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悠久機試作16号機『皇帝(ツァーリ)』

「ふーん。感謝……ねぇ」


 風見さんはトントンと指で音を立てながら、じとりとした張り付くような視線を僕に送ってきた。

 この話はあまり言いたくはない。僕の暗黒時代とも言える『閃光の妖精ふぇありーフラッシュ』にも繋がってくるから。僕自身、あの弓佳ちゃんとの思い出は僕の中だけにしまっておきたいから。


「う、うん」

「はぁ。私はそれに巻き込まれたって訳ね」


 そんな僕の気持ちを知ってか知らずか、風見さんは肩をすくめ、僅かな笑顔を見せた。そしてタブレットをしまいながら口を開いた。


「そ。まぁなんにせよ約束だし、一応最後まで設計するわ。まだ貴方の勧誘を諦めたわけではないし、詳しくは聞かないでおいてあげる」

「う、うん。ありがとう」

「じゃあ私行くわね。貴方の時間をこれ以上とらせちゃ申し訳ないしね」

「え、もう行っちゃうの?」

「あらー? なに? もしかして私にそばにいて欲しいの?」

「ち、ちがっ! そういうわけじゃ……」


 僕が顔を赤くしてそう言うと、風見さんはクスリと笑い席を立った。


「じゃあねー。完成楽しみにしていなさいよ!」


 そうして彼女はそれだけを言い残し、優しい薫りを振り撒きながら教室から出ていった。


 いつか、風見さんにも言えるような日が来るといいな。と、思いつつ僕は彼女の背中を見送った。

 



ーーーーーーー



 

「完成よ!!」


 と、風見さんの声が僕の『基地』に鳴り響いたのは、彼女が僕に質問しに来てから三日後の夜の事だった。

 僕は弓佳ちゃんの命令に従い、歩行実験の為に3機目の『桜改』を製作している真っ最中です。


「風見さん! 遂に完成したの!? 早くない?」


 と、僕は作業の手を止めて風見さんの方へと振り替える。すると、目の回りに大きな隈を作ったポニーテールの女の子が右手にたくさんの図面を抱えているのが目に入ってきた。

 彼女は深緑色の迷彩服にその身を包んでいて、それは僕たちの漆黒の軍服とは制服の様式が大きく異なるようだ。

 

「えぇ。しかも『桜改』の部品を流用出来るような親切設計よ」

「おぉー!」


 そして風見さんはツカツカと『ブリーフィングルーム』の中央に置いてある大きなテーブルまで歩いてくると、その上に図面を盛大に広げた。


 図面には沢山の線や文字が所狭しと並んでいて、これから僕に降りかかる膨大な作業量を予想させるには十分すぎる情報量がテーブル一杯に広がっていた。

 あはは。マジかよ勘弁してください。


 自信に満ち溢れた様子の風見さんは疲れと喜びが混じったような視線を僕に向けてきた。


「まずコンセプトとして大きな変更点は二つあるわ」

「二つ?」

「えぇ。1つ目は変形機構を導入したこと」

「変形!? ほんとに!?」


 ふっふーん。と、渾身のドヤ顔とともに、風見さんはそう言い放った。


 『変形機構』。ロボットアニメではお馴染みの機構だが、それの実装には果てしない困難を伴う。

 例えば『飛行機』というのは翼上下の空気流体の圧力差により揚力を得て空を飛ぶ、という乗り物だ。その飛行機形態に変形するとするならば、空気の圧力抵抗を考慮に入れた翼を人型に取り入れる必要がある。

 その苦労は想像するのも難しい。ていうか考えたくない。無理。


 ……本当に変形機構なんてできたのかな? しかもこの短期間に?


 そして驚きを通り越してもはや疑いの目を向ける僕を見て風見さんは嬉しそうな笑顔を見せたあと、言葉を続ける。


「さらにもう1つ。機体の作動方法を油圧式から一部をモーター駆動に、他をエリクサー式に変えたわ」

「作動方法?」

「えぇ。エネルギー伝達の方法よ。ショベルカー等の重機は油圧シリンダーを用いたエネルギー伝達機構を用いているのは知ってるわね?」

「え? うん。え?」

「だから油圧シリンダーよ。ほらショベルカーにピストンみたいなやつ付いてるでしょ? アレよアレ」


 そう言えばショベルカーの土をすくう部分の横にシリンダーっぽいのが付いていたようないなかったような。


 『桜改』の関節部にも上手く隠されているが、そういう装置は存在している。僕はアレを完全に飾りだと思っていたが、よく考えればそんなことはあり得ないのか。


 そして風見さんは続ける。

 

「実際このサイズの機械を動かしたければモーターだけじゃ力不足よ」

「まぁそこいらの重機なんて比べ物にならないくらい僕らの機体大きいしねぇ」

「だからこの機体は複数のディーゼルエンジンを動力源として、油圧式シリンダーを可動させることで機体を制御しているの。知ってるでしょ?」


 と、作ったのは貴方でしょ? とでも言いたげな視線を僕に送る風見さん。もちろん作ったのは僕だけど、実際の内容はほとんどわからない。僕は東藤さんに言われた通りに動いただけたからね!


 そして子供のような笑顔を浮かべたまま、風見さんんは言葉を続けた。


「だから東藤は油圧式を採用していたと思うんだけど、ここでは『エリクサー』を使えるからね。油の代わりに非圧縮性気体エリクサーを用いる事で軽量かつ高効率の伝達機構を作れるの。くっくっく。東藤ってばそんなことも知らないのね。基本よ基本」


 嬉しそうに笑う風見さん。こう、言っちゃあアレだけど、この子なんだか子供っぽいなぁ。東藤さんに勝てて嬉しいんだろうなぁ可愛いやつめ。


 まぁこのゲームに詳しくない東藤さんが知らないのも無理はない。というかむしろ、よく油圧式の伝達方法を調べ上げたものだ。と、褒め称えたい。


 しかしこの人は肝心な事を言っていない。一体何がどう良くなったんだろう? これで実はあんまり変わっていませんでしたー! なんて結果だったらどうしよう。


「……つまり? どんな風に変わったの?」

「つまり機体の重量が遥かに軽くなるのよ! 作動油が全てエリクサーに代えられるから、推進材(プロペラント)を流用出来るもの。そのおかげで操作性も多少向上するはずよ」

「おぉー! エリクサーって便利なんだねぇ」


 と、そこで僕が思ったことを口にすると、彼女は怪訝そうな瞳で僕を眺めてきた。

 あれ? 何か僕変なこと言った?


「いやいや全然便利じゃないわよ。貴方、一応RWはゲームなのよ? ゲームにこんな専門知識が必要な材料なんてある? 皆エリクサーが使いにくいって運営に文句言ってるの知らないの?」

「し、しらないよ」

   

 まぁそれは仕方ないんじゃないだろうか。元々『RW』は大規模シミュレーションコンピュータを流用したシステムを使っているんだ。『エリクサー』なんて物質も、現実世界では存在しない出力でもシミュレート出来ることを示すために作られた物らしいし、文句を言うのは筋違いだろう。


 僕は組立作業に入っている『桜改』をどうしよかなとうっすらと考えながら、表情豊かな風見さんを見つめていた。


 話は少し変わるが、RWで何かを作りたければ図面と材料があれば作ることが出来る。

 やり方は極めて単純で『創造機械(クリエイトマシーン)』に図面と材料をセットして『創造(クリエイト)』を行う。すると部品にもよるが基本的にあっという間に部品が出来上がる仕組みだ。


 まぁどうせ今回も金属材料が多いのだろうけど、作ろうと思えばその辺の土を拾ってきて『創造機械』にセットしても作ることが出来たりする。


 土で作られた人型ロボット。うわぉ! 乗りたくない!


「……で、一番の問題はやっぱり『材料』なのよねぇ」

「どれぐらい必要なの?」

「『桜改』よりはマシだけど、それでも重さだけ見ても100トンは必要だわ」

「基本材料は何で作るの?」

「やっぱりキリーチカ製の『RW強化セラミック複合合金』かしらねぇ。他にいい材料があればいいんだけど……」

  

 悠久機は一応『兵器』なんだ。だから、それこそ戦車はともかくとしても、歩兵の携行武装くらいは耐えられないと話にならない。しかもただでさえ巨体だ。もう被弾は前提条件として考えていた方がいい。

 となると丈夫なのは金属材料になるんだけど、いかんせん金属材料を中心にすると機体重量が増えすぎるんだよね。

 

 と、そうやって僕が風見さんの説明を受けていると突然『ブリーフィングルーム』の入り口から光の粒子が溢れだし、その中から弓佳ちゃんが笑顔で手を降りながら出てきた。

 あ、弓佳ちゃんが来たってことはもう8時か。


「やっほーふぇありー……って風子ちゃん! あー! その手にあるのは! 出来たの!? ついに出来たの!?」

「え? えぇ」

「おぉー!! 君なら出来ると信じてたよ! さっ! ふぇありー早く作って!」

「え? 『桜改』は?」


 弓佳ちゃんは目をキラキラと輝かせ、新しいおもちゃを与えられた犬のように僕と風子ちゃんの元へとやって来る。もし弓佳ちゃんに尻尾が生えていたならば、千切れんばかりに振っている事だろう。


「『桜改』? あー。そうだね。それは一旦凍結! あたしに任せて! ふぇありーは直ちに新造機体の……」


 と、あっと驚くほどのスピードで3機目の『桜改』を凍結する弓佳ちゃんだったが、僕に新たな命令を下す前に急に口をつぐんだ。

 あれ。どうしたんだろう。


「風子ちゃん。この新機体の名前って何?」

「名前? あぁ。型式番号EF-Pr-16、『皇帝(ツァーリ)』よ。『皇帝』って書いて『ツァーリ』。どう? カッコいいでしょ? 」


 それを聞いた弓佳ちゃんは飛びっきりの笑顔を浮かべた。それはまるで菊の花のように明るくて、可愛くて。

 もうこの心からの喜びを表現したような表情は見ているこちらが幸せな気持ちになるよ。


「いいよっ! やるじゃん風子ちゃん! カッコいい!」

「あ、ありがとう」

「じゃあふぇありー! 悠久機『皇帝ツァーリ』! 製造を開始して!」

「アイアイキャプテン!」 


 そうして僕の悠久機試作16号『皇帝』の製作が始まったのだった。




 








更新遅れてごめんなさい。土曜日が忙しすぎました。

ところで、この『巨大ロボットに以下略』はジャンルって何になるんでしょうか。一応『ファンタジー』タグは付けてるんですがなんだかしっくり来ません。かといって『SF』もなんだか違う気がするしなぁー。

『その他』ってのも何だか変な感じがしますし。結局『ファンタジー』なんですかねぇ。そもそも舞台も現実じゃないですし、冒険もないから『ファンタジー』タグもよく考えれば違うような。

まぁなにはともあれ読んでくれてありがとうございます。

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