敵の真の思惑
『じゃあ次はこれだ。さて、どう避ける?』
続いて敵は元々腕だったガトリングを僕の機体へと向けた。そしてそれが発射のために回転を始めたタイミングで、僕はビルに完全に機体を隠した。
すると次の瞬間、建物をえぐりとるような音と共に、弾丸の雨が降り注ぐ。建物を貫通するかのような射撃に僕は思わず身をすくめるが、即座に気を取り直し、反撃のために僕の武器を起動する。
ガトリングを持ってるのはそっちだけじゃないんだ。そんな射線が通る位置でずっと弾を発射し続けるなんて愚の骨頂。これだから初心者は甘い。
そして僕は『土竜』の武装の一つである『風見ガトリング』をいつでも撃てるように、発射体勢を整えた。
敵の弾幕の切れ目が僕の反撃の時だ。僕を、いや僕たちを見くびった罪、敵の機動兵器に風穴を空けることで返してやる!!
そして次第に弾丸の雨が弱まっていく。僕は飛び散ったビルの残骸を踏まないように気を付けながら一気にその影から身を乗り出した。
コックピットは激しく上下し、それにともなってモニターも揺れる。だけど僕は目を見開いて敵へと照準を向ける。
「『風見ガトリング』発射体勢!!」
そして僕は『土竜』の体をビルに隠しながら、敵に向かってガトリングを掃射した。『土竜』の左腕からは射撃の際に発生する振動がコックピットまで伝わってくる。
掃射すること数秒。敵はそのまま後退を始める。
それにしても多少改善されたとはいえ、酷い命中精度だ。この距離でこの命中率は本当にどうしようもない。
敵に当たってはいるけど、狙いたい箇所には殆ど当たらない。敵機の腕や肩やら比較的重要度の低い場所に着弾するか、かすっているかのどっちかだ。
いやこの兵装使えないにもほどがある。『風見砲』と違って気軽に使えるのは便利なんだけど、あれほど大きな的に対してこの程度の命中精度なんて武器として意味をあまりなしていない。
次回の『悠久機』で廃止か改善を提案しよう。
『ふむ。これはお互い兵器に改善の余地があるみたいだね』
「そうみたいですね」
敵のガトリングも口径から推測すると、ビルを薙ぎ倒して僕に直接攻撃を当てることなんて造作もないはずだ。にも関わらず『土竜』に攻撃が当たってないってことはそれほど酷い命中精度だったのだろう。
続いて僕は機体をビルの影から半歩ほど身を乗り出させた。使う武装は新兵器『風見ハイドラ』だ。
これは所謂『無反動砲』だ。推進材を反対側に噴射することで、反動を殺す兵器。威力は『風見砲』に比べると落ちてしまうが、機体自体に影響が少ないというメリットがある。
「『風見ハイドラ』、発射!」
そして推進材を射出する音と共に、左腰にマウントされた無反動砲が三発、的に向かって飛び出していく。
が、目標に対して僅かに左に逸れた位置に着弾した。
「ちっ! どこ狙ってるだよ!」
僕は命中率のすべからく低い武装に悪態をつきながら、『土竜』を前進させる。
今度の狙いは右腰にマウントされた『風見ハイドラ』。左側を発射した際のズレを補正しつつ、僕は敵機に狙いを定めた。
「これで終わりだ! 落ちてください!」
『ちっ!』
僕が『風見ハイドラ』発射ボタンに手をかけた瞬間、敵機から微かに赤い粒子が巻き起こった。それは僕たちがよく知っている粒子で、可能性の一つとして認識しておかなければならなかった敵の武装だ。
そして次の瞬間、まるで敵の機動兵器が跳び跳ねるように横に移動した。
「なっ!?」
跳躍に近い挙動で敵機が移動した為、もちろん『風見ハイドラ』は虚空を切り裂くだけに終わり、ビルの残骸を吹き飛ばした。
……嘘でしょ? あれほどの加速をあの質量で実現するなんて。
『……おえ。あまり乗り心地の良いものではないね。これは』
一気に射線から退いた風太さんからそんな通信が届く。
あの速度で移動したならば、それこそコックピットはミキサー化しているだろう。
『エリクサー加速走行』。あれは『風見鶏騎士団』が戦車に採用している加速装置だ。まさか機動兵器に適用してくるとは夢にも思わなかったが、実用してる時点で流石だと言わざるを得ないか。
『じゃあ次はこっちの番だ』
そして敵は履帯を動かして今度は頭部に備え付けられた戦車砲を僕に向けてきた。あれは先程使っているはずだけど、僕たちのそれと違って、やっぱり撃てるのか。
『土竜』は『風見ハイドラ』を撃つ為に射線上に体を晒している。このままでは敵機に撃ち抜かれるのも時間の問題だろう。
ならばとりうる方法は2つ。敵に背を向けてビルの影に隠れるか、それとも前に出るか。
迷ってる暇なんてないな。
そして僕は再び『風見ガトリング』を敵に向かって撃ちながら、前に進んでいく。
牽制にしかならない攻撃だけど、機動兵器にとっては十分だ。
『ちぃ! 鬱陶しい! 『閃光の妖精』! 終わりだ吹き飛べ!!』
「くっ!!! まだまだぁ!」
次の瞬間、僕は即座に『風見ガトリング』を切り離しつつ、急制動をかけつつ姿勢を落とす。
そして続いて起こる、まるで天地がひっくり返ったかのような衝撃。僕はそれに耐えつつ、即座にモニターに映る情報に目を走らせる。
機体の状態は!? 被弾箇所は!?
姿勢を落とした際の衝撃に目をチカチカとさせながら僕は計器に目を走らせる。
左腕に被弾形跡。だけどこの感じはたぶん砲弾の破片による障害だろう。敵主砲は少し左に逸れたようだ。
敵に撃たれながら闇雲に射撃したって当たりっこないのは僕の経験上知っていることだ。それにもうガトリングは切り離してしまったんだ。だから、これ以上左腕は使う気はない。
それより深刻なの先刻より負っているは左足の蓄積疲労だ。今の余計な回避運動によって、一気に限界近くまでダメージが来てしまった。もうこれ以上余計な動きはできない。それこそ文字通り機体の足首からもげてしまうだろう。
……だげど。もう王手だ。
「『風見砲』! 発射スタンバイ!」
敵が風見砲に装填作業を行っているのを尻目に、こちらの主砲を敵に向けた。そして機体はゆっくりと姿勢をあげ、敵の目の前に立ちふさがるように起き上がった。
こちらは未だに反動吸収機構を完成できてないから、僕たちの『風見砲』は一回しか撃てない。それに対して敵は複数撃てるだけじゃなく、さらに自動装填装置も完成しているようだ。
それに関しては流石は『風見鶏騎士団』だと褒め称えておこう。
だけど、まだ甘いな。
「……さて、風太さん。チェックメイトだ。余計な動きをしたら、貴方を僕たちの主砲で撃ち抜く」
『……ちっ。流石は『閃光の妖精』。日本ランカーの実力は『悠久機』でも健在、か』
僕は引き金に手をかけながら、風太さんに語りかける。本当はさっさと撃ってしまうに限るんだろうけど、彼には少しやってもらいたいことがある。
「いや、これは僕の力じゃないよ。単純に『悠久機』の性能のお陰だ」
『……ふん』
「……さて。じゃあ認めてもらいますか」
『は? 何をだい?』
「貴方は僕たちの、いや、風見さんが作った『悠久機』に負けたってことを」
この状況、もう勝ったと言っても過言ではないし、もし万が一、一瞬でも嫌がるような素振りを見せたら僕は引き金を引くつもりだ。
一発しか撃つことはできないが、『風見砲』の威力はお墨付きだ。この距離なら確実に敵の『風見ティーガーⅠ』とやらを吹き飛ばす事ができる。
しかし、風太さんから返ってきた反応は、僕が望んでいたものからはかけ離れていた。
『くっくっく……あっははははは!! 本当に君は僕に勝てると思っているのかい? 僕が勝つって言ってるだろう?』
「は? この状況でよく言えますね」
『くくくくく。いや、すまない。確かに君はこちらが用意した作戦をことごとく打ち破り、最終的に私の喉元にそうやってナイフを突きつけている。ならば勘違いするのも当然かも知れないね』
何をどう勘違いしたら、この状況で僕が負ける事に繋がるのか。
……ありえない。この距離で、なおかつどちらも移動してないような状況で僕が主砲を外すとも思えないし、かといってその攻撃に耐えきれるほど敵の装甲が厚いようにも見えない。
「喉元にナイフを突きつけられた状況で負け惜しみなんてみっともないですよ」
『君のそのナイフが、厚紙でできたハリボテのナイフだとしてもかい?』
だから、何をどう考えても僕の勝ちは揺るがないはずなんだけど、その風太さんの不愉快な笑い声は僕を不安に陥れる。
……まぁいい。もう終わらせよう。
「なら確かめてみましょうか、そのハリボテのナイフの切れ味ってやつを。さようなら、敵の『贋物悠久機』さん。なかなかカッコよかったですよ」
そして僕は引き金を引いた。
『さて。この状況から君はどうするのかな?』
しかし、『風見砲』は発射されなかった。
読んでくれてありがとうございます。『風見ティーガーⅠ』思ったよりガンタ○クになってしまいました。
ガンバレェェ!! 風見兄ィィィィ! ふぇありーを吹き飛ばせ!!!!




