風見製試作人型戦車一号機、『風見ティーガーⅠ(ファースト)』
僕は仕掛けられているかもしれない罠に注意しつつ、なるべく音を立てないように進む。といっても、どうしてもアスファルトを砕く音が起こるからもうどうしようもないんだけど。
『気を付けてくださいふぇありーさん。敵は近くにいますよ』
「うん」
こんな言い方をすると少し申し訳ないんだけど、僕は敵の『風見製人型戦車』がいったいどんなものか少し気になったりする。曲がりなりにも僕たちの機体を模倣して作られたらしいし、僕の中にある種の期待が存在していることも否定できない。
「……敵の『機動兵器』、少し楽しみだね」
『……そうですね。確かに色んな意味で楽しみ……で、ガー、す……』
そしてそんな風に僕が少し敵について思いを馳せていると、突然通信機から激しいノイズのような音が発生した。
『……はぁ!? あなた一体何をして……。ピー、ふぇ、ふぇありーさん! 敵がガー……ザザザ』
「もしもし? 東藤さん? 何かあった?」
また何か故障かな? と思い、訝しげな顔をしたけれど、次第にその音は落ち着いてきた。そして、聞き覚えのある声がスピーカーから届いてくる。
『あー、えー、てすてす。聞こえているかな?』
「なっ……!? なんであなたが……!?」
不遜な声。他人を見下しているかのような、嘲笑が混じった声音がそのスピーカーを通じて僕の耳に届く。
『おお! 無事割り込めたようだね。まずはおめでとう。まさか曲射砲をかわされるなんて思わなかったよ』
「……どうして貴方が」
風見風太。風見さんの実兄にして、今回の僕たちの敵だ。恐らく僕たちの通信網をハッキングして割り込んできているのだろう。
『どうして、って、少し聞きたいことがあるからだよ。あ、でも別に君たちの作戦を聞こう、って訳じゃないからね。そんなことしなくても勝つし。てかそもそもそっちの本部との回線切られたみたいだしね。ほんとに風子は準備がいいよ。さすがは僕の妹』
と、どこまでもその行為は当然だとでも言わんばかりにいけしゃあしゃあと話す。
なんだか鼻につく話し方だ。
だけど風見さんのおかげでこちらの作戦本部の声が届かないならどうでもいい。彼の言うことを信じるのも癪だけど、このまま通信しててもメリットはない。
「用がないなら切ります」
『あっ! ちょ! 待って! いいのかい? 切ってしまっても?』
「は? どういう意味ですか?」
僕は複雑な表情で聞き返した。もちろんこの通信自体が敵のワナの可能性もあるから、切るに越したことはないだろうけど、ひょっとすると何かしら敵の情報を得ることができるかも知れない。
『君と二人きりで少し話がしたい。それに君だって風子達と連絡がとれなくなってしまうのは困るだろう?』
「僕には話なんてないです」
『はははは。まぁそう言わないでよ。さて……』
と、彼は何となく嬉しそうに言った。
そういえば、敵はどうやって僕たちの通信を奪ったんだろう?
流石に風太さん自身が『悠久機』を操縦しながら僕たちの通信をハックしたとは考えにくいから、たぶん別動隊がいるのだろう。
数は力、とはよく言ったものだ。僕たちにはそういった小細工に余力を割く余裕なんて全くないのだから。
そして、風太さんは小さく息を吐いて少し迷ったように言った。
『……『閃光の妖精』、君は一体風子の何なんだ?』
『土竜』はその歩みを止めることはないが、僕を取り巻く時間は止まったような気がした。風太さんの聞いている意味がわからない。
「……? どういう事ですか?」
『……ふむ。質問を変えよう。君はさっき、『風子の為』に僕を倒すと言ったな? 何故だ? 『悠久機プロジェクト』の為じゃないのか?』
僕は確かに、この勝負が始まる前の通信で彼にそう意気込んだ。何故ならこの戦いは僕たちだけじゃなくて、風見さん個人にとって大きな意味を持つからだ。
風見さんが精神的に不安定になっていたのも、得体の知れない『劣等感』に縛り付けられているのも、全ては風太さんが原因だった。だから、僕は風見さんのために、その兄を打ち砕く。
……だけど、このことをワザワザ敵に教える必要もないだろう。
「……そんなことどうでもいいでしょう?」
『どうでもよくはない。それは本当に大切な事なんだ。僕にとっては』
いつにない、真剣な声音で風太さんが聞いてくる。その雰囲気は今までのように人を見下したようなものではなかった。
『僕だって、僕だって風子が『過去』に縛られているのは知っている。だから、僕は風子を救いたいと思ってるんだ。僕ならできる。いつだって、僕は風子のために道を作り、標となってきた。そのためにあの子をRWに誘って、一緒に上を目指してきたんだ……』
「……」
『でも、風子は僕から離れてしまった。そしてあろうことか君はそんな風子と仲良くなって、他でもない僕を打倒するために協力しているときた!』
そう言う風太さんは少し苦しそうにしているように感じた。怒っているのか、悲しんでいるのか、よくわからない声音だ。そして気を取り直すように小さく溜め息をついた。
『全く笑えないよ。どうせ君は僕のことを共通の敵として風子を煽っているんだろう? 僕が一番の彼女の味方だっていうのに!!』
その問いに僕は答える事ができない。何故ならば余すところなく彼の言う通りだから。
でも彼は間違っている。彼が風見さんを助けようとすればするほどそれは逆効果で。
つまり彼は何もわかっていないのだ。結局はそれが自分のエゴを押し通す為の行為だってことにも気付いていない。
『……もう一度聞く。君は風子にとって一体何なんだ?』
その言葉には深く、複雑な思いが込められているような気がした。だけど、僕はその問いの答えを持っていない。そんなこと僕じゃなくて風見さんに聞いてほしい。
「よくわかり、ません。でも、僕は風見さん、風見風子さんの事は心の底から凄いと思っています。……あなたよりもずっと、ずっと」
『……それは風子は知ってるのか?』
「……? えぇ。それがなにか?」
そして何かを考えるかのように少しだけ間が空いたあと、風太さんは小さく溜め息を吐いた。
『ふむ。なるほどな、それが本当だとしたら、通りで風子が君を気に入るわけだ』
「は? 気に入る? そんなわけないでしょう? 自慢じゃないですが、僕は彼女の部下ですよ?」
僕は風見さんの手下以上でも以下でもない自負がある。もし多少でも気に入ってくれていたのなら、もう少し労ってください。
『ははは、君は本当にめでたい人だな』
「……」
『……うむ、わかった。やはり君は想像以上に危険な男だ』
「は? 何でですか?」
『君は風子を縛る『鎖』を直接砕こうとしている。僕には決してできない方法でね。でもそれは困る。風子は僕の物だ。君には渡さない』
「一体何の話を……!」
と、僕が苛立ちから声を荒げた瞬間、通信機からまるで研ぎ澄まされたナイフのように鋭く、冷たい声が届いてくる。
『この勝負の内容に、君が金輪際風子に近づかない、も追加しておけばよかったかな。風子に君みたいな得体の知れない虫がつかないように』
そして次の瞬間、僕の背中にいやな予感が走った。これは『悪寒』だ。そう表現するしかない感覚が僕を襲う。恐らくこれは経験からくる警告だろう。
次の瞬間、僕はほとんど反射的にレバーを横に倒し、機体に回避運動をとらせた。『土竜』はビルに体を隠すように身を寄せたが、慣性に振り回される気持ち悪さを感じる間もなく、轟音とともにアスファルトが吹き飛んだ。
攻撃は後ろからだった。僕は体勢を立て直しながら、機体のカメラを後ろへと向けた。
後ろから攻撃を受けたということは、回り込まれたってことだ。そんなバカな……! 一体どうやって……?
『今のをかわすのか……。君は後ろにも目がついているのかい?』
そして頭を働かせる僕の目の前に、粉塵の先に堂々と佇む敵の『風見製人型戦車』の姿があった。
確かにそれは、原型は『皇帝』そのものだった。もともと足があったところを変型して履帯に換装する所や、頭に付いた『風見砲』も健在だ。
だがそれ以外は大きく変わっていた。
まず敵の全身は市街地戦に適した黒と白のデジタル迷彩に包まれていて、遠距離からの視認性を低下させている。また、背中に背負うようにマウントされた大きな砲、あれはたぶん曲射用の砲塔だろう。
さらに左腕は肘辺りからガトリングに変更されていて、明確な『手』が廃止されている。右腕は進路確保用であろう大きなチェーンソーがマウントされている。
可動域を確保しているであろう右腕チェーンソーと比べて、ガトリングを装着している左腕はまるで包帯でも巻いているかのように、外から見た限りでもガチガチに固定されている。たぶんあれくらい固定しないと武器の反動を殺しきれないのだろう。
『顔』にあたる部分も大きく変更されていて、そこには主砲以外に、狙撃用の遠距離レンズと、通信機の為のアンテナ、副砲である銃座が備え付けられているだけだった。
それは『人型』からはかけ離れた様式だが、確かに規格は『悠久機』のそれと同じだった。
大口径の腕部ガトリング一門、頭部戦車砲一本、頭部副砲に曲射用大型大砲の計四つの攻撃手段を持つ対拠点用機動兵器がそこにはあった。
そして敵の『機動兵器』は頭部主砲から煙を吐いたまま、まるで僕を睨み付けるようにこちらを見つめていた。
『どうだい『悠久機プロジェクト』。これが僕の、いや、『風見鶏騎士団』による初の『風見製人型戦車』、『風見ティーガーⅠ(ファースト)』だ』
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じ、地震だぁー! これを投稿しようとしてると大きな地震が起きました。皆さん大丈夫ですか。私は地震と飛行機が苦手なので、地震は消えて無くなれと思ってます。飛行機はなるべく乗りたくないです。




