そして……
光の粒が舞うように僕の回りを取り囲む。
これは転移の証。『ゲームオーバー』となった僕は、自分の本拠地へと転送され、復活する。
徐々に世界が形成される感覚。もう何度目かわからない気持ちの悪い浮遊感だ。そして本部で僕の吉報を待っていた人たちの姿がハッキリとしてくる。
僕は、みんなの待つ『ブリーフィングルーム』に帰ってきた。
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『風見鶏騎士団』との戦いの後、すなわち僕が敗戦して『ブリーフィングルーム』に戻ってくると、みんなが悲痛な面持ちで僕を待ち構えていた。
「……ふぇありー」
「……ごめんなさい風見さん。僕が……僕が……僕がもっと」
風見さんが辛そうな表情で僕を覗き込んでくる。でも僕は彼女に合わせる顔がない。あれだけ固く『約束』したのに、それなのに、それなのに僕はおめおめと負けて帰ってきてしまったんだ。
どうすることのできない悔しさが僕の心を支配する。なんで僕は。なんで僕はこんなにも情けないんだろう。
そしてそれと同時に風太さんの人をバカにしたような声と笑顔が脳内に張り付いたように浮かび上がってくる。
「なんで! なんで僕はもっと……」
余りの悔しさに涙がこぼれそうになるのを必死に堪える。僕の無力が風見さんを苦しめるんだ。僕なら救えたのに。僕が勝てば、風見さんの『劣等感』は取り払えたのに……。
そんな僕にみんな声をかけられないようで、暗い雰囲気が僕たちを包んでいた。
が、見かねたのか鉄菊さんが変に明るい様子で僕に声をかけてくる。
「ふぇありー先輩。敵ばかりだけじゃなくて、もっと中にも目を向けないとだめですよぉ?」
「……は? 鉄菊さん、それは一体どういう……?」
少し顔を上げて辺りを見渡してみると、皆の表情が見えてくる。無表情な鉄菊さんに、少し悲しそうな風見さん。
だけど、何故か東藤さんと弓佳ちゃんは少し怒っているような、悲しんでいるような複雑な顔をしていた。
「……そういえば、『土竜』に原因がわからない不具合がいくつも発生したんだけど、あれは一体なんだったの?」
「……だから、敵ばかりじゃなくて中も見ないといけないって言ってるじゃないですかぁ」
「は? だからそれはどういう……」
「言葉の通りの意味ですよふぇありーさん……」
東藤さんが苦虫を噛み潰したような表情で僕に語りかける。
なんだ? 一体どういう意味だ?
困惑した僕に優しく語りかけるように、風見さんが口を開いた。
「いい? 今回はふぇありーは悪くないわ。やっぱり『風見風太』は化け物だったって話よ。確かに今回、アイツは予想外の手を使ってきたわ。それだけあなたを警戒してたのよ」
「……? どういう事?」
「ここまで言ってもわからないんですかぁ? ふぇありー先輩?」
鉄菊さんは胸元で手を合わせて、眩しい笑顔を浮かべる。意味がわからない。みんな何が言いたいんだ? なんでそんな辛そうな顔をしてるんだ?
「じゃあヒントをあげますよぉ。一つ目! 始め、風太さんはどうやって『土竜』の位置を知って砲撃してきたのでしょーか!」
「……? 監視カメラでしょ? 多分試合開始と同時にあれを設置して……」
と、ここで僕が自分で言っている事に矛盾があることに気が付いた。
彼は一体どうやって監視カメラをあんな所に設置したんだ? あんな所に設置する以上、無線で管理する監視カメラのはずだ。それを一人で何台も設置したのか? 機動兵器を操作しながら?
「そうですよねぇ。あんな所に一人で無線のカメラを設置するなんて無茶ですよねぇ。まぁ、それがハリボテの偽物でもない限り、ですけど」
まるで鉄菊さんは僕の心を読んだように、言葉を勝手に続けていく。偽物? あの監視カメラが偽物だった? なんでわざわざそんなことを?
あのカメラが偽物だったとすると、じゃあ敵はどうやって僕の位置をあれほど正確に掴んで……?
そして僕の心情を無視するかのように、鉄菊さんが指を二本立てて話を続ける。
「では二つ目のヒントですよぉ! なぜ『風見砲』は使えなかったのでしょう?」
「……故障したから」
「ぶっぶー! 不正解でーす!」
鉄菊さんは手を胸元でクロスし、大きく僕の回答が不正解だと示す。
は? 故障してなかった? 確かにコックピットの計器上では故障の合図はなかったけど……。いや、でも実際に『風見砲』は動かなかったんだ。ならあれは故障のはずだ。
「では最後のヒントです。……なぜ勝手に『土竜』は倒れたのでしょう?」
「……それも故障で……」
「ぶっぶー!」
と、元気よく答える鉄菊さん。
なんだか嫌な予感が僕の背中に走っていく。もしあの原因不明の転倒が鉄菊さんの言う通り故障じゃなかったとして、なんでこの子はそれを知ってるんだ? しかもこんな自信に満ち溢れたように……。
「まだわかりませんか? 『卑怯、汚いは敗者が使う言葉』だそうなので、私的にはふぇありーさんに使ってほしくはないんですが……」
「ま、まさか……」
その言葉『卑怯、汚いは敗者が使う言葉』は風太さんが最後に僕に言った言葉だ。でもそれは、風見風太さん自身の言葉ではなくて。
それは僕が以前ここにいる皆に向けて言った言葉だ。それが意味するところは。
……ここにいる誰かが『風太さん』にその言葉を伝えたってこと。
すると、様々な事が辻褄が合う。
「そ、そんな……嘘だ……。嘘だ!」
「そんな風に取り乱す先輩、嫌いじゃないですよ?」
あのカメラが偽物でも関係ない。だって『悠久機プロジェクト』の内部から敵に情報を漏えいすれば、機体の位置なんて簡単に掴めるから。
故障してない主砲が撃てなかったのも当然だ。だって始まる前に主砲のトリガーを司る電線を切っておけばいいだけだから。
『土竜』が突然倒れたのも当たり前だ。だってあの『制御システム』を知っていれば、機体を暴走させるのなんて簡単なのだから。
そんな事ができるのは一人しかいない。その張り付くような笑顔の裏に、どれ程の思惑を隠していたのか。
「まさか、まさか、君は……」
そして『彼女』、鉄菊鉄子さんは心の底から残念そうに息を吐いた。
「ふぇありー先輩? すいません。私は『風見風太』さんのスパイだったんですよぉ」
僕は目の前が真っ暗になったような気がした。
「は? な、なんで君が……? いや、う、嘘だよ。だって試合前に僕の代わりにあんな風に意気込んでくれたよね……?」
「え? あぁ、あの風太さんの確認のことですか? あれは、貴方達じゃなくて私に向けて聞いてきたんですよ?」
「……え?」
「ですから、あの試合前の通信は私への最終確認だったんですよ。私が『悠久機』に心酔してるって情報をどこかから仕入れてきたみたいですね。全く、怖い人です」
僕は少しずつ鉄菊さんからもたらされる情報に戸惑いながらも、必死に整理する。
「ふ、ふざけるな! そんなわけ、僕は、僕はそんなの認め……」
「あなたが認めようが認めまいが、これは事実なんですよぉ」
頭が真っ白になりそうになるのを必死で堪えながら、僕は頭を働かせる。
もしこの話が本当で、鉄菊さんが裏切り者だったとして。一体このワナはどこから仕組まれていたんだ? いつの間に鉄菊さんは敵方に回っていたんだ?
いや、違う。……答えは、始めから、だ。
僕たちが鉄菊さんと出会う、いや、ひょっとするともっと前からこの計画は風太さんの中では進行していたのかも知れない。
それならば彼のあの異様な自信にも頷ける。彼には絶対に勝つ根拠を既に僕たちの懐に忍び込ませていたんだ。
「……ふぇありー。ごめんなさい。あたしが何も考えずにてっちゃんを誘ったから……!!」
「……いや、弓佳ちゃんは悪くないよ」
弓佳ちゃんが過去見たことないような悲痛な表情をしていた。そのつぶらな瞳には涙を浮かべ、悔しそうに唇を噛みしめている。
「そうです。弓佳さんは悪くありません。悪いのはてっちゃんさんの細工に気が付かなかった私です」
「東藤さんまで……そんなこと! 君たちは悪くないよ! 悪いのは僕と……」
鉄菊さんだ。って言葉を僕は呑み込むしかなかった。
ここで僕が鉄菊さんを罵ったところで、それは所詮負け犬の遠吠えにしか過ぎない。『悠久機プロジェクト』を貶める行為にしかならないから。
そして悲しそうに僕たちを見つめていた風見さんが、小さな声で口を開いた。
「……いや、誰が悪いとか悪くないとかじゃないわ。『風見風太』の方が一枚も二枚も上手だった。……ただそれだけの話よ」
風見さんの言葉はまるで突き刺さる様に、僕の心に飛び込んできた。
僕たちは踊らされていたのだ。風見風太の手の中で。
それは屈辱的だけど認めるしかない事実で。
もう、風見さんは『悠久機プロジェクト』にはいられないという宣言で。
風見さんがいなくなる。
まるで奈落の底に落ちていくかのような絶望に僕は為すすべもなく流されていくことしかできなかった。




