酷いのかもしれない。

 そしてそんな絶望的な僕に拍車をかけるように、また『あの人』がやって来た。


 僕の目の前には転移を現す光の粒が巻き起こり、誰かがログインしたことを表している。

 そして光の中からは、纏う粒子が眩しい人が現れたのだった。


「……また来たの」


「そんな顔しないでくださいよぉー、ふぇありーせんばーい!」


 

 それは僕をこの絶望に叩き落とした張本人、『鉄菊鉄子』さんだった。

 






ーーーーーーーー






「ねぇ、もう来ないでって言ったよね? 君がこの状況を作ったんだよ?」

「やだなー先輩。この状況を作ったのは風太さんですよ? 私のせいじゃないでーす!」


 あれからあろうことか鉄菊さんだけは欠かすことなく『悠久機プロジェクト』、いや僕の基地に顔を出していた。


「みーんないなくなっちゃいましたねぇ」

「……主に君のせいだよ」

「違いますって! 風太さんのせいですよ? それに皆さんがふぇありーさんを見限っても、私はあなたを一人になんてしませんよ?」


 真摯な瞳で彼女は僕を覗き込んでくる。

 言っている言葉はどこまでも殊勝なものだが、全く信頼することのできない胡散臭い目だ。そんなこと今更言われても信じられる訳がない。


「ま、私が今も追い出されてない時点で、ふぇありーさんが悪いんですけどね」

「……っ! 僕は!」


 ニコリと鉄菊さんは微笑んだ。

 そう、確かにここは僕の『世界ワールド』だから、彼女をアクセス禁止にすることなんて簡単だ。でも実際僕はそれをしていない。

 理由はわからない。気分が乗らないから。


 いや、単純に本当に一人になるのが怖いんだ。口では来るなと言ってるけど、本当は……。


「くすっ。ふぇありー先輩は本当にかわいいですねぇ」

「もう、ほっといてよ」

「そういう訳にもいかないですよ?」

「何でだよ! 僕は、僕は負けたんだ! あれだけ息巻いておいて、結局僕は……」


 そう。僕は負けた。

 確かに風見風太さんが用いた戦法は、決して『正々堂々』と言えたものではなかったかも知れない。でもそんなことは関係ない。

 『卑怯者』なんてのは僕の言い訳だ。僕は負けたんだから。



「そうですねぇ。まぁ確かにふぇありーさんは負けました。ですが、それが何か? 早く次の『悠久機』を作りましょう?」

「はぁ!? 皆もいないのにどうやって!? 僕だけで作れるわけないじゃないか! しかも君がいるような所でで作るわけないよ!」


 しかし、僕の叫びもまるで気にした様子もなく鉄菊さんはいけしゃあしゃあと言った。罪悪感の欠片もないその笑顔は本当に心から次の『悠久機』を作りたがっているように見える。


「やだなぁ。もう裏切ったりはしませんよ。私だって本当に心が痛かったんですから」

「……なっ! ど、どの口が……」

「いやぁ本当は風太さんとの約束を守ったら大学受験は心配しなくていいって言われたから軽い気持ちで受けたんですけどぉ、まさか『悠久機』がここまで素敵だとは思いませんでしたからねぇ」


 と、彼女は恍惚な表情で『皇帝改』を見上げながら言った。その視線はまるでアイドルに対して浮かべるかのような熱量を持っている。

 でもそんなの信じられない。今更、そんなこと今更言われても信じられる訳がない。


「……? どういうこと?」

「ですからぁ、ずっと言ってるでしょ? 私は本当に『悠久機』に惚れ込んでいるんですよ。だから、もう『約束』を果たした今、私が『悠久機プロジェクト』に敵対する理由なんてないんです」

「……」


 わからない。僕にはこの子が何を考えているのかわからない。

 敵なのか味方なのか。まだ『風見鶏騎士団』のスパイなのかそうでないのか。


 でも、何となくだけど、『悠久機』が好きなのは本当のような気がした。


 ……いや。僕がそう思いたがっているだけなのかも知れないけど。


 そして疑心暗鬼な僕を眺めながら、残念そうに鉄菊さんは肩をすくめた。


「それに、他の先輩達がいないと新兵器の開発なんて出来ないって言いましたけど、そんなの何とでもなりますよぉ? 『土竜』の制御システムと『風見砲』を弄ったのは誰か忘れたんですかぁ?」

「いや、それはそうかも知れないけど……」

「まぁ、もちっと勉強しなきゃダメですけど……」


 確かに鉄菊さんがいれば新規『悠久機』の製造は可能かもしれない。だけどそれとこれとは話は別だ。

 そうやってもし鉄菊さんに頼って『悠久機』を作ったって、僕にとっては意味がない。


「じゃあどうするんですか? このまま泣き寝入りするんですか?」

「……」

「はぁー。ふぇありーさーん、しっかりしてくださいよぉ。もうあなたしかいないんですよぉ?」

「……僕は」

「そんなんだから、まんまと私と風太さんにつけこまれるんですよ」

「……僕だって」

「いつもいつもウジウジして。それでも『閃光の妖精』ですかぁ?」


 僕の顔を覗き込みながら鉄菊さんは残念そうに言った。


 その瞬間、まるで燃え上がるような何かが僕の中で巻き起こった。過去に感じたことの内容な形容し難い感情。

 『怒り』という僕にとって錆び付いた激情が心をあっという間に支配し、まるで螺旋を描くように僕の中を駆けずり回っている。

 そして、次の瞬間僕は自分でも驚くような声を出していた。



「そんなこと君に言われなくてもわかってるよ! そもそも君にだけは言われたくないんだ! 僕が、僕がどんな気持ちで戦ったか知りもしないくせに!」


 僕が言うと、彼女は少し驚いたような顔をしたあと笑顔を浮かべた。



「僕だってこのまま終わるつもりなんかないよ! そうさ! わかってるよ! 僕が取り戻してみせる。僕が、僕が全て取り戻す!」

「……あはっ! そうですよねぇ。……ふぇありー先輩はそうじゃないと」


 そこまで僕が言うと、彼女は嬉しそうに両手を胸の前で組んだ。




 


 






このペースでだらだら更新してる作品も珍しいと思います。

ふぇありーを苦しめる事を第一に考えていたら何だか少しかわいそうな気がしてきました笑

頑張れふぇありー! 頑張れば報われる日が来るかも知れない。

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