『殺人的な加速作戦』
『ふぇありーさん。もう少し静かに歩けませんか』
「いや無茶言わないでよ……」
『土竜』は索敵の為に町中を闊歩しているが、その歩く際に発生する音が尋常ではない。もしこのステージに住人がいるならば、道路を破壊しながら進む『悠久機』に嫌悪感を抱いたことだろう。
路面を踏み抜くということはないものの、一歩歩くごとにアスファルトはめくれあがるかのように砕け散る。すいません工事の人。
「索敵網に敵はまだ引っ掛らないの?」
『はい。敵が移動しているなら計算上そろそろ見つかるはずですが、見つからない以上こちらの予想通り、移動に苦戦しているものと推測されます』
『商業地区』は視界が良いようで悪い。道路上ではそれなりに遠くまで見えるが、基本的に視線はビルに遮られるため、遠距離まで視認することはできない。
この点に関してはこちらの思惑が外れたと言えるだろう。また『高所』という利点も機動兵器は活用しずらい。
一応この場所にも『高架』が存在しているが、僕たちには利用できないからだ。それの一番の理由としては、そもそもアスファルトを砕きながら歩いている時点で、『踏み抜く』可能性があることが上げられる。
以上の理由から、敵の機動兵器もどこかその辺で待ち伏せしているのではないかと考えられる。
あの規格の兵器が待ち伏せできそうな箇所はなんとなく想像がつくけれど、相手は『風見鶏騎士団』だ。油断はしないに越したことはない。
そして『土竜』を遮るように、幾多の電線が重なった箇所が見えてきた。このままでは進めない。
「電線密集地を確認。『風見棍』使用します」
『了解。周囲に敵の姿がないか確認しながら作業を行ってください』
そして僕はレバーを操作し、機体の右腕に沿うように装着されている棍棒をその手に持たせる。これは自動制御の一貫だからボタン一つで行えるし簡単だ。
で、機体は右腕をそのまま降り下ろし、僕はブチブチと激しい音を立てながら電線が引きちぎれていく音を聴く。
そうして進路を確保すると、慎重に索敵を行いながら進んでいく。一歩ずつ踏みしめるかのように、いや実際には踏み潰してるんだけど、『土竜』は確実に前へと歩く。
ーーーーーーー
そしてさらに歩くこと数分。『土竜』が歩く音だけが閑散としたビル街に響き渡っていた。
まだ歩いてしかいないのに何故か左足に応力が集中していて、すでにモニターに示すセンサーから故障の兆候が検出されていた。なんでだよほんとに。設計者出てこい。
……それはさておき、この静けさはなんだか変だ。。ていうかどう考えても変だ。そろそろ敵の出撃地点に近づいていてもおかしくない頃合いだ。なぜ敵の姿が見つからない。逃げた? 隠れた? 機動兵器で?
『……ふぇありー。何か嫌な予感がするわ』
「奇遇だね風見さん。僕もだよ」
これまで以上に慎重に、またゆっくりと前へと進んでいく。
僕は待ち伏せに適した場所は全て把握している。そこを確実に抑えながらここまで来たんだ。それでも出会わなかったってことは、敵は待ち伏せを行わずに移動しているということになる。
でもそれならばいずれにせよ僕たちと出会っているはずだ。なのにも関わらず視認することができなかった……?
嫌な予感が僕の胸中に渦巻いていく。気持ちの悪い緊張感が走り抜けて行くような感覚に、僕は背筋に冷や汗が流れるのを感じた。
『……ちょっと待って。あれはなに?』
「あれ?」
『あのビルに取り付けられている……』
と、風見さんに言われるがままビルに視線を向けると何だか機械らしきものがその一角に備え付けられているのがわかる。
なんだあれ? あんなのあったっけ?
『あれは……監視カメラ、ですか? あんなところにカメラなんてありましたっけ?』
「いや、なかったと思うけど……」
『……っ!? ふぇありー! そこから離れなさい! 早く!! 引き返して! ワナよ!!』
「は? ワナ? そんなものどこにも……」
風見さんの切羽詰まったような声は、『土竜』の歩みを止めた。
結果的に風見さんの判断は大正解で。『足元』ばかり見ていた僕は、敵の『攻撃』に気づくことができなかったんだ。
『上よ!!』
そして次の瞬間、『土竜』の目の前の道路が爆発した。
「っ!? なに!? 地雷!?」
『だから上よふぇありー!! あいつら曲射砲を撃ってきてるわ!! すぐにそこに次弾が来るわ! はやく逃げて!』
曲射砲。弾頭に放物線軌道を描かせ、対象を空から攻撃する砲のことだ。もちろん攻撃の際には敵の正確な位置と、空中の状態の精密な計算が必要となるため、敵を直接狙う直射砲に比べ精度はどうしても低くなる。
その精度の低さが幸いしたのか、『土竜』は対して損傷を負うことなく動き出す。
僕は即座に機体を反転させ、機体を移動させる。その急な動きにコックピットがシェイクされるが、そんなこと気にしてはいられない。
そして訪れる、再び機体を叩いたような爆音。
まだ撃ってきている。精度が低い分は数で対応しようという作戦だろうか。さっきより近くに着弾した。
「くそっ! 東藤さん! 敵の位置はわかる!?」
『弾頭を視認してください! 角度から計算します!』
くそっ! そんなこと当たり前じゃないか! なんで僕は風見さんの言葉に素直に従わなかったんだ!
自分の行動に後悔しながら、僕は機体のカメラを上に向ける。すると、何か光るようなものが上から落ちて来るのが見えた。
次の瞬間、それは弾けるように分裂し、まるで光の雨のように空から降り注いでくる。
『あ、あれは『クラスター弾』です! ふぇありーさん! ビルの陰にに避難してください!』
「もうやってるよ!!」
クラスター爆弾とはその厄介さからも国際条約では禁止されている爆弾だ。大きな弾頭を打ち出し、途中で複数の子爆弾に分かれ、地上を広範囲に渡り爆撃する。
敵味方が入り交じるBWの戦場では味方を誤射してしまう可能性からあまり使われることはないんだけど、今回に関しては完全に盲点だった。
「くっそぉぉぉ!!!」
機体は走行モードで近くに見える一際大きなビルの陰に向かって全速力で走っている。だけどコックピットはまるでミキサーのように揺れ、自分がどの方向に走っているのかもイマイチわからない。
機体の損傷を示すゲージがオレンジ色に光る。どうやら今の衝撃で足首にダメージを負ったみたいだ。
そして爆弾の一発目の着弾音とほぼ同時にまるで体当たりでもするかのように、ビルの陰に身を潜める。
これで射線からは隠れた。あとはビルが盾の役割を果たしてくれることを祈るだけだ。
続いて巻き起こる鼓膜を叩き潰すかのような爆音と閃光が僕と機体を襲ってくる。
『ふぇありーさん! ふぇありーさん! 大丈夫ですか!』
機体の姿勢を落として衝撃に耐えながら、僕は東藤さんに答えるために機体の状態を確認する。
ビルの残骸が機体に降り注ぐが、爆弾に比べればどうってことはない。あ、目のライトが壊れた。どうでもいいけど。
「こちらふぇありー! 左足間接部に軽度の損傷発生! 足を捻ったみたいだ! あとアイライトが壊れた!」
『了解です。その程度で済んでよかったです。先程のメインカメラの映像から、敵の砲撃位置の予測範囲を計算しました。そちらに送ります!』
そしてモニターに表示されているマップに、敵の予測位置が赤い点で示される。場所はマップ範囲の隅の方だ。
こんなところにいたのか。こんなマップの端にいたら、中心部をいくら目を皿のようにして探したって見つかりっこない。
「敵の予測位置確認! 反撃するよ! 『土竜』移動開始!」
そして僕は再び機体を立ち上がらせ、敵の予測位置へと向かって移動を開始した。もちろんさっきのルートは使用しない。敵のカメラに写らないよう細心の注意を払いながら、僕は来た道を引返し始めたのだった。
クラスター弾が国際条約で禁止されてるのは、その性質上多数の不発弾が生まれてしまうためだったりするらしいです。たぶん。嘘だったらごめんなさい。




